「梟(ふくろう)」 の、完全ネタバレの感想を書きます。 | えいいちのはなしANNEX

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「梟(ふくろう)」 の、完全ネタバレの感想を書きます。
できるだけ、映画観てから読んでください。

これは映画として、文句なく面白かった。主人公の設定が秀逸です。「盲目」の鍼医師が、何故「目撃者」たりうるのか、という疑問が、序盤からちょいちょい挟まれる「ぼんやりした映像」でほのめかされる、これは文章の推理小説では出来ない、「映画」というメディアの特性を利用した、ものすごく上手い手です。なるほど、だから「梟」なのか。
韓国の歴史には詳しくないので、元になった史実をよく知らないことと、何より「鍼治療、万能すぎ!」というのが妙におかしい。
医術といえば何でもかんでも鍼、名人が鍼さえ打てば大抵の病気は治っちゃう、という「この世界の特別ルール」がちょっと現実離れしているような気がして、史実を基にしているというより「魔法アリ」のファンタジー世界を見ているような気分でした。
しかし、そうだとすると、「正義は必ずしも勝たない、これは史実だから仕方ない」という結末が、なんだか悲しいんですよね。

鍼の名人?が主人公、というと「必殺仕事人」をつい想起してしまいますが、この映画でも同じように、ラストで主人公が巨悪(ラスボス)を鍼で成敗して、恨みを晴らす、という結末ですが。
これは全然、めでたしめでたし。というものではない。
主人公にあんなに良くしてくれた「世子」が殺された。主人公はその現場を「見て」しまった。ならば主人王はせめて、その真相を知りたい、敵を討ちたい、という「世子妃」とその息子を、全力で味方して守ってやる、というふうになってこそ、と思うんです。
普通の娯楽映画の主人公なら、そうしなきゃ駄目でしょう。しかし、この主人公は、実際はとっても弱くて、卑怯ですらある。
そもそも最初から「嘘をついて」宮廷に出入りしている人物です。恩人の死の真相は告発はしたいが、自分の身が危うくなるのは嫌だ。だから土壇場で世子妃を裏切ってしまい、結果、この世子妃は無実の罪で殺されてしまう。史実ならじょうがない、という気分にはなれませんでした。
ずいぶんあとになって、巨悪をっ殺したって、それ、もう手遅れってやつでしょう。
もちろん、主人公が単純なヒーローでない、「弱くて卑怯な人間」であることこそリアルであり、そのほうが物語として深みがあるってことは認めます。
面白い、いい映画です。
だからこそ、史実を変えてでも、なんとかならんかったかなあ、って、観終わってもずうと思ってるんですよね。