アヌラーグ・バス監督、ランビール・カプールプリヤンカー・チョープラーイリヤーナー・デクルーズサウラブ・シュクラ出演の『バルフィ!人生に唄えば』。2012年の北インド映画。




インドのコルカタ(旧カルカッタ)。金持ちの男性と婚約中のシュルティはダージリンで聾唖の青年バルフィと出会い、やがて惹かれあうようになる。結局彼女は母の忠告もあって経済的に安定した生活を選ぶことにするが、夫との間に愛を感じることはできなかった。バルフィの父親は自閉症の少女ジルミルの家で運転手を務めていたが、ジルミルの父親は借金のためにジルミルの婆ややバルフィの父親たち使用人をクビにする。父が病気で倒れ多額の手術代が必要になったバルフィはジルミルを誘拐して身代金を要求しようとする。しかし、彼よりも前にすでに何者かがジルミルを連れ去っていた。以前よりバルフィに目をつけていたダッタ警部は彼を捕まえて尋問する。するとバルフィの口からはジルミルとの美しい物語が語られるのだった。


昨年の『きっと、うまくいく』以来、久しぶりに観るインド映画。




インド映画はだいたい長尺なことが多いのはわかってるけど、ここんとこどうもお疲れモードなんで上映時間が151分はしんどそうだな、とちょっと迷っていました。

でも観てみたらとってもよかった!!『きっと、うまくいく』同様、映画に見入って長さを感じさせませんでした。

冒頭や中盤で、主人公バルフィを演じるランビール・カプールによってチャップリンキートンジャッキー・チェンなどによる往年の名作のおなじみの場面が引用される(邦題のサブタイトルは、ドナルド・オコナーの顔面のパーツ移動を劇中でバルフィも真似ている『雨に唄えば』より)。

 


それらはどれもパントマイムを駆使したもので、耳が聴こえず“目で語る男”バルフィの身体表現として物語的にもピッタリ。

シュルティへの“つきまとい行為”など今だとちょっとストーカーにも見えてしまうバルフィだが、そのキャラクター自体がサイレント映画時代に喜劇役者たちが演じた恋に一途な猪突猛進型の主人公の再現だと思えばいい。

この映画がどこか懐かしさも帯びているのは、そういう昔ながらの喜劇仕立ての恋物語の型を踏襲しているからでもある。

最初から最後までバルフィのユーモラスな身体の動きが観客の目を楽しませてくれる。

ランビール・カプールはちょっとサシャ・バロン・コーエン系の面白い顔(笑)で、でも真面目な表情も絵になる。

いつもインド映画を観るたびにヒロインの美しさに見惚れてしまうんだけど、この映画でもまずバルフィが一目惚れするシュルティを演じるイリヤーナー・デクルーズにウットリ(アップになると少々お肌が荒れ気味ですが)。

 


インド映画はムンバイで作られるヒンディー語による北インド映画、いわゆる“ボリウッド映画”と、たとえば『ムトゥ 踊るマハラジャ』などのラジニカーントが出ているタミル語による南インド映画があって、『きっと、うまくいく』やこの『バルフィ!』は北インド映画。

『きっと、うまくいく』や『バルフィ!』はとても洗練された作りで、一方のラジニの映画などはより庶民的というか、泥臭さが残ってるのが特徴。

シュルティ役のイリヤーナー・デクルーズはこれまでタミル語映画に出演していて『きっと、うまくいく』のタミル語版リメイクのヒロインも務めているという。今回の『バルフィ!』が初めてのヒンディー語映画への出演。

わかったようなこと書いてるけど、Wikipediaや劇場パンフの解説で知ったことを写してるだけです。

ちなみに、この『バルフィ!』にはインド映画ではおなじみの出演者たちがダンスをするミュージカル場面はありません。

バックに歌が流れる場面はいくつもあるけど、出演者たちは踊らない。

ちょっと80年代のハリウッド映画っぽい雰囲気も。

映像の色彩が綺麗。

それでも主演のランビール・カプールの身体の動きやいくつもの映画へのオマージュ・シーンなどで目を楽しませてくれるので、物足りなさは感じない。

プリヤンカー・チョープラーが演じるジルミルは自閉症という設定だが、ジルミルの仕草や身体の動きなどはどこかかつての『レインマン』におけるダスティン・ホフマンのそれを思わせる。

監督が『レインマン』をどこまで意識していたのかはわからないし同じ自閉症児に共通する特徴を描いたらたまたま似たのかもしれないが、映画的な記憶をあえて取り入れていることからももしかしたらホフマンの演技が念頭にあったのかもしれない。

