【注意】another ss.1から見て下さいね!
サラとの待ち合わせ場所には
ニコとジュンが一緒に
来てくれた
そこは病院ではなく
公園だった
公園で待っていると
ドクターらしい年配の男性と
サラが遅れてやってきた
サラは子供の様に
無邪気に笑っていた
ドクターは
「今日は軽い話だけにしてくれ」と言うと
僕らと少し離れたベンチに座って
こちらを見ている
しかし
僕らは…
すでに言葉を失っていた
そこにいるのは
サラ…だけど
サラじゃない
みんなはすぐにわかる程
サラは様子が変わっていた
僕はサラに声をかけた
「久しぶりだね…」と
サラは
「そうね…会えて嬉しいわ」
と笑顔で答え
「みんなにも会いたかったわ」
と続けた
短い沈黙…
ニコが
「もう…大丈夫なの?」と
不安げに聞くと
「大丈夫よ…なんで?」と
あっけらかんに答えた
「え?…大丈夫なら良かった」
「ニコ…変な人」と笑った
ジュンがおもわず
「変なのは…おまえ」
と小さな声で呟き…途中でやめた
「みんな…元気そうね
どうしてたの?」
とサラが聞いた
とりあえず
サラはニコと
世間話など軽く流して
時間が来た
ドクターは
「もう少ししたら退院できるから
みなさん…もう少し待ってて下さい」と言い
サラと帰って行った
サラは子供の様に
笑顔で手を振っていた
僕らは暫くその場で
立ちすくんでいた
結局…僕は
「久しぶりだね…」としか
言ってない
ジュンが
「あれは…誰だ?」
ニコは
「どんな治療を受けているの?」
と言い
2人は僕を見た
僕は…何も言葉が出なかった
サラは…まるで記憶喪失にでも
なった様だった
そんな僕を見て…
ニコは
「きっと薬か何かのせいだと思うよ」
ジュンも
「そうだよ…まだ治療中だしな」
と精一杯フォローしてくれたが
サラは僕を避けた訳でもなければ
無視した感じでもなく
単に…僕との時を
消された感じであったのは
誰が見ても明らかであった
僕はただただ…呆然と
するしかできなかった
ショックだったのかも知れないが
何も言えなかった
ジュンは
「とにかく会えて良かったな」
ニコは
「ねっ…お腹すかない?
なにか食べに行きましょうよ」
と相変わらずフォローしまくりだった
「悪いけど…ここで帰るよ」
と言い2人から離れた
…と言うより
ひとりになりたかった
「ここでって…帰り方わかるの?」
とニコが言い
「いいから…送っていくから」
とジュンは僕の腕を掴んだ
僕は振り払おうと腕を引くと
急に眩暈がした
よろけて…へたっと
その場に座り込むと
急に吐き気に襲われ
その場で…吐いた
胃を雑巾の様に
絞りあげられてる様な
苦しさだった
僕はジュンのワゴンに運ばれ
後部座席に寝かされた
ニコが膝枕をしてくれたが
気持ち悪さもあり
目をつむりグッタリしていた
ジュンは「大丈夫か?」と聞いたが
返事をしない僕の変わりにニコが答えた
「とりあえずはね…」
「寝てるのか?」
「かも…気を失ってるって感じじゃないから」
「そうか…」
長い沈黙…
ワゴンのラジオから
エルビス・コステロの
『she』が流れていた
僕は気持ち悪さもあったが
話をする気にもなれなかったのもあり
そのまま寝たフリをしていた
♪Me…I'll take her laughter and her tears
And make them all my souvenirs
For where she goes I've got to be
The meaning of my life is
She…She, oh she
{僕は…
彼女の笑顔も涙を見つめ
そのすべてを僕だけの思い出にして
彼女がどこへ向かおうと いつも僕がそばにいる
そう彼女こそ 僕の生きる望み・・・
彼女…彼女.. oh... 彼女}
しかし…この曲を聞いていたら
迂闊に涙がこぼれた
涙は…頬をつたい
ニコの足に落ちた
「あ…」
「どうした?」ジュンは心配そうに聞いたが
ニコは小さな声で
「うぅん…なんでもない」
「そうか…」
「でも…かわいそう」
「こいつか?」
「うん…」
「そうだよな…あれは無い」
「この2人…どうなっちゃうのかな?」
「こいつ…日本に帰らせた方がいいかもな」
「私もそう思ってた」
「もう…限界だろう」
「……」
そしてまた沈黙
「ねぇ…私…サラに会ってみる」
「え?」
「もう一度会って…
どんな状況なのか確認してくる」
「う~ん」
「だって…このままじゃ
この2人…かわいそう」
「難しい事は苦手だが…
今日のが…結論なんじゃないか?」
「でも…」
「答えは出てたんじゃないか?
