岩合光昭監督、立川志の輔、ベーコン(猫)、柴咲コウ、柄本佑、銀粉蝶、山中崇、田根楽子、小林トシ江、葉山奨之、片山友希、立石ケン、田中裕子、小林薫ほか出演の『ねことじいちゃん』。

 

原作はイラストレーターのねこまきによる同名漫画。

 

小さな島に住む大吉(立川志の輔)は猫のタマ(ベーコン)と暮らしている。亡くなった妻のよしえ(田中裕子)が残した毎日の献立のレシピノートの続きを書くために料理を始めることに。彼とタマとのふれあいを通して島の人々の営みを描く。

 

物語の内容について書いていますので、これからご覧になるかたはご注意ください。

 

 

BSで放送されている「岩合光昭の世界ネコ歩き」が好きでよく観ています。

 

といっても、僕はこれまで猫を飼ったこともないし猫と直接ふれあったことすらほとんどないので、とても“猫好き”などとはいえないんですが、ともかくいつもTV越しに猫たちに癒やされています。

 

岩合さんの猫の写真展にも足を運んで、そこでこの映画のことを知りました。

 

写真展「岩合光昭の世界ネコ歩き2」

 

 

去年、「世界ネコ歩き」の劇場版が公開されましたがそちらは観ていなくて、今回は漫画が原作で岩合さん自ら監督も務めているということで興味を持ちました。

 

だって、動物写真家なのにドキュメンタリーとかじゃなくていきなり劇映画の監督って、スゴくないですか?

 

まぁ、日本にはかつてムツゴロウさんが監督した(共同監督:市川崑)『子猫物語』という先例がありますが。

 

で、事実なのか都市伝説なのか知らないけれど『子猫物語』ではチャトラン役の子猫が何匹も犠牲になって…という、なかなか恐ろしい話があったりもするんですが、まさかあの岩合さんが猫を危険に晒したりはしないだろうし、どんな感じなんだろう、と。

 

原作はパラパラッと読んだ程度なので物語をちゃんと把握はしていませんでしたが、『子猫物語』や70~80年代頃に作られていた動物映画とは違って動物に俳優が声をアテたり(最近もそういう作品がありましたが)、動物が主人公のものではなくて、飼い主とペットの猫の日常生活を描いたもの。

 

ドキュメンタリーではないけれど、過剰に動物に演技をさせてもいない。

 

そもそも猫は普通、人間の指示通りに「演技」はしないので、特に人間と絡むシーンではどうやって演出したのか不思議なところも。

 

タマが大吉さんのお腹の上で眠っているショットは、偶然タマ役の“ベーコン”が志の輔師匠に乗ったまま眠り始めたんだそうで。

 

 

 

志の輔さんはベーコンと少しでも慣れるために、撮影の待ち時間にもしょっちゅう一緒に過ごしていたそうです。そういう信頼関係があったからなんですね。

 

余談ですが、20年以上前に住んでたアパートで顔に傷のある野良猫が暖を取りにたまに僕の部屋にやってきていたんですが、ある日、布団を敷いて寝ようとするとその猫が入ってきて寝ている僕の布団の上に乗っかってきました。

 

傍から見るとユーモラスな光景だろうけど、上に乗っかられると結構重いし息苦しくて寝られないから「上に乗らないで布団の中に入って」と布団を開けても微動だにしないので、どかそうとしたら「フ~ッ!!(怒)」と毛を逆立てて威嚇されたもんだからムカついて部屋から追い出してしまった。

 

それ以降、その猫はやってきませんでした。

 

大人げなかったとは思うけど、大人の猫って意外と重いんですよね。岩合さんの番組でも犬の上に猫が乗っかってたりするけど、ワンちゃんたちよく我慢できるよな。

 

映画では、大吉さんも毎朝タマが布団の上に乗っかってきて起こされる。目覚まし代わりだったら便利なんだけどw

 

まぁ、そういうなんてことない飼い猫との生活と、島の人々の日常の中の悲喜こもごもが描かれる。

 

主演の立川志の輔師匠は最初に岩合さんからじきじきにオファーされた時には多忙を理由に出演を固辞したのだそうだけど、何度も熱心に頼まれて快諾したのだとか。

 