とにかくこのジルミルが可愛くて(^o^)

 


プリヤンカー・チョープラーのハンディキャップ演技はとてもナチュラルで、自閉症だからバルフィをはじめ他の人たちともスムーズな意思疎通は難しいんだけど、その美貌は隠せないので「これは中の人は絶対美人さんに違いない」と思ってたら、やっぱり(^ε^)

 


ボリウッドのスター女優の他にミス・ワールド2000にも選ばれたモデルさんでもある、というのには大いに納得(ディズニーアニメ『プレーンズ』ではインド代表の声もアテている)。

そんな美人女優さんから「見た目重視」ではないこういう見事な演技が生みだされる。エクセレント!

プリヤンカー・チョープラーは、撮影前にジルミルという役柄へのプレッシャーから監督の前で涙を流したんだそうな。確かにそれぐらいの難役だったと思う。映画の中ではあまりに自然に見えるからそういう苦労はなかなかうかがえないけれど。

中盤に、バルフィとジルミル、シュルティが顔を合わせるのだが、食べ物をうまく食べられなくてバルフィに叱られたジルミルは、そのまま姿を消してしまう。

これまで二人きりだった時にもジルミルは何度もバルフィから注意を受けているのだから、この時だけ彼女がへそを曲げるのは奇妙なのだが、ここではシュルティと仲良さげにしているバルフィを見てジルミルは明らかに嫉妬しているのだ。

それが証拠に終盤でバルフィが捜しにきた養護施設で、シュルティの前でジルミルはまるで「私のバルフィに近寄らないで!」というように通せんぼする。

それを見たシュルティは、ジルミルとバルフィの強い絆を感じるのだ。

これはある意味「三角関係」を描いた物語でもあるのだが、とはいえ二人の女性が一人の男性を奪い合うような単純な話ではなくて、「愛情」というものについて深く考えさせてくれる。

バルフィとジルミルの姿から、シュルティは夫と別れてみずから望む道を進むことを決意するのだ。

 
同じ3人。女優さんは衣装や髪型が変わると印象がこんなに違うのね。ランビール・カプールは見た目あまり変わらないなw


この映画では身体にハンディキャップを持つ男女が登場するが、「障害」そのものが主要なテーマというわけではない。

これはサイレント映画の時代から連綿と描かれてきた古典的ともいえる「純愛」の物語である。

それをスラップスティック・コメディの要素も交えて描く。

映画の主要な舞台が1970年代なのは、監督が仲睦まじかった両親が若かった頃を描きたかったからなんだそうで。

1970年代に20代ぐらいだったバルフィやジルミルたちが今現在の時点で年を食いすぎてる気もするけど、あえてバルフィの死まで描いたのは、これが人生の終幕まで愛しあう男女の物語だからだろう。

漫画的なデフォルメされた描写とリアルな演技。

特に感心するのは、この映画に出演している俳優たちはけっして大雑把な演技をしていない、ということ。

たとえばバルフィを追うダッタ警部はバーコード頭に出っ腹という外見のキャラクターで劇中バルフィとドタバタを繰り広げるが、演じているサウラブ・シュクラはオーヴァーにおどけた演技は一切していない。

おそらくこの俳優さんはシリアスなドラマで重厚な演技もできる人なんだと思う。

ヒロインたちも、脇の出演者たちも同じく。

コメディと真面目な話のバランスが絶妙で違和感がない。映画がとてもスマートなのだ。

一緒の回を観ていた女性二人が、帰り際に「ほんとによかったよねぇ」と感想を言いあってました。

観終ってなんともいえない至福感を味わうのは劇場で映画を観る醍醐味の一つだけど、この映画はまさしくそんな作品でした。

バルフィやジルミルとともにインドを旅しているような気分に。

観てる間中、どうか悲しい結末になりませんように、と念じていたんだけど、しっかりハッピーエンドだったし。

劇中で時間がいったりきたりするのでちょっとわかりづらい、と感じた人もいるようだけど、僕は大丈夫でしたよ。

そのような語り口にすることには意味があったし、おかげで観客の興味を惹くこともできてたし。

終盤は、行方不明になったジルミルは一体どこへ?というサスペンスもあったりして、ストーリーもよくできてる。

『きっと、うまくいく』の時にも感じたことだけど、インド映画のレヴェルの高さを痛感しました。

楽しいし“オシャレ”なんだよね。

あっという間の151分でした。



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