あのサラにもう1度会って何がわかる?」
「でも…」
寝たフリをしていたが
確かにジュンの言う通りかもしれない
と思った
もう…いい
と思った僕は
目が覚めたフリをした
「うぅ…」と唸り苦しげに目を開けた
「あ…大丈夫?」
「え?…起きたか?」
2人は慌てて何事もなかった様子を
つくろっていた
「あぁ…ごめん
なんか…具合悪くなったよ」
「無理も無いよな・・・」とジュンが言いかけたら
「もうすぐ着くから…具合悪いなら寝てたら?」
とニコは打ち消した
「いや…大丈夫
でも…ニコ…悪いけど少しこのままでいいかい?」
「勿論…寝てていいのよ」
「ありがとう」
「いいのよ」
来る時は気がつかなかったが
ワゴンは2つの市街地を抜けた
…こんな遠くにいたんだ
会えない訳だ…と思った
ジュンは運転しながら
「なぁ…今度
また波に乗りに行かないか?」
と突然言った
「あぁ…それもいいかもな」
「そうだよ…波に乗って
サラの事もスッキリ忘れ…」
「ジュンの馬鹿」とニコは叫んだ
ニコは僕の顔色を伺い
「ごめんね…この人…馬鹿だから」と言った
僕は「うん…わかってる」と答えると
ジュンはふて腐れたように
「これだよ…」と呟いた
こいつのフォローは相変わらず下手だ
でも…いい奴だ…と思った
「2人とも…ありがとう」と言うと
2人は黙ってしまった
ワゴンは見た事ある場所まで来た
僕らは何も喋らずに
この微妙な空気を読めない
ラジオだけが空しくなっていた
僕は思い切って言った
「なぁ…もうやめよう」
「え?…なに?」ニコは驚いて聞いた
「サラは新しい人生を歩もうとしてるんだと思う」
「…でも」
「そっとしておいてあげよう」
「…でも」
「もう…いいんだ
サラが忘れているなら…返っていいじゃないか?」
「でも…それでいいの?」
「いい」
「でも…」
「ニコ…いいんだ」
「…」
僕の言葉に2人は
何も言えなくなってしまった
重い空気のまま
ワゴンは走っていた
そして僕らの町に入った
ジュンは
「どこへ行く?」と聞くと
ニコは
「私の家へ行って…」と言ったが
「いや…僕の小屋へ行ってくれ」
と断った
「え?…でも」
「いいんだ…それに
ニコの両親に説明できる程
僕の頭は整理できてない」
「…」
ニコとジュンは困った顔をした
「頼むから…小屋に行ってくれ」そう言うと
「わかった」とジュンは言い
海沿いの道へハンドルを切った
そして
10分程走ると小屋が見えてきた
小屋の裏に車を停めると
僕は降りた
2人とも降りようとしたが
「わるいが…ひとりにしてくれないか?」
と言うと
2人は顔を見合わせ
ちょっと考えて
「いいわ…わかった」
と言い僕はワゴンの扉を閉じた
ワゴンはゆっくりと動き出し
交差点を左に曲がっていった
僕は…小屋に向かって歩き出し
ポケットを探ると煙草を取り出し
くわえると火をつけた
ゆっくりと吸い込み
溜息と一緒に煙を吐き出した
空を見上げると
すっかり晴れ渡ったBlueが
異常な程綺麗だった
小屋につくと
いつもの長椅子に座り
僕はゆっくりと目を閉じた
さっきラジオで流れていた
エルビス・コステロの『she』が
頭の中を流れていた
「サラ…」と小さく呟いた
ワゴンは小屋で僕を降ろし
ニコの家へ向かっていた
「これでいいの?」
「いいんじゃないか?」
「悲しすぎる…」
「…」
「ねぇ…やっぱり
私は納得がいかない」
「おいおい…ニコは関係ないだろ?」
「関係なくない…私だって友達だもん」
「じゃ…俺もか…」
ニコはやや呆れ顔で溜息をつくと
「ねぇ…さっきのとこに戻って」
「え?…奴んとこ?」
「馬鹿ね…サラよ」
「乗り込むか?」
「そうじゃない…ちゃんと聞かなきゃ
本当の事を…」
「そうか…OK!」
と言うとジュンはアクセルを踏み込んだ
今、走った道を走りながら
ジュンは何か腑に落ちない顔をしていた
「なによ?」とニコが聞くと
「いや…」
「なによ?いいなさいよ」
「奴は大丈夫かな?」
「え?」
「奴…死んだりしないよな?」
「あ…」
「それは無いな…ははは」
「…」
あまりに
ありそうなシュチュエーションに
2人は寒気がした
「停めて!!」ニコが叫んだ
ワゴンは急ブレーキをかけて停まった
「私…降りる
パパの車で行くから
アンタは急いで小屋に行って!」
と言うとニコは降りようとした
「まて!」ジュンはニコの腕を掴んだ
「サラは逃げない…一緒に小屋へ行こう」
「彼は自殺なんかしない…でも
気になるから行ってあげて」
ジュンは少し考えて
「わかった…でもここで降りてどうする?
