Barで過ごすひと時を・・・ with 小説『営業SMILE』 ~君の笑顔信じてもいいですか?~ -500ページ目

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『営業SMILE』 第一章 連載.30

 日中に人出の多いのが香林坊と呼ばれる一角。時代の流れで無くなってしまったが、かつては映画館が幾つか集まったシネマストリートなるものもあった。だが今でもファッションビルや百貨店が幾つも集まり、買い物を楽しむ人々で賑わっている。ある程度の大人の女性が集まるのがこの辺りの特徴かもしれない。

 

片町は言わずと知れた歓楽街であり、夜に人出が多くなる。ここに集まるのは、その日その週の疲れを取る為にお酒を楽しむ連中。お酒といっても色々な種類の飲み方がここには存在するのだが…。

 

香林坊と片町。この二点の中間に竪町という通りがある。その一角を中心として若者が集まるようなショップやカフェが数多くあるのだが、ここは昼間から夕方、夜へとかけて、一日中ある程度の賑わいを見せていた。時間帯によってここにたむろしている連中の層が違うのは面白いところだ。昼間にはストリートミュージシャンが演奏を楽しみ、それを楽しそうに観ているのは中学生か高校生か?まだ幼さののこる連中が流行をもとめて近隣の街や、隣県からもショッピングに訪れていた。夕方近くになると、仕事の後合流したカップル達が食事を楽しんだりもしている。雄司がよくここを通過する夜に到っては、その一角が見せる雰囲気もガラリと変貌を見せ始める。男に女。自分達の生きるスタイルを楽しむ連中。生きるスタイルが見つからずそれを探し、求める連中。そういった若者が夜、この場所に集まる。

 

これが昔から変わらない風景。そんな竪町だが、片町同様最近になってから目立ち始めた連中もいる。

 

黒服と呼ばれる男たち。ただ竪町にいる黒服達は、スクランブルのいわゆる街宣と呼ばれる連中とは目的が違っていた。スカウト。街行く数多くの女性の中からある種の素質を見つけ出し、夜の世界に導く男たちだ。ホステスやキャストの素質しだいで、店の人気、売り上げはいくらでも左右する。素質も磨き方しだいで本当の輝きを出し始める。そんな素質を磨くのも黒服達の仕事。

 

スカウト達は今日も夜への扉を開き、まだサナギである女の子達を中へと導いていた。

 

『今話しを聞いているあの娘達も、しばらくすると蝶のように美しい羽を広げるのだろう……』

 

立ち止まりスカウトの話に耳を傾ける女性達。彼女達はなぜ夜の世界に興味をもったのか?亜由美や詩織にしても、なぜこの世界に入ったのだろう?

 

興味?流れ?仕事がなかった?それとも……ただお金が必要だっただけ?

 

色々な理由があるのだろうが、それを突き詰めようとした時点で歓楽街に飲みに出ることができなくなってしまう気がする。そんな詮索をしないのも、歓楽街に向かう男達の暗黙のルール。

 

雄司は深呼吸をすると、一瞬頭の中に浮かんだその疑問を振り払った。

  

To be continued〕

 

 

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B-52 レパートリー

『営業SMILE』 第一章 連載.29

 外に出たところで見覚えのある顔を見つけた。通称煙草女。いつも喫煙所で一緒になるあの女性だ。昼間見た時とはまるで印象が違って見えたが、まさにクリスマスマジック。誰かを待っているようだったが、その横顔に雄司は一瞬ドキリとさえした。恋をすると人は美しくなれる。誰かが言っていたが、煙草女にとっても今日は特別な日だったのかもしれない。雄司は声をかけることもせず、そのまま歩き出す。

 

キラキラと光るイルミネーション。どこからか流れてくるクリスマスメロディー。街中にはいつにもまして幸せそうなカップル達が目立つ。前までならこの景色に自分の居場所を見つけることができず、窮屈な思いをしていたかもしれない。けれども今日は自分の居場所がわかっている。今一番心が安らぐ時間を感じ取れる場所。詩織がいる小さな箱。雄司は逸る気持ちを抑える事ができず、その歩みは心なし速度を上げていった。 

To be continued〕

 

 

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『営業SMILE』 第一章 連載.28

 午後七時三十分。店舗が入っているデパートはもう閉まっているのだが、後片付けをしたり伝票のチェックをしたりの都合上この時間になる。このビルに入っている店の特性上、他のショップの従業員には比較的若い女性が多かった。となると、当然今日に限っては周りから色付いた会話ばかりが聞こえてくる。

 

「雄司、もう上がっていいわよ」

 

まだ店の掃除は終わっていなかったのだが、母親が気を利かせてくれる。毎日の事だが、最後まで店にいるのは自分と母親。最近は弟の智樹を含めた三人である。父親はというと、今日もクリスマス・プレゼントでも持ってどこかのホステスと食事をしているのだろう。あくまでも想像だけれども……。

 

「あんた、久しぶりに今日は家にご飯食べに来る?」

 

「いや、今日はちょっと約束があるから」

 

母親も気を遣ってくれているのだろう。普段ならあまりそんな事は言わないのだが。

 

「兄ちゃん今日はどこかの飲み屋の娘と約束しているみたいだよ。俺の誘いも断ったし」

 

智樹が本当に余計な事を言った。

 

「雄司。あんた新しいお嫁さんでも見つけに行くのかと思えば。本当に親子そろってうちの男たちと言えば……」

 

「困ったものだね」

 

「智樹。あんたも雄司に聞いたわよ?まったく悪いところばかり父さんに似て…」

 

 

視線が突き刺さるとはまさにこのことだろう。先ほどまでとは明らかに表情の変わった二人を尻目に、雄司は逃げるように更衣室に向かった。

 

「お疲れ~」 

 

 

To be continued〕

 

 

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