藤原兼家の透明烏帽子の謎と、円融帝の華麗なる憂鬱(または、君は自分に毒を盛る男の娘を愛せるか?) | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

「光る君へ」第二回で私が最も注目したのは、この映像です!
帝の食事に毒を入れろ、と息子に命じる父親、いやあ、何がびっくりしたって。
烏帽子の中って、こうなってたんだ!
「いいネ!光源氏くん」の千葉雄大くんは、寝ても起きても、何があっても絶対に烏帽子を脱がなかったじゃあないですか。
貴族は絶対に素の頭を見せないって、見られたら死んじゃうくらいの勢いで、まるでオバケのQ太郎みたいだったじゃあないですか(すいません余りに譬えが古くて)。
逆光ですよ、透けてますよ!
ちょんまげだ、親子揃ってちょんまげだ!  それ、そんなに見られたら恥ずかしいものなんですか?
・・・いやいやいや、そんなことはどうでもいいっすね。
帝に毒を盛るって、尋常な話じゃあありません。そこまでやんなきゃ、権力を維持できないのか?
今更ですが、系図作って整理してみました。
 
兼家は、娘の詮子を天皇に嫁がせて、めでたく子供ができました。この子が天皇になれば、祖父である自分は権力の絶頂です。
次の天皇は、先帝(冷泉天皇)の息子(東宮師貞親王)に決まっている。しかし幸い、東宮はとんでもない愚か者だってことは、まひろの父に探らせて分かった。
 
だから、なるべく早く今の帝には退位して貰って、順番を早く回して欲しい。
ところが円融天皇は、ここでライバルの関白頼忠の娘を「中宮(皇后)」にしてしまった。さあ大変だ、もしこの娘(遵子)がこれからでも男子を産めば、そっちに天皇位を取られてしまう。
だから兼家は焦ったんですね。遵子が万が一にも懐妊しないように、天皇の身体を弱らせたい。しかし死んでは困る、そうなると重石がなくなった師貞新天皇は、自分の息子に皇位を継がせようとするだろうから、詮子の息子のメがそもそもなくなってしまう。だから、今の帝には、生きていて貰わなければならない。
結構、際どい端を渡ってるんです、兼家も。
 
(以上が史実としてどうか、というのではありません、このドラマ限定の、考察です)。
 
さて、そんなことで、兼家が自分を邪魔に思っている、早く辞めさせたがっている、というくらいのことは、円融天皇にも伝わらないはずがないんです。
検非違使がどうの盗賊がどうの、という会議で、兼家が発言するたびに、円融天皇はものすごい渋い顔をしていました、やけに目つきの悪い天皇だなあ、と思ったものですけど。
考えてみれば、自分を辞めさせたがっている男にスバスバ言われて、しかも正論だから従うしかない。こんな屈辱がありますか。
 
そう思うと、蔵人頭ロバート秋山の「ワシは右大臣が好きではない、好きではないが、言ってる意見は正しい。好きではないがな!」というあのギャグのような台詞、あれは天皇の側近ナンバーワンの実資が、天皇の気持ちを見事に代弁しているわけです。
どうしても好きになれない、でも実力あるから逆らえない、憎っくき右大臣兼家。その娘である詮子のもとに、通う気が失せるのも、人間として当たり前でしょう。
そりゃそうだよな、と一晩寝て起きて、ようやく円融天皇の鬱屈した気持ちが分かってきました。
娘を嫁がせる時はあんなにチヤホヤしていたのに、息子が生まれた途端に邪魔者扱い、もうあんたに用はないから早く退位しろ。馬鹿にするにも程があるでしょう。
この屈辱感の復讐を、兼家本人ではなく、弱い立場の娘にぶっつけてしまっているわけです。
この天皇酷すぎる、クズだ、とあんときは思ったけど。
こんだけ男がコケにされたら、そりゃ爆発しますよ。
人間の心がない、と言ったのは、撤回します。心が、ありすぎるんですよ。この帝には。