ルパート・グールド監督、レネー・ゼルウィガー、ジェシー・バックリー、ルーファス・シーウェル、フィン・ウィットロック、ベラ・ラムジー、ルーウィン・ロイド、ダーシー・ショウ、ロイス・ピアソン、ジョン・ダグリーシュ、マイケル・ガンボンほか出演の『ジュディ 虹の彼方に』。2019年作品。

 

原作は、ピーター・キルターの戯曲「End of the Rianbow」。

 

第92回アカデミー賞主演女優賞(レネー・ゼルウィガー)受賞。

 

 

1968年、歌手のジュディ・ガーランドはふたりの子どもたち、ローナとジョーイとともに小さな店々を巡業していたが、借金を抱えてその日泊まるホテル代にも事欠く生活だった。そんな彼女のもとにロンドンのナイトクラブ、“トーク・オブ・ザ・タウン”での5週間にも及ぶ公演の依頼が舞い込む。

 

オズの魔法使』や『スタア誕生』などの歌手で女優のジュディ・ガーランドの最晩年を描く。ネタバレがありますので、ご注意ください。

 

『スタア誕生』といえば、一昨年レディー・ガガ主演でリメイクもされて僕も観ましたが、これまでに何本も作られている同タイトルの映画の中でももっとも有名なヴァージョンに主演したジュディ・ガーランドの伝記的映画ということで気になっていました。

 

主演のレネー・ゼルウィガーが今年のアカデミー賞でオスカーも獲ってるし、映画評論家の町山智浩さんの作品紹介も聴いていたから、ずっと楽しみにしていた。

※この映画は3月に鑑賞しました。

 

ジュディ・ガーランドの伝記ドラマといえば、過去にジュディ・デイヴィス主演のTVドラマがあって(「ジュディ・ガーランド物語Life With Judy Garland: Me & My Shadows)」)以前BSで放送されたようだけどあいにく僕は観てなくて、残念ながら日本ではDVDも発売されていない模様。90年代に日本でも出版された彼女の評伝も、今では簡単には手に入らない状態。

 

なので、彼女の人生について詳しく知っているわけではないし、彼女が残した歌や出演映画に数多く触れているのでもないんですが、『オズの魔法使』は好きな映画だから、その主演女優であるジュディ・ガーランドのこともずっと関心がありました。

 

『オズの魔法使』より

 

 

 

彼女がLGBTQの人々にとってのアイコンのような存在であることを知ってからは、何十年も前に亡くなった昔の人というイメージではなくて、まるで時代も世代も性別も越えた人のようにも感じられるようになった。

 

ジュディ・ガーランドはなぜゲイの人々から支持され、ゲイ・カルチャーのアイコンになったのか?

 

 

この映画を観る際の注意点としては、やはり“ジュディ・ガーランド”という人物について前もってある程度知っておいた方が映画で描かれたことがより沁み入るだろうということ。

 

幼い頃からひたすらショービジネスの世界で働いてきたジュディ(本名:フランシス)が、まわりの大人たちからどのような扱いを受けていたのか、映画での彼女のあのような姿に至る人生を予習しておくことをお勧めしますね。

 

 

 

でないと、ただのワガママなおばちゃんが駄々こねたり遅刻しまくったり若い男に走ったり、まわりや子どもたちを振り回してるだけのように見えてしまいかねないので。

 

そのどこか破滅的な生き方は、『アリー/スター誕生』で主人公アリー(レディー・ガガ)の夫になるブラッドリー・クーパー演じる歌手をそのまま地でいくようなものだったんですね。

 

でも、彼女がああなったのには理由があったわけで、ラップの人の宇多丸さんが批評の中で解説されていたように、ジュディが契約していた映画会社MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)の共同創設者の一人、ルイス・B・メイヤーが裏で彼女にどんなことをしていたのか、また劇中ではマネージャーのように見える冷たい態度の女性がジュディの実の母親であることなどを知ると、彼女の日常の生活環境や親子関係がいかに劣悪なものだったのかも想像できる。年端もいかない少女を力で支配するボスと娘をクスリ漬けにして眠る時間すら与えずに働かせる毒母(母親の格好が『オズ~』の意地悪な“ガルチさん”そっくりなのが可笑しいが)。ジュディの芸能生活は始まった時から大人たちの欲と醜さにまみれていた。

 

 

 

母エセルとルイス・B・メイヤー、ジュディ

 

『ジュディ 虹の彼方に』主人公のジュディ・ガーランド、幼少期に受けた壮絶な虐待やセクハラの数々

 

 

ジュディは13歳で父親を亡くし、自分を守ってくれる力強い大人の男性を求めていたこと、そして自分をまるで所有物のように扱い酷使し搾取し続けた母親の子どもへの接し方を、のちに無意識のうちにどこかでなぞってしまっていたこと、などをわかったうえでこの映画を観る必要がある。

 

まわりの大人が誰も味方になってくれず、彼らの欲望を満たすために自分を利用し続ける──彼女の中に植えつけられた恐怖と絶望。このあたりも芸能人に限らず、非常に今日的な題材だと思う。

 

思春期なのに恋も許されない、って…どこぞの国の女性アイドルグループみたい。

 

何本もの映画でコンビを組んだミッキー・ルーニーと

 