家まで送るから…それから行けばいい
その方が早い」
ニコは頷くとジュンはワゴンを走らせた
ニコの家に着くと
音を聞きつけてニコの両親が玄関で待っていた
「パパ…車を出して!」
ニコのパパは驚いた顔をし
「何があった?」と聞くと
ニコは車の中で話すから
直ぐに車を出すように頼んだ
ニコのパパがガレージに向かうと
「ジュン…早く行って!」と言った
ジュンはワゴンのタイヤを鳴らし
走り去った
ニコはパパの車に乗り込むと
同様に走り去った
ひとり残されたニコのママは
溜息をつくと家に入って行った
ニコはパパに
一通り説明し
サラの病院へ行く様に言った
ニコのパパは
「乗りかけた船だ…行くしかないな
でも…サラの前にそのドクターと話をした方がいいだろう
…とにかく急ごう」
と言った
ニコのパパの車はジュンのワゴンと違い
3倍の時間を短縮して病院についた
受付で
「サラの担当のドクターと話したい」と言うと
「そこでお待ち下さい」と言われ
ロビーで待たされた
ジュンは
小屋の裏にワゴンを停めると
僕の所に走ってきた
僕はテラスで長椅子に座っていた
「おい…大丈夫か?」
「?」
「大丈夫そうだな…」
ジュンは僕を見ると
「俺にも煙草くれ」と言った
煙草をジュンに渡すと
「なんだ…心配になって来たのか?」
と聞くと
「煙草切らしたんだよ」と言い
煙草に火をつけ
吸い込むとさっき走って来たせいか
思いっきりむせた
「ありがとな」と僕は言うと
「煙草もらいに来たって言ってんだろ」
「ははは…わかったわかった」
ジュンはチェっと舌打ちしたが
口元が笑っていた
病院で待つニコとニコのパパ
すると先程のドクターが
ゆっくりとやって来て
ニコリと笑うと
「彼はどうだった?」
と聞いた
「ちょっとアンタ…」とニコは
大きな声をあげたが
ニコのパパはニコを抑え
「サラにどんな治療はしているのか知りたい」と言うと
「それは…家族では無いあなた方にはお話はできない」
と言うと
「サラは身寄りがいない…
小さい頃からいつも一緒だったから家族同然だ」
と言うと
「詳しくは話せませんが…」と
本当に簡単に説明があった
それは…
薬によって僕を
サラの記憶から消す事から
始まり睡眠療法で
そのつじつまが合わない所を
思い出したくない思い出と
認識させスルーさせる事によって
辛い思いをしなくて済む
…と言う事だった
「なんて事を…」とニコは言った
ニコのパパは冷静に
「サラの両親の事は?」
と聞くと
「小さい頃の思い出以外は
はっきりと思い出せないと思う」と言った
「じゃあ…私も会わせて欲しい」と言うと
「サラはまだ治療中だから
今日は君らと会って疲れているから
ご遠慮願いたい」と言うと
立ち去ろうとした
ニコは「ちょっと待って…
彼はどうだった?って
どう言う事?」と聞くと
ドクターはまたニヤリと笑い
「彼は諦めただろう?」と
言った
ニコはドクターに掴みかかった
「それが狙いだったの?」
と言うと
「一番の障害は早めに取り除いた方がいい
わかるかい?サラは危険な状態なんだよ」
とあっさり言った
「なんて事を…」と
ニコは泣き崩れた
「それでは…」と言いドクターは
その場を立ち去った
ニコはパパに抱えられて
ロビーを出た
泣き収まらないニコが落ち着くまで
病院の庭のベンチで休む事にした
ニコはパパに
「あの2人はどうなるの?」
パパは黙って首を横に振り
「2度も死のうとしたサラを考えると
あの治療方も間違いでは無いかも知れない
…」と言った
「そんな…ありえない」とニコはまた泣き崩れた
しばらくベンチで泣いていたが
やがて疲れて落ち着きを取り戻しつつあった
ニコのパパは
「じゃ…きっとママは心配しているから
電話してくるよ」と言いベンチを立った
ニコはパパを見上げたその時
「あ!」
パパの遥か後ろの
病室の窓にサラがいた
ニコはたまらずに
走り出した
パパが「ニコ…」と呼んだが
ニコはまっすぐ病院に向かって
走って行った
ニコは病院に入ると
階段を探し
駆け上がり
サラのいた部屋へ向かった
長い廊下にネームプレートを
見てまわり
サラの名前を探した
奥から3つ目の部屋に
それはあった…
ニコはノックもしないで
病室に入ると
窓際にサラが立っていた
サラは
「あら?ごきげんよう」と
朝と同様な笑顔で答えた
ニコは泣きながら
サラの腕を掴むと
「ここにいちゃダメ」
と連れ出そうとすると
サラは
「どうしたの?そんなに泣いて
…つらい事があったの?」と
笑顔のまま答えた
ニコは
「とにかく…ここを出るのよ
はやく…」とサラを部屋から出そうとすると
サラは「わたし…ドクターの許可が無いと
お部屋から出ちゃいけない約束になってるの」
と言った
ニコは「いいから…早くここを出るの!!」と叫んだ
サラは「なんで?どうして?」
と少し困った顔で聞いた
ニコは泣きながら
「彼があなたを待っているのよ!」
「彼?」
「そう…彼」と言い
ニコは僕の名前を言い
「覚えてないの?
