Barで過ごすひと時を・・・ with 小説『営業SMILE』 ~君の笑顔信じてもいいですか?~ -499ページ目

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『営業SMILE』 第一章 連載.33

「お客様一名。亜由美さん指名で入ります。お席の準備よろしくお願いします」

 

携帯で店に準備を依頼する黒服。非常に手際がいい。仕事のできる男だ……ではなく。

 

「ちょっと待て。俺今日は用事があるし。だれもローズに行くなんて言ってないぞ?」

 

「えっ?だって亜由美さんが……」

 

「今も家に帰るところだったの」

 

「でもここ片町ですよ?本当は来る予定だったんですよね?」

 

「俺の家、犀川大橋を渡って十五分だもん。ここは通勤路だよ」

 

黒服とは言ってもまだまだこいつは下っ端。店に連絡を入れてしまった手前……というより、指名連絡を入れた相手が悪かったのだろう。本気で困った顔をしている。

 

「雄司さん……一昨日も来てくれましたもんね。今日は流石に無理なんですよね……」

 

街宣としての駆け引きではなく、その表情や言葉には演技の一つも見られなかった。ここで引き止めて店に来るよう勧誘しなければいけないのだが、この黒服にはまだそこまでの経験が少し足りない。雄司の性格上、この姿を見てしまってはこれ以上何も言えなかった。

 

「…ワンセットだけな」

 

言葉というものはそれ一つで人の心を陰にも陽にもする力がある。雨上がりの空、雲がはれて日差しが差し込んだ時のように黒服の表情が明るくなっていった。

 

「雄司さん。本当に有難うございます。それじゃあ案内いたしますね」

 

いつも思うのだが、亜由美はこのボーイ君をどのように扱っているのだろうか……。

 

To be continued〕

 

 

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『営業SMILE』 第一章 連載.32

交差点の中心から見て、ドーナツ屋の側にあるのがフェンディーのある十億年ビル。そして今交差点を渡り終えた側にあるのがローズのあるアール・ビルである。

 

交差点を渡った事が失敗だった。

 

直接フェンディーに行っても良かったのだが、詩織がすでに出勤しているかどうかがわからない。彼女はいわゆるレギュラーと呼ばれる正キャストではなかった。昼間も普通に勤めているため、夜はバイトとして店にでている。今日の昼間にメールをした時にも遅くなるかも知れないと連絡が入っていた。だから徹也くんに出勤しているかを確認したかったのだ。

 

行ったはいいが、急遽出勤できなくなった……なんて事になったらかなり悲しい思いをするから。

 

なんて久しぶりにネガティブな事を考えていると、背中の方から不意に声をかけられる。

 

「雄司さん。」

 

声から考えるに今必死に探していた徹也くんでないことはわかる。振り返りたくはなかったのだが、そういうわけにもいかず声がした方向を見ることにした。

 

「やっと見つけましたよ。やっぱり今日も来てくれたんですね」

 

声をかけて来たのはローズの黒服だった。悪い予感が的中する。

 

「……メリークリスマス」

 

「あはは。メリークリスマス。雄司さん。言う相手が違うんじゃでないですか?」

 

「そうだね。確かに違うね」

 

「そんな露骨に言わないで下さいよ」

 

雄司の苦笑いにも気づかず、勘違いしている黒服は元気に話を続ける。

 

「亜由美さんが、『今日雄司さんが来てくれるはずだから、見かけたらお迎えしてね』って言っていたから」

 

俺の店には亜由美の隠しカメラか盗聴器が仕掛けてあるのではないだろうか?

 

否。

 

店の場所や名前は言わないようにしてあるからそれは大丈夫なはずだ。考えたくはないがひょっとして携帯に…?

 

傍から聞くとありえないような馬鹿らしい話なのだが、雄司はいたって真面目にそんな事を考えていた。

 

 

To be continued〕

 

 

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チーフが作りたかったもう一つのカクテル

『営業SMILE』 第一章 連載.31

 今日の片町はいつにも増して人で賑わっている。夕食というには遅い時間だった事もあり、おおよそ屯しているのは男だけで飲みに来ている連中。そしてその男達に店に来てもらおうと頑張っている街宣達。後は出勤の最中であろうホステスや、同伴中のホステス達。カラフルな紙袋を提げている者が多いのは今日がクリスマスの証拠なのか?きっと男達はお気に入りの女性に見返りを期待しながらプレゼントを持っていったり、女性はクリスマスと言うことを理由に欲しかった物をプレゼントとしておねだりしたりするのだろう。

 

様々な邪な思惑が交錯する場所……歓楽街。

 

そんな光景を眺めながら、雄司はスクランブルに到着した。交差点にあるドーナツ屋の前で徹也がいないか見渡してみる。大概この場所にいれば徹也が声をかけてくるのだが、今日に限っては見当たらない。この時間帯に出ていないって事は、結構店が混んでいるのか?

 

「徹也君、どうして今日に限っていないんだ?」

 

しばらくその場所に留まり周りを見渡すがやはり見つからない。そうこうしている内に信号が青に変わり、歩行者が交差点になだれ込む。

 

一箇所できょろきょろとしているのも気まずいと感じた雄司は、なんとなく逆側に渡ってみることにした。  

To be continued〕

 


 

 

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