映画で描かれるエピソード自体はごく限定された期間のわりと地味なもので、映画界のバックステージ物でもなければ芸能界のスキャンダラスな部分をことさら強調してもおらず、ジュディ・ガーランドの全人生を大河ドラマ的に順を追って見せていくわけでもないので人によっては退屈さを感じたりもするようですが、僕はなんだかとてもしみじみとイイ映画だったな、と思いましたけどね。

 

若い女優さんが元気いっぱいに唄って踊るミュージカルもいいけれど、熟年のレネー・ゼルウィガーが自らも人生で負った痛みや哀しみを乗り越えてきた貫禄とともに唄い上げる名曲の数々は、まるでほんとのステージを観ているようでなかなか聴き応えがありました。

 

 

 

 

それにしても、あちらの客たちはショーが気にいらないと平気でステージ上の歌手に向かって物を投げつけたりするもんなんですかね?まぁ、酒が入ってるナイトクラブだからでしょうが、罵声を浴びせるのも客なら拍手喝采するのも客ということで、観客とか聴衆というのはつくづく恐ろしいな、と思いましたね。普段“映画”に対して罵声を浴びせている私のような者が言うのもなんですが。

 

劇中でジュディがゲイのカップルと出会って彼らの家を訪ねるエピソードは、そういう事実が実際にあったのか、それともフィクションなのか知りませんが、原作の舞台劇から取られているそうですね。

 

彼女が自分たちの「居場所」がなかなか見つけられなかったり世間で肩身の狭い思いをしている人々からどのようなまなざしで見られているのかがよくわかるように描かれていました。

 

『オズの魔法使』でカンザスに戻って「おうちが一番」と気づいたドロシー。

 

「おうち」というのは人によってさまざまだろうけど、ドロシーにとって、そしてジュディ・ガーランドにとって「虹のむこう」にある「子守唄で聴いた場所」だったように、やすらぎと喜びが待つところのことなんでしょう。

 

 

 

子どもたちと。(1枚目) ジョーイとローナ (2枚目) ライザ・ミネリ

 

ジュディにとっては、具体的にはそこは愛する子どもたちと一緒に暮らせる場所だった。

 

あのロンドンのステージから数ヵ月後に彼女がこの世を去ったことに本当に痛ましさを感じずにはいられないのだけれど、この映画ではその事実を最後に字幕で静かに告げるだけで、ショーの世界に生きたひとりの偉大なエンターテイナーが見せた素顔とステージでの素晴らしいパフォーマンスを僕たちの目に焼きつけたまま物語は幕を下ろす。

 

彼女とつかの間交流を持ったあのゲイのカップルは、僕たち映画の観客の代表のような存在なんですね。

 

ジュディ・ガーランドの歌やその存在そのものに勇気づけられる者が世の中には大勢いるということ。

 

青い鳥を追って愛を求め続けたジュディ・ガーランド=フランシス・ガムという人のことを、今でも多くの人々が愛している。彼女が生前そのことを実感できたかどうかはわからないが、ステージの上から彼女が客席に最後に投げかけた「私のことを忘れないでね!」という言葉に、僕は「けっして忘れないよ!」と返したい。

 

主演のレネー・ゼルウィガーは彼女のこれまでの浮き沈みの激しいキャリアそのものがジュディ・ガーランドのそれと重ねられていて、だからこの役でジュディが『スタア誕生』で強く望みながら獲れなかったアカデミー賞主演女優賞をゼルウィガーが獲得したことは、大きな感慨をもたらします。

 

といいつつも、僕は彼女が出演した映画ってこれまでほとんど観ていなくて(有名な「ブリジット・ジョーンズ」シリーズも3本とも未鑑賞)、今回あらためて確認したら記憶にあったのは『ベティ・サイズモア』と『シンデレラマン』だけだった。どちらもかなり前に映画館で観たきりなので、まったく内容を覚えていないし。

 

でも、この映画でまた彼女の主演作を観たくなりました。ぜひこれからもまたオスカーにかかわってきそうな作品に出続けてほしいなぁ。

 

レネー・ゼルウィガー以外では、ジュディのロンドン公演でのエージェントを務めることになるロザリン役のジェシー・バックリーが印象に残りました。

 

 

 

 

演技や顔の表情の変化はけっして大きくはないのだけれど、「お騒がせスター」の面倒を見ることになって予想以上に手がかかることがわかって戸惑いながらもプロとしてしっかりサポートする様子がとても頼もしくて、気になる女優さんです。ジェシー・バックリー自身、歌手なんですね。この映画では唄わないけど、いつか映画の中でその歌声を聴かせてほしい。

※その後観たジェシー・バックリー主演のワイルド・ローズ』の感想はこちら

 

他にもルーファス・シーウェルやフィン・ウィットロック、そしてマイケル・ガンボンなど実力派が脇を固めていて、“地味”ではあるけれども見応えのある人間ドラマでした。

 

また『オズの魔法使』が観たくなっちゃったな。

 

 

※マイケル・ガンボンさんのご冥福をお祈りいたします。23.9.27 or 28

 

 

関連記事

『イースター・パレード』

『ザッツ・エンタテインメント』

『オズの魔法使』(午前十時の映画祭)

『ファーザー』

『オールド』

 

 

 

 

 

↑もう一つのブログでも映画の感想等を書いていますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします♪

 

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