…あなたが自殺未遂するまで愛してた人よ」
と言うと
サラは固まった
ニコは
「さぁ…早く彼のとこへ行くのよ」
とサラの腕を引っ張ったが
サラはビクとも動かない
「…サラ?」
サラは固まったまま動かない
サラは壁の一点をジッと見たまま
ニコはもう一度
「サラ?」と呼んだ
サラは固まったまま動かない
「サラ?…どうしたの?」
と聞いた
その壁の一点を見つめたまま
サラの瞳に涙が溢れてきた
「サラ?…思い出した?」
と聞いた時
サラは固まったまま
涙がボロボロとこぼれ出した
そして
悲鳴に近い叫び声をあげると
固まったまま…
狂った様に泣き出した
その騒動に
ナースがやって来て
「あなた…なにしてるの?」
と言うと即座に病室から出されてしまった
すると先程のドクターがやってきて
サラを見るなり
「何をしたんだ?」と
ニコの両腕を掴んで強く揺すった
その瞬間
一点を見て微動だにしなかった
サラの視線はニコを見た
すると
更に手が付けられない程
叫び暴れだした
ナースに抑えつけられながら
サラはニコに…
とても小さな声だが
ハッキリと「会いたい…」と言った
ニコはドクターの手を振り払い
サラの所に行こうとしたが
男性ナースに抑えこまれ
また部屋から出された
ドクターは警備員に
「コイツを追い出せ!」と
叫ぶと
2人の警備員はニコの両腕を掴み
連れ出そうとした
そこへ遅れてやってきたニコのパパは
「ちょっと待て…この子は私の娘だ」と言うと
警備員からやや力ずくでニコを奪い返した
ニコはパパを見ると
泣き叫びながら
「サラが…サラが…」と訴えた
ニコのパパは病室を覗き込むと
中でも泣き叫んでいるサラがいた
抑えこまれ注射を打たれていた
すると…サラは涙を流しながら
おとなしくなり…眠った
ドクターはニコのパパに向かって
「ここから出て行け!」と怒鳴った
ニコのパパは
「言われるまでもない…
アンタの治療はやはり人道的に間違っている
後日…弁護士を通してサラを返してもらう」
ドクターは怒りの表情のまま
黙ってニコのパパを睨み返していた
「行こう…ニコ」と言い
ニコをつれて帰ろうとすると
ドクターは
「あなたには…わからない」と呟いた
ニコのパパは車にニコを
無理やり押し込むと
車を走らせた
「停めて!
なんで?サラを置いてくのよ?」と
泣き叫ぶニコに
パパは
「今…あの状態でつれ帰っても
私たちには何もできない
それに無理やりつれ帰ったら誘拐になる」
と強く言った
ニコは助手席で泣き崩れた
「きっと…サラを取り戻す」と
パパはニコに言った
僕は長椅子に
ジュンはテラスに座り
海を眺めていた
海は穏やかで気持ちがいい風が吹いていた
僕が「ニコは?」と聞くと
ジュンはギクッとし
「・・・帰った」と言った
「嘘だろ…?」
ジュンは黙って目線を海に戻した
「病院か?」
ジュンは黙ったまま…しかたなく頷いた
「ニコらしいな…」
ジュンはまた頷いた
「おまえ…不二家のペコちゃんだな」
ジュンは頷き…ハッとして
「おまえ…本当に平気なんだな?
