「カルメン」、現代米国への翻案が効果的ETはいつも「現代世界の問題」をテーマにしている。 | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

METライブビューニング「カルメン」の話を、今更ながら、書いておきます。もう東劇でも終わるか、遅くてすいません。

https://youtu.be/SuGsHFFTlAk

流れる曲をほとんど知っている! というのは俺にとって感動的だ(笑)。大抵のオペラでは、中でいちばん有名な曲がひとつ出てくると「ああこれ知ってる!」と喜んじゃう程度の男なんだけど。これは大昔、試験勉強のときにエアチェックしたテープをエンドラスで流してたからな(なんか遠い思い出)。

そういえば昔、ヤマハホールで、広田豹演出、秋川雅史さんなど出演のイベントを観て(家族を連れて行ったっけか)、あれでストーリーと作品思想のあらましが分かった。

カルメンは「ロマ」(ジプシー)なんだけど、彼女に誘惑されて軍を脱走し密輸団に入ってしまうドン・ホセも、バスク人、つまりマイノリティだってことで。この「異邦人同士の共感」が、ドラマの大筋になっているわけだ。

で、このMETのカルメンだけど。舞台が現代アメリカになってる。歌詞(台詞)はそのまんまで(闘牛がロデオに変わってるだけ?)、まったく違和感なく現代劇として成立しているところが凄い(ロデオがいまそんなに人気あるか?ってとこは、まあ、さておき)。

タバコ工場は、どうやら明らかに軍需工場で、カルメンたちはそこで働きながら、物資を横流ししてメキシコ国境の向こうに密輸しているんだけど、明らかにラテンアメリカ系の移民だ。そしてそれを監視している兵隊たちは主に白人なんだけど、ドン・ホセを探して訪ねてくる娘も、アフリカ系の歌手が演じてる。

ホセ自信もたぶんWASPではない、ラテン系か東欧系の移民の子なんだろう。つまり「ウエストサイド・ストーリー」みたいな、アメリカの深部の話になってる。

いままで観てきたMET(メトロポリタンオペラ)ライブビューイングで上演されてるオペラは、例外なく「現代アメリカの抱える問題」を、全く臆することなく前面に押し出した演出がされているんだ。民族問題、国際紛争の悲惨と愚劣。

どんな古典でも、神話を基にした物語でも、必ずそういう視点を持ち込んでくる、そこが凄い。

だから、この「カルメン」が、今こそ上演すべき演目だっていうのも、よく分かる。

軍需物質を盗んで疾走するトラックの、荷台の中でカルメンたちが歌い踊る場面の光演出とか、ロデオ会場の観客席とスタンド裏を回転舞台で切り替えるところとか、舞台演出としてすごく面白い。