『営業SMILE』 第一章 連載.32 | Barで過ごすひと時を・・・ with 小説『営業SMILE』 ~君の笑顔信じてもいいですか?~

『営業SMILE』 第一章 連載.32

交差点の中心から見て、ドーナツ屋の側にあるのがフェンディーのある十億年ビル。そして今交差点を渡り終えた側にあるのがローズのあるアール・ビルである。

 

交差点を渡った事が失敗だった。

 

直接フェンディーに行っても良かったのだが、詩織がすでに出勤しているかどうかがわからない。彼女はいわゆるレギュラーと呼ばれる正キャストではなかった。昼間も普通に勤めているため、夜はバイトとして店にでている。今日の昼間にメールをした時にも遅くなるかも知れないと連絡が入っていた。だから徹也くんに出勤しているかを確認したかったのだ。

 

行ったはいいが、急遽出勤できなくなった……なんて事になったらかなり悲しい思いをするから。

 

なんて久しぶりにネガティブな事を考えていると、背中の方から不意に声をかけられる。

 

「雄司さん。」

 

声から考えるに今必死に探していた徹也くんでないことはわかる。振り返りたくはなかったのだが、そういうわけにもいかず声がした方向を見ることにした。

 

「やっと見つけましたよ。やっぱり今日も来てくれたんですね」

 

声をかけて来たのはローズの黒服だった。悪い予感が的中する。

 

「……メリークリスマス」

 

「あはは。メリークリスマス。雄司さん。言う相手が違うんじゃでないですか?」

 

「そうだね。確かに違うね」

 

「そんな露骨に言わないで下さいよ」

 

雄司の苦笑いにも気づかず、勘違いしている黒服は元気に話を続ける。

 

「亜由美さんが、『今日雄司さんが来てくれるはずだから、見かけたらお迎えしてね』って言っていたから」

 

俺の店には亜由美の隠しカメラか盗聴器が仕掛けてあるのではないだろうか?

 

否。

 

店の場所や名前は言わないようにしてあるからそれは大丈夫なはずだ。考えたくはないがひょっとして携帯に…?

 

傍から聞くとありえないような馬鹿らしい話なのだが、雄司はいたって真面目にそんな事を考えていた。

 

 

To be continued〕

 

 

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