…冗談まで言えるなら安心だ」
「心配して損したか?」
「あぁ…見に来て後悔してる
…ニコと行けばよかった」
とふて腐れた顔をした
僕は煙草に火をつけ
ゆっくりと吸い込んだ
「全然平気じゃないさ」
と呟いた
「え?」と
ジュンは振り返り僕を見た
「正直…退院してからの俺は
一体なんだったんだろう?
って思ったよ」
ジュンは黙って僕を見ている
「劇的な再会とまでは行かなくても
もう少しはな…期待したよ
あのサラは明らかに
僕を覚えてない…」
「それで諦めたのか?」
「いや…ショックがデカ過ぎて
どうリアクションしていいかわからない」
ジュンはまた頷いた
「な!…ペコちゃんだろ?」
ジュンはうなずき…またハッとし
「おまえの精神構造はわからねぇ」
「あぁ…もうグチャグチャだよ
…頭ん中…おまえと同じだよ」
ジュンは僕を指差して
「言うねぇ~」と言った
僕らは笑った
そしてまた海を見た
無言のまま時だけが流れていた
今度はジュンが
「ニコ…サラに会えたかな?」
と呟いた
「さぁ…どうだろうな」
会えたところでどうにもならないだろう…と
2人は思っていた
2人の知らないところで
状況は大きく変わっていた事は
まだ…知らない
ジュンは
「おまえ…死ぬなよ」
と言うと
ジュンはラジオの
スイッチを入れた
ママス&パパスの
『California Dreamin'』が
流れてきた
♪All the leaves are brown and the sky is gray
I've been for a walk on a winter's day
If I didn't tell her I could leave today
California dreamin' on such a winter's day
{葉はすべて枯葉色,そして空は鉛色
冬の日に散歩なんて
もし彼女に散歩に行くなんて言わなければ
今日にでもここを出て行くのに
こんな冬の日はカリフォルニアの夢を見るんだ}
ニコとパパは僕らの町に着いた
ニコは
「早く2人に知らせなきゃ…」と言うと
パパは首を横に振った
何故?という顔をしてるニコに
「ジュンから連絡が無いって事は
彼は大丈夫って事だろう
…今日はそっとしてやろう」
ニコは少し考えて
「そうね…」と呟いた
パパは
「帰ろう!ママが心配してる」
ニコは頷いた
太陽はすっかり落ちて
宵闇が広がって行く中
ニコを乗せた車は家へと向かっていった
その日の夜は
おのおの…
眠れない夜を過ごした
…サラ以外は
サラは薬で眠らされていたが
夜中に目を覚ました
周りを見回すと
ベッドの横に女性の警備員が
ウトウトと居眠りをしていた
そっと起き上がろうとしたら
動けない…
手足に拘束具がついていた
サラは諦め…小さく溜息をつくと
窓から綺麗な月が見えた
遠くで小さく潮騒の音が聞こえた
サラの脳裏に浮かんだのは
僕の小屋で僕と見た月だった…
サラは胸が張り裂けそうになり
嗚咽をあげた
目を覚ました警備員が
内線電話で知らせた
しばらくすると
ドクターがやってきた
サラをじっと見て言った…
「サラ…駄目じゃないか
思い出しちゃ」
「もう…帰して」
「それはできない…
君は治療中だ…それに
状況が変わった
また…やり直しだ」
「もういい」
「ダメだ」
「なぜ?」
「サラ…もうおやすみ」
と言うと
ドクターは白衣のポケットから
注射器とアンプルを出し
注射器の中に液体を
入れた
「いや…やめて…」
動けないサラの腕に注射をした
「あぁ…」
サラは涙を流しながら
落ちていった
落ちていくサラを見て
ドクターはサラの頬を撫で…
小声で何かを呟くと
サラに背を向けた
警備員に
「薬を打った
朝まで起きないから
君はもう帰ってよろしい」
と言うと
病室を出て行った
朝…
小屋のテラスでは
僕は長椅子に
ジュンは床に寝ていた。
2人とも爆睡し
イビキをかいていた
その頃…
ニコの家の電話が鳴った
朝食の準備をしていた
ニコのママが電話に出ると
顔を青ざめた
サラの容態が急変したらしい
急いでニコとパパを起こし
伝えると
ニコは固まった
パパはニコに
「早く彼らに伝えなさい…
直ぐに行くぞ」
と言うとガレージに走っていった
ニコは携帯に電話するが
…でない
「なにしてんのよ」と
