J.K.ローリングさん『とても良い人生のために』 | 絵本島 

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 ハリー・ポッターの作者J.K.ローリングさんが2008年にハーバード大学で行った卒業記念講演の本です。


 

とても良い人生のために

J.K.ローリング

松岡佑子 訳

静山社


 ハリー・ポッターシリーズと同じ、松岡さん訳で、静山社ですね。


 この講演で、ローリングさんは「失敗の効用」と「想像力の創造性」について話しています。


 失敗の効用。(本の言葉では「恩恵」)それは「不必要なものすべてを脱ぎ捨てる」ことだそうです。ローリングさん自身はこのことを自身が子どもを抱えて離婚し、それでも小説を書き続けていた時のことを思い出しながら話しています。


 失敗するということは何かを失うことだと思います。成功したら手にするはずだったものを。または、これまで持っていたものを。


 失ってみて、それが自分には不必要であったことに気がつくかもしれません。または、失ってみてそれが自分にとって必要なものであったことに気づくかもしれません。


 自分にとって不必要であるものは脱ぎ捨てて、前に進む。必要なものを握りしめ、または取り戻して前に進むのですね。


 不必要なものを脱ぎ捨てる、と言っても「不必要だ」とわかって脱ぎ捨てるのではなく、失敗して何かを脱ぎ捨てざるを得ないことが起こる。それで脱ぎ捨てる結果になったが、振り返ってみるとそれは不必要なものだった。または、必要なものだけが残った。

 失敗とはそういう経験であるように思えます。


 そしてこう考えると、思わぬ失敗をした時こそ自分に本当に必要なもの、土台となるものを知るチャンスであるとも言えます。


 さて、そして想像力の創造性、と書いたのは、想像力が未来を創ることにつながる、という話だからです。


 ここはとても面白いところなので引用します。


想像力はないものを想い浮かべるという人間特有の能力であり、だからこそ発明や革新の源泉なのですが、それだけではありません。物事を変革し、目を開かせる最も大きな能力であるとも言えるこの力によって、私たちは、自分自身にはない経験を持つ人々の身になって考えることができるのです。(43ページ)


 ここでは、

①想像力はないものを思い浮かべることによって、物事を変革し、目を開かせる最も大きな能力である。

②想像力はないものを思い浮かべることによって、自分自身にはない経験を持つ人々の身になって考えることができる。


 という二つのことが述べられています。


 ローリングさんの話は、②の方へと進んでいきます。ロンドンのアムネスティ・インターナショナル本部のアフリカ調査部で働いていた時の経験を話します。自分には経験がなくても、虐げられた人々の経験を聞き、資料を見、想像力でその経験を知り、感じていったということです。そんな風にして弱い立場の人々のことを知り、社会変革につなげていく役割を担うことをハーバードの卒業生達に勧めています。そして次のように述べています。


世界を変革するのに魔法は要りません。すでに私たちの中に、すべての必要な力が備わっているのです。それはより良い世界を想像する力です。

(69ページ)


 私たち庶民はなかなか社会変革とはいきませんが、このローリングさんのお話は個人個人のより良い生き方に応用できると思います。


 何を言いたいかというと、前半の失敗の効用と後半の想像力の創造性とを結びつけてみるのです。


 先程失敗した時にこそ、自分に人ようなものがわかる、それが土台となる、と書きました。その時に必要なものを土台とした未来を想像するのです。未来もまた、今はまだないものです。想像力によってより良い未来を想像の中に存在させてみるのです。


 先に挙げた69ページからの引用の、「世界」を「未来」に読み替えてみましょう。


「未来」を変革するのに魔法は要りません。すでに私たちの中に、すべての必要な力が備わっているのです。それはより良い「未来」を想像する力です。


 このより良い未来を「想像」する力が、より良い未来を「創造」することにつながっていくでしょう。そしてこの本のタイトルである『とても良い人生のために』なるのだと考えます。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました!良い一日をお過ごしください。