「オッペンハイマー」の感想を。改めて書きます。
バルト9の「ドルビーシネマ」で観ました。
爆破実験の音がドーンと来る瞬間も震えたけど、万雷の拍手ならぬ足踏みの音が押し潰すように降って来た時は、ほんと怖い映画だこりゃ、と実感しました。
相当に質の高い映画であることは間違いありません。映画マニアほど喜ぶ作りでしょう。
「原爆反対、核兵器反対」みたいな言葉のメッセージは一切ない。
原爆被害者の悲惨さを直接に描くことをせず、悪魔を生んでしまった人間の苦悩の演技でそれを見せる、というのは、高等テクニックです。
それだけに、観客にかなり高度なリテラシーを要求する映画でもあるんじゃないでしょうか。
この映画から「核兵器は駄目だ」というメッセージを読み取らない(読み取れない)観客も、実際、多いんじゃないか、と思われます。
言い方は悪いですが「観客の大部分を置いてきぼりにする映画」ですね。
こういうのって、どうなんだろ。
あらかじめ「登場人物が多いし、それが説明なしに出てくるし、時系列もバラバラだし、ある程度の予備知識と『覚悟』を持ってみないと分からない映画だ」とは聞いていたので、そこらのユーチューブ動画から「ネタバレなし解説」というのを幾つも観てから、劇場に行きましたが。
やっぱり、最初のうちは、今、何をやっているのか、なかなか理解できなかった、正直に言って。
もしかして、現代史の知識があるアメリカの観客には、周知なことだから説明するだけ野暮、なのかも知れないけど。
世界の大衆を意識するなら、やっぱ、もう少し「庶民に優しく」作ってくれないものかなあー、というのが正直な感想です。
たとえば冒頭に近い、窓から庭の向こうの湖畔に「例のヒト」を見付けるシーン。
「どうして彼をマンハッタン計画に加えなかったのかね?」
「彼の論理はすでに古いからだ」
ここだけ聞けば、これはもう第二次大戦が終わったずっと後の事だと分かる。
とはいえ「そんなの誰でも分かるだろ」というほど、みんな理解できるだろうか。だってこれ「主人公が、これから原爆を生み出す、という映画」だと思って見に来てないか?
主人公が、湖畔の彼の近くによって会話する、こちらを向くと、ああアインシュタインだ!
ここで、彼と「どういう会話」が交わされたかは、ここでは明らかにされない。それを「誤解」した敵役が、主人公たちに愚弄されたと思い込む。これがドラマの動因になる。
なるほど、分かってみれば、上手い。
でも、そんなことは、素手で映画館に来た観客には、絶対に分からない、と思う。
この「種明かし」がラストにあるんだよ、ってことが分からないと、つまり最後まで頑張って観た後でないと、この映画が「何をやってきたのか分からない」。
だから2回、3回見なくちゃ分からないんだよ、というほど、一般大衆は暇でも我慢強くもない。何度も3時間の映画を繰り返し見てくれる「映画エリート」だけを対象にしている、かのようなツクリって、どうなんだろうな、と思わざるを得ない、わけです。
私は、この映画を見に行くなら、まず「ネタバレ解説」をいくつも観てから行ったほうがいいよ、と言うと思います。
1回の鑑賞でカタルシスを貰えない、というのは、やはり、どうなんだろうな、と思うわけです。