イラついているとパパは
途中で拾って行くから
ニコも準備しなさい
と言った
ニコは部屋に戻って
パジャマを脱ぎ捨てた
ニコが着替え終えると
パパはもう車の中にいた
ニコは車に飛び乗ると
急発進して出て行った
あっという間に
小屋に着き
ニコが小屋に走り
寝ている僕らを見て
溜息をつき
「早くおきなさい」と
ありったけの大きな声で叫んだ
僕は驚いて飛び起きたが
ジュンはかなり寝ぼけている
僕は
「おはよう…ニコ」と言うと
「サラが大変なの」
「え?…どうした?」
「わからないの」
と言いまだ床に転がっているジュンを見て
「起きなさいって言ってるでしょ」と
背中を蹴った
「痛ってぇ」と叫んだ
「ジュン起きろ!行くぞ」
「どこぇ?」
「いいから来い」と3人は
パパの待つ車まで走った
車に乗り込むと
直ぐに走り出した
僕らは
サラがどうした?とか
何があった?と騒がしかった
「静かにしてくれ!」と
パパが言った
かなりオーバースピードで
運転していた
僕らは大人しく運転を見守った
病院に着くと
そのまま
サラの病室に行った
病室には
ドクターとナースが
サラのベッドの横に立っていた
僕らはサラの元へ行き
「サラ…」と声をかけた
しかし
サラは人形に様に動かない
目は開いているが
視点がかなり遠くにあった
僕らが呼んでも
わからない様だ
ドクターは静かに話始めた
「君らの騒動のせいで…
サラは精神に致命的なダメージを与えられた」
するとニコは
「サラに何をしたの?」と詰め寄った
ドクターは
「何を…ってしたのは君達じゃないか」
「嘘よ…サラは戻ってたわ
ちゃんと思い出してた」と訴えると
「何を根拠に…君の話は
まったくわからない」
と…また右の口角を上げて
そう言った
ニコはワナワナと震えていた
ニコのパパは
携帯で弁護士に直ぐに来る様に伝えていた
僕が動かないサラを抱きしめているのを
見たドクターは
「あのまま素直に諦めていれば良かったものの…」
と呟いた
僕はニコが車の中で昨日の話を
話していた事を思い出した
次の瞬間…
僕はドクターの顔面を殴り飛ばし
壁に激突し
跳ね返って来た所に2発…3発と
殴り続け
ひっくり返り床にうずくまった所に
腹に何発も蹴りを入れ
更に顔面を蹴り上げた時に
警備員に
警棒で後頭部を殴られ
怯んだ隙に
床に押さえつけられた
ドクターを見ると
顔中血だらけで床に転がっていた
突然の出来事で
みんなは凍りついた様に
固まっていた
ナースは人を呼び
ドクターは抱え出された
僕は抑えつけられ
動けないので…抵抗をやめた
しばらくすると駆けつけた警官に
僕は手錠をされ
病室を連れ出された
ニコが止めに入ったが
そのまま両腕を掴まれたまま
病院の前に停めてあったパトカーに乗せられた
車の中で
インドネシア語で色々言われたが
全然わからないから
黙っていた
警察署に着くと…
取調室であろう
狭い部屋に連れていかれて
言葉がわからないまま
質問攻めにあったが
何も答えない僕に
諦めたらしく
30分程沈黙が続くと
1人の若い男が入ってきて
警官に何かを言うと
僕は手錠を外された
彼は流暢な英語で
「私はニコのパパの弁護士だ
安心したまえ…今、出れる」
と言うと
「立てるかい?
何かされたかい?」と聞き
僕は「大丈夫…抵抗しなかったから
何もされてない」
「そうか…それならいい」
と言うと
僕を立たせ一緒に部屋を出た
手錠を外され
広い部屋に連れて行かれ
1枚の書類に彼はサインし
その下にサインする様に
言われた
僕は言われた通りにサインをした
どうせ何が書いてあったかなんて
読めないんだから
そうするしか無かった
警察署のパーキングに
やけにピカピカなベンツが停まっていた
彼は僕を後ろの席に座る様に言った
僕は後ろのドアを開けると
ニコが飛びついてきた
「無事でよかった」
僕は頷いてベンツに乗り込んだ
彼は運転席に乗り込み
車を走らせた
「まず…君は大丈夫だ
これから僕の事務所へ行く
そこで詳しい話は
日本語が話せるスタッフにしてもらうが
それでいいかね?」
僕は頷いた
「GOOD」そう言うと
その後は何も言わずに
運転に専念した
隣でニコが
何かを言っていたが
頭が混乱していて
覚えていなかった
サラの事や
ドクターをボコボコにした事や