田中裕子演じる妻にまつわる回想がたびたび出てくるのは、やはり田中さんが高倉健演じる主人公の亡き妻を演じた『あなたへ』とよく似ている。

 

またしても劇中で亡くなった妻を演じる田中裕子

 

他の登場人物は、島に来てまだそんなに年数が経っていない柄本佑演じる魚が苦手な若い医師やどうしても猫に避けられてしまう郵便配達員(葉山奨之)、しょっちゅう二人で喧嘩している住民のおばあさんたち(田根楽子、小林トシ江)、小林薫演じる、なぜか猫たちに懐かれる漁師、彼といい仲になる銀粉蝶演じる女性、女の子の方が島を出ていくことになる高校生カップル(片山友希、立石ケン)など。

 

 

 

 

 

 

 

 

柴咲コウ演じる東京から来た女性がカフェをオープンして島の魚でカルパッチョ作ったりしてると『食堂かたつむり』っぽいニオイ(僕は観ていませんが)がしてきますが。

 

 

 

そもそも大吉さんは何をやってる人なのかまったく不明。都会に住んでいる息子(山中崇)から再三同居を勧められているが、断わっている。

 

 

 

おそらく定年退職した老人、という役柄なんだろうけど、「ガッテンしていただけましたでしょうか」な志の輔さんはそんな年配の人には見えないので、なんだかNHKあたりでよくやってるご当地ドラマみたいで、ぶっちゃけリアルではない。

 

 

 

 

志の輔さんも小林薫さんも二人ともまだ60代なのに「わしゃあ、もう年じゃ」みたいないかにもな老人演技で、ずいぶんと違和感がある。

 

「じいちゃん」なんだったらクリント・イーストウッドみたいなモノホンの老人を出さなきゃ。

 

ほんとの後期高齢者の俳優だと動物相手だし撮影がキツいとかいろいろ不都合があるのかもしれませんが、だったらそんな年寄りという設定にせずにせいぜい初老ぐらいの人の話にすればいいのに。

 

観る前に読ませていただいた他のかたのレヴューで「主役はあくまでも猫たちなので、人間ドラマはおまけのようなもの」というようなことが書かれていたから、僕もそのあたりは別に期待せずに最初から猫を観るために映画館に行ったんですが、で、確かに画面にはいつもどこかに猫が映ってて猫好きの人にはたまらないものがあるんだろうけど、先ほども書いたように猫たちの間に作為的なドラマを作るようなことはしていないので、特にこれといって劇的なことは起こらないんですよね。

 

 

 

 

 

 

タマがいなくなって大吉さんが探し回ったりするんだけど、そこから何かドラマが発生することも話が転がっていくこともなく、しばらくするとタマは「おみやげ」を持ってあっさり帰ってくる。

 

人間の登場人物の傍らにいつも猫たちがいて、この映画に出てる猫たちはベーコンをはじめ全部オーディションで選ばれたタレント猫たちだけど、まるでこの島に住んでいるような馴染みようでした。

 

 

 

 

 

 

 

だからそういう猫たちの姿を眺めてくつろいでいればいい作品ではあるのだけれど、意外と人間ドラマのパートが長くて思ってたほど猫たちが出てこないんですよね。

 

いやもう、悪いけど人間はいらないから猫をもっと見せてよ、と^_^; 人間は猫の背景でいい。

 

岩合さんも初監督で苦戦したそうで、志の輔師匠や役者の皆さんの協力があって作り上げられた、と感謝されてましたが、確かにこれは猫たちの方を優先させて撮ったのだろうから、出演者は猫たちに合わせて芝居をしていたんだろうなぁ。

 

そういうところで、手作りっぽい、みんなで頑張って作った感じはよく伝わってきました。

 

ただ、人間ドラマはどれも型通りというか描写が薄くて、でも無理やり盛り上げようとしてるものだから、まるで80年代ぐらいに観た児童向け映画みたいな拙さが全体に漂っていて、岩合監督やこの映画が好きなかたには申し訳ないけれど僕はかなり苦痛でした。

 

これならTVで「世界ネコ歩き」を観ていた方がよっぽど楽しい。

 

