高階貴子さま(伊周の母)は「今こそ中宮に助けて貰いましょう」なんて絶対に言っちゃいけなかったんだ | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

今週、いちばん「残念だった」のは、このひとですね。

伊周でしょ? いや、それ以上にダメだったのは、お母さんでしょう、高階貴子さん。

「まだ誰が射たか、分かってないのでしょ?」

言いもいったり、第一声がこれですか? 黙ってて、バレなきゃいい、知らんぷりしろって、自分の子供が何歳だと思ってるんですか?

「今度こそ、中宮に助けて貰いましょう」

駄目ですって、それが一番ダメなんですよ。

伊周が「ああなった」のは、父親の教育の失敗だって仰るかたも多いですが(私もそう思いますが)、それ以上に、このお母さんの「褒めて育てる」「甘やかし放題」「自分勝手肯定」が、決定的にマズかったんじゃあないでしょうか。

兼家と道長は、ともに「三男」です。権力欲の強さには差はあるものの、どちらも、生まれだけでは何者にもなれない。兄弟や一族との熾烈な競争に勝ち抜かなければ、地位は掴めなかった。苦労をして、這い上がって、トップに立った。とっても似ています(と言われると道長は嫌がるでしょうが)。

それに比べ、道隆と伊周は、ともに「関白の長男」です。こちらも、とても似ています。親の威光だけで今の地位につけた。苦労を知らずに育ったから、世の中は何でも思い通りになると思って生きて来た。だから、ちょっと危機に陥ると、もう、どうしていいか分からない。

さて、貴子さまは、夫の道隆と物凄く仲が良かった、というふうに、このドラマでは強調されていましたが。

このひとには、夫に「欠点」なんかないと信じてた、その人格の危うさが全然見えていなかった、だから息子が同じように育つことにも、疑問も持たなかった。だって、いままでそれで上手くいってたんだもの。

でもね、「中宮に助けて貰いましょう」は、絶対に言っちゃあいけないかったんですよ、それだけは、やっちゃあ駄目だ。

どうして? 中宮定子は帝に寵愛されているんだから、ここぞっていう時に頼るのは当然じゃない?

違うんです。

道隆なきあとの「中関白家」は、中宮が帝に寵愛されてる、その一点だけで、辛うじて今の地位を保ってるんです。

もし中宮が帝から遠ざけられたら、失脚したら、もうおしまいなんです。

その想像力が、ないんですよね。亡き道隆の「えこひいき、ごり押し人事」のおかげで、一家揃って宮廷で嫌われているってことを、ぜんぜん自覚してないんです。

だからこそ、不祥事を起こしたとて、中宮だけは巻き込んじゃあいけないんですよ。

母親として息子たちに言うべきなのは「大事になる前に、すぐに帝の所に行って、謝ってしまいなさい」のはずです。そうすりゃあ、兄弟のある程度の処罰は仕方ないとしても、中宮に類が及ばずに済んだはずです。

ところが、グズグズとしてるうちに、あらぬ呪詛の嫌疑までかけられて、どんどん状況は悪くなっていく。

最悪なのが、捕縛を恐れて、中宮がいる屋敷に逃げ込んで、立て籠ってしまったことです。これは、最悪のうえにも最悪です。

定子だって、兄と弟が逃げ込んできたら、そりゃあ、庇っちゃうでしょう。

そうなると「共犯」ってことになっちゃうんですよ。

検非違使たちに屋敷を囲まれて、散々世間に恥を晒してしまった。

帝だって、いくら中宮が可愛くても、これを許したら、楊貴妃の一族を贔屓して国を傾けた玄宗皇帝になっていまうんです。

一条天皇は「名君になりたい」人なんです。

中宮の屋敷には踏み込めまい、と思ったなら、甘すぎます。帝は、中宮の親戚を依怙贔屓で助けた、やっぱりな、とは絶対に言われたくない。

だから「中宮の館であっても容赦せず、踏み込め」と命令するに決まっているんです。伊周も、貴子も、完全に帝という人を読み違えています。

ついに、中宮の屋敷が検非違使どもに踏み荒らされる、という最悪の事態になってしまいました。

しかし、定子さまも、やっぱり道隆と貴子の娘です、危機に弱すぎる。

結果、中宮はパニックになり、追い詰められて髪を切ってしまった。つまり「出家」ですね、私は帝の后をやめます!って言っちゃったってことになるんですよ、あの髪切りは。

これで、中関白家はジ・エンドです。これ全部、貴子さまの教育の失敗の結果です、って言ったら、ホント気の毒なんですけどね。