警察に引っ張られた事が
まったくリアルに感じなく
夢の出来事の様な
感覚で
静かな車の中で
流れる景色をボーと見ていた
事務所についた
汚いビルの中にあったが
部屋はお洒落なインテリアが飾ってあり
センスのいい部屋だった
BGMにアントニオ・カルロス・ジョビンの
ゆるいボサが流れていた
たしか『Wave』
そこには
ニコのパパとジュンがいた
僕らが入ってくると
2人より先に
1人の女性が近づいて来た
この暑いのにスーツを着込んでいるが
ワイシャツのボタンを胸元まで開け
ふくよかなバストを強調し
高いヒールで綺麗な歩き
見るからにやり手な印象だった
彼女は僕を見ると
笑顔で右手を出し
握手を求めた
僕は少し躊躇しながらその手を握ると
日本語で
「あなた・・・やるわね」と
ウィンクした
「そこに座って・・・」と言うと
応接セットを指差した
「まず…あなたの事より
あなたが気になるサラの事だけど
今…あそこの病院から出して
ボスの知り合いの病院で検査してるから
とりあえず安心して…
私達はあのドクターを訴える準備をしてる
次は…あなたの事だけど
あなた…警察で何か言った?」
「いや…言葉がわからないから
何も言ってない」
「そう…それはいいわ
変な事言ってたら不利になるからね」
「彼は僕は大丈夫って言ってたけど…」
「ボスの友達が外交官だから
そっちから手をまわしたの
あっちが訴えても…こっちの法律では
裁けないし
あのドクターの行動や言動が悪意であり
あなたの行動は正当であったと
証明すればいいのよ
…ちょっとやりすぎだったけどね」
と彼女は笑った
「よろしく…」としか言えなかった
彼女は書類を見ながら
「鼻骨骨折とあばら2本がヒビと首の捻挫だけど
悪意と証明されたら…
取り下げるわよ…きっと」
と言うと
また…ウィンクした
「あなた…逮捕歴は?」
「ない…」と言うと
彼女は楽しそうに
「じゃ…凄い体験したわね」と言った
僕はいささか拍子抜けしたが
「凄い体験って…」
「あなた…度胸があるわ
きっと侍なのね!」
なんでどこの国でも
こう言う例えが好きなんだろう?
と思ったが
「もう日本には侍はいないよ」
と言うと
「あら!そうなの?」と驚いた顔で言った後
急に…大げさに笑った
「ごめんなさい
日本人にはこれがウケるって聞いてたの
…日本人は堅真面目だから
こう言うといいって
侍なんて…100年以上も昔の話よね」
それを聞いたジュンは
「この女…かなり悪趣味だな」
と呟いた
彼女はジュンをジロっと睨むと
ジュンは
「だけど俺の好みだ…」と
付け足した
「わたしとつきあうと高くつくわよ」
と言うと
「そこも好みだ…」と
言った
彼女は僕を見て
「この人はいつもこうなの?」
と聞いた
僕が呆れ顔で
「誰にでも」と言い頷くと
彼女は爆笑した
向こうでニコとパパが
不思議そうな顔して見ていたが
ボスが説明すると
ニコがもの凄く呆れていた
ボスはニコに
「彼には無理だ…彼女はミセスになったばかりだ
しかも…相手はセレブで執念深い」
と言うと
ニコは声をあげて笑った
「それは高くつくわね」
僕らは事務所を出ると
ニコのパパの車で
とりあえずニコの家へ
行く事になった
車の中でニコが
「あのドクターをぶっ飛ばしたのは
ビックリしたけどスッキリしたわ」
と笑った
「おまえ…何かやってたのか?」
とジュンはボクシングの動きをした
僕は首を横に振った
ニコのパパが
「ひょっとしたら
わたしは殺されてたかもな」
と呟いた
「え?こいつニコのパパに
なにかしたのか?」
と驚いた顔で聞いた
「いや…あれは…」とニコのパパが
説明しそうになり
「パパ!!」
とニコが慌てて止めた
ジュンは僕を見て
「おまえ…サラだけじゃなく
ニコにも手を出したのか?
なんでおまえばかりモテるんだよ」
と言うと真面目に悔しがった
僕は
「モテるとかじゃないよ…あれは…」
「もう…やめて」とまたもニコが遮った
それを見てジュンは
「まさか…ニコが手を出したのか?」
と言った瞬間
ニコの右手はジュンの頬を叩いた
「俺はこんなんばっかだよな…」
彼らは僕に気を使い
明るく振舞って
車の中は笑いに溢れていたが
僕は…やっぱり
サラが気になっていた
あんなになって
元に戻れるのだろうか?