新しい試みへのチャレンジ精神には敬意を表したいけど、やっぱり岩合さんにはドラマよりも“リアル”な猫たちを撮り続けていただきたい。僕が見たいのはそちらの方だから。

 

映画の中でもタマ役のベーコンが花の匂いを嗅いでうっとりしてるような表情を見せたり、新聞の記事を眺めたり、他の猫たちも木の枝につかまってて落っこちたり、猫同士で挨拶しあったり、人の足許に寝そべったり、喧嘩したり、屋根の上を歩いたり、そういう自然な姿にこそ見入ってしまうし、劇映画というのはどうしてもわざわざ役者が演技をするものだけど、「世界ネコ歩き」では世界各地の市井の人々が実際にそこに住んでいる猫たちとかかわっている様子が映し出されるから、作り物よりもそっちの方がよっぽど心に響くんですよね。

 

僕が普段は猫やその他の動物を描いた劇映画を観ないのは、そういう作品って猫たちを人間のドラマの方に強引に付き合わせているからです。それは不自然なことなので。

 

だから、岩合さんのようにいつもは野生の動物の写真や猫たちの記録映像を撮っている人だったら、わざとらしい人間ドラマは排してまるでドキュメンタリーのような猫の映画を撮ってくれるのでは、という期待もあったのです。

 

まぁ、予告篇観たらなんとなく中身は想像できたけど。

 

亡き妻のレシピノートも後半特に何かの伏線になるわけでもなく、わけありな感じで島にやってきた柴咲コウもなんだかよくわかんないまま彼女のドラマは途中でどっかに行ってしまうし、何かといえば『崖の上のポニョ』のひねくれ婆さんみたいな老婆が喚き散らしてトラブルを起こすのにもイライラした。

 

強引に猫に触ろうとして逃げられるといつもいちいち「あっ」とデカい声を上げる郵便配達員(猫は大きな声が嫌い)もその学習能力のなさにムカムカした。柄本佑演じる「若先生」の演技も物凄くぎこちない。

 

銀粉蝶演じる女性がまるで少女のように「うふふ♪うふふふ♪」と笑い続けながらダンスするシーンは、観ていて本当に困った(次のカットで死んでるし。笑いそうになってしまった)。

 

猫たちはみんな魅力的なのに、人間の俳優たちが軒並み大根に見える。それは指揮者である監督に残念ながら芝居心とか演出力がないから。

 

原作の漫画では単純な線で描かれた牧歌的な絵にほのぼのできたものが、生身の俳優がそれをそのまま演じると出来損ないのコントみたいになってしまうんですよね。

 

演技が巧みなはずの俳優たちがビックリするぐらいド下手に見えたもの。なんか『男はつらいよ』の超劣化版みたいな。

 

これなら素人の人たちに出てもらった方がよっぽどそれらしく見えたのではないだろうか。

 

脚本があまりに酷過ぎた。とてもプロの仕事とは思えませんでした。

 

猫たちの都合でいろいろとシナリオの変更があったのかもしれないし、猫を追うのに必死で人間の芝居の良し悪しを判断するところまでとても手が回らなかったのかもしれませんが。

 

猫たちには細心の注意を払う岩合さんが人間の芝居にはかなり無頓着だったのはちょっとショックだったなぁ。

 

凄まじい勢いでdisってますが、ごめんなさい、1本の劇映画としてはこれが正直な感想です。

 

この映画の写真展も見にいって、そちらにはいつも観ている動画とは違ってその一瞬一瞬を捉えた姿が焼き付けられていましたが、映画の撮影のために集められた猫たちが見せる表情、動きは「世界ネコ歩き」の猫たちとなんら変わらない。

 

 

 

 

映画の撮影が行なわれた佐久島に住んでいる猫たち、と言われたらそのまま信じてしまいそう。

 

それでもタマ役のベーコンは特にイイ顔してましたね。スターの風格(^o^)

 

 

 

 

僕はああいう昔からお馴染みな顔つきの猫が好きだな~(=^・・^=) 猫たちもよく見るとそれぞれ個性豊かな顔をしてるもんね。

 

劇場でゆったりまったりしたい人にはお薦めの映画です♪

 

猫はいないかもしれないけど、佐久島に行ってみたくなりました。

 

 

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