真行草2 | ejiratsu-blog

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人は何を考え(思想)、何を為し(歴史)、何を作ってきたのか(建築)を、主に書いたブログです。

(つづき)

◎民家の生活様式

 日本の民家(上層庶民の農家)や町家には、住宅建築の歴代の生活様式の3者が共存しており、それらは竪穴住居が起源の土間、寝殿造が起源の板の間、書院造が起源の畳の間で、いずれも日常生活(ケ)の領域から儀式(ハレ)の領域へと徐々に展開する構成となっています。
 民家では、南側が2間続きの畳の間(座敷)、そことつながる北側が板の間(広間と寝間)、座敷と広間につながる脇が土間となります。
 一方、京町家では、道側が畳の間(店)、中央が板の間(広間)、奥(庭)側が畳の間(座敷兼寝間)で一直線につながり、それらの脇を道から奥まで土間(通り庭)が貫通し、江戸町家では、道側が土間(店)、奥側が板の間(広間と寝間)や畳の間(座敷)です。
 まず土間は、竪穴住居での石組の炉の役割がカマドへと移行したので、風雨から火を守ろうと壁で囲うために閉鎖的で、天井は張らず、寄棟屋根には煙出しがあります。
 つぎに板の間は、寝殿造での就寝以外の生活全般を執り行う空間(身舎/もや)の役割が広間へ、就寝(塗籠/ぬりごめ)の役割が寝間(納戸)へと移行し、いずれも可動の家具等で対応しますが、住人が取り囲んで調理しながら食事できる囲炉裏だけは、竪穴住居での土間から一段階アップしました。
 さらに畳の間は、書院造での客間の役割が2間続きの座敷へと移行し、天井を張り、床の間・違い棚・付書院等の座敷飾りが造り付けられ、縁をはさんで庭と開放的に連続しています。


◎庭園

 庭園の形式は主に、整形式(フランス式)庭園と風景式(イギリス式)庭園に大別できます。
 整形式庭園は、西洋のルネサンス期からバロック期にかけて生み出され、木・石・水等の自然物を幾何学的に加工し、見通しのよい軸線とそれらが集中する拠点による構成とする一方、風景式庭園は、自然を模倣したり、その特色を凝縮して構成します。
 日本では、古来から風景式庭園がほとんどでしたが、キリスト教宣教師の布教活動とともに、整形式庭園の一部が取り入れられましたが(桂離宮がその代表です)、その直後の鎖国の影響もあってか、全部を受け入れた実例はなく、本格的な導入は近代以降となりました。
 しかし、整形式庭園が全面的に導入されなかった理由は、すべてを構築の意志によって静的に調和させる絶対性・永遠性を敬遠したからで、日本の庭園は自然と一体化することが前提なので、絶え間なく変化・相対化された要素で、動的な均衡を追求することが美の本質です。

 日本の(風景式)庭園を成立過程から読み解くと、主に浄土式・寝殿造系・書院造系に分類できます。
 浄土式庭園は、阿弥陀仏がいる西方の死後の世界(極楽浄土)を実現しようと、東向きの本堂と蓮池を中心に構成し、寝殿造系庭園は、貴族の住居の南庭に行事や遊宴のための池や築山を配置しました。
 書院造系庭園は、武士の住居の前庭が、寝殿造や仏教(禅)・茶室の露地等の影響から発達し、回遊式庭園へと展開しました。
 しかし、いずれも西洋の庭園のような物の美を享受するよりも、心の美に到達することが目的なので、日本の庭園は具象から抽象へと進行し、宗教(神道・仏教)的な性格が強化される傾向にあります。
 古代の寝殿造は、貴族の祭祀(遥拝・四方拝等)儀式の舞台なので、その庭園では各地にある自然の名所(和歌も儀式のひとつで、主にこれまでに和歌で読み詠われた場所)を圧縮して模写します。
 また、衰退しつつある貴族の浄土教建築は、永久の命(空間)と無限の光(時間)をもち、それによって往生・成仏させてくれる阿弥陀如来を安置するので、その庭園では極楽浄土を想像して現実化しますが、寝殿造系・浄土式庭園のいずれも永遠の表現で、そこでは優美さが追求されます。
 さらに、中世の書院造が誕生する前後の時期に、武士の教養として禅や茶の湯等が取り入れられ、その庭園にもそれらを反映して無常の表現も導入されるようになり、この段階で表現が自由化され、庭園の形式を選択・折衷することが、美に直結するようになります。
 逆に近世では、過度に行き過ぎた無常の反動として、綺麗(きれい)が流行しますが、ここでも物の美にむかうのではなく、あくまでも心の美が主題で、真行草は心を物へ落とし込む際の表現手段といえます。
 ここで、庭園を真行草に対応させると、自然を写実的に表現すれば真、象徴的に表現すれば草、その中間的な表現は行で、草の極致には、石・砂等で自然の山や水を表現した枯山水があります。
 枯山水での石・砂は、自然が滅び尽きて死んだ無の状態で、そうなってはじめて永遠不死不滅が獲得でき、平穏で安定した心境となるという美があります。

 真行草は全体にも部分にも適用でき、例えば苑路の敷石では、構成要素の石材の種類に幾何学的な形状の切石と自然のままの野石があり、配置の指標は石と石の間の距離とします。
 そうすると、整形した石材を敷き詰めた切石敷(きりいしじき)は真、 切石と野石を混用させるか野石だけで帯状に構成し、直線と曲線が混在する延段(のべだん)は行、野石のみによる飛石は草となります。
 そこでの石と石の間の距離は、切石敷は目地程度、延段は向かい合う石どうしの輪郭ができるだけ平行になるように配置しつつ、野石を使用するので多少間隔が必要で、飛石は人の歩く幅が基準になります。

(おわり)