車のラジオから
スティングの
『Shape Of My Heart』が流れていた
♪He deals the cards as a meditation
And those he plays never suspect
He doesn't play for the money he wins
He doesn't play for respect
{カードを配りながら想いに沈む
相手にそれを悟られないように
Playするのは金の為ではなく
強さを誇りたい為でもない}
僕は…車の窓から
景色を眺めていた
ニコの家に着くと
僕らは食事を取り
リビングでくつろいでいた
ニコのパパは
「君は弁護士から暫くは
この家にいる様に言われているがどうする?」
「いえ…小屋に戻ります」
と答えると
ニコは「なんで?そうしなさいよ」と言った
ジュンは「また襲う気だな」と言うと
「襲われたのは私・・・あ!」と言い
ニコは申し訳なさそうに僕を見た
「なるほど…そうだっか」とジュンは呟くと
また叩かれた
「とにかくそうしなさいよ…
急な連絡があっても困るでしょ?」
とニコのママは言った
「彼は裁判になると…
君もひとりだと危険だと言っているんだよ」
とニコのパパは言うと
「ここは日本じゃねぇからな」とジュンも言った
ジュンの言った事が後に
身にしみるとは
この時は全然わからなかった
と言う事で
またニコの家にやっかいになる事になった
そして2日後…
サラの検査結果が出たと言う事で
僕らは病院へ向かった
結果よりサラに会える事が嬉しかった
病院に着くと
まずサラに面会が出来た
サラは相変わらず人形の様だった
僕はサラの頬にKissをして
抱きしめた
サラは無表情でまるで抜け殻の様だった
でもそこにいるのは確かにサラで
抱きしめられる事が嬉しかった
医師は
こんな状態だがいつでも会いに来ていいと
言ってくれた
そして…弁護士が遅れてやって来て
僕らは別室に移動した
そこでは
サラの状態と今後の話があった
サラは戻らない可能性は無いが時間がかかると
そして…検査の結果を
話そうとしたが
医師は弁護士に何かを話し
少し2人で話したいと言う事で
僕らは部屋を出されたが
すぐにニコのパパだけは呼ばれた
僕らはニコの病室に行き待った
かなり長い時間がかかっている
僕はサラの手を握り…サラを眺めていた
すると
ニコのパパが
難しい顔をして戻ってきた
僕を見て
「君だけ来てくれ…」
とだけ言うと部屋を出て行った
これはただ事ではない…
と思っていたが
予想を上回るショックが
待っていたとは
その時の僕には想像もしていなかった
移動中…
ニコのパパは何も言わなかった
部屋に入ると
部屋の空気は重苦しかった
弁護士は…そこに座ってと言い
僕は向かいに座ると
ニコのパパは隣に座った
弁護士は
「落ち着いて聞いて欲しい」と言うと
医師を見た
医師は難しい顔をしてゆっくりと話始めた
その内容は…
激しい怒りと悔しさに言葉にならなかった
身体の震えが止まらなかった
頭が真っ白になり倒れそうだった
ニコのパパは僕の肩を抱き
支えてくれた
それは…
サラの体内から
さまざまな物が発見されたと言った
その中の3つは
サラの治療にありえない薬品で
ひとつはまだ市販の許可が出ていない薬
もうひとつは…多量に投与すると
今のサラの状態の原因ではないか?と思われる薬
最後のひとつは
ピルに相当する薬
そして…少量ではあるが
男性の体液
医師は「無理やりあそこから連れ出したは正解だった
…もう少し遅れたら」
と加えた
サラは身内がいない事で
記憶をいじられ…
人体実験のモルモットにされ…
若く美しいサラはレイプされ
挙句に
口封じに危険な量の薬を投与されていたと
考えられる
…これは完全に悪質な犯罪だ
と弁護士は言った
僕はただ…呆然としていた
立つ事すら出来なかった
僕はやはり日本人である事を
強く自覚させられた
…こんな事がありうるなんて
弁護士は
「大丈夫かい?」と聞いたが
僕は頷くしか出来なかった
「そうか…」と言うと
医師から書類を貰い笑顔で握手をして
後は任せろ!と言う顔で
僕の肩をたたき部屋を出ていった
そして
「何かあったら言って下さい」と言い
医師も席を外した
部屋にはニコのパパが残された
僕は呆然としたままだったが
急に涙が溢れてきた
声すら出ないのに・・・涙だけが
溢れて止まらなかった
ニコのパパは黙って肩を抱いていてくれた
どの位時間が経っただろうか…
落ち着くまで相当時間がかかった
ニコのパパは
「重い十字架だ…」と呟いた
僕は「みんなには…まだ言わないで欲しい
…裁判になればいずれ分かるし」と言った
ニコのパパは
黙って頷いた
僕とニコのパパは
応接室から出た
時計を見たら
ここに来てから2時間は経っていた
部屋に戻ると
待ちくたびれているだろうと
思っていたニコとジュンは
深刻な顔をしていた
これだけ時間がかかれば
ただ事では無いと思うのも
当然だろう
彼らも聞くに聞けない雰囲気で
僕も言葉が見つからなかった
長い沈黙…
ニコのパパが口を開いた
「サラは…このままかも知れない」
え?…と思ったが
それしか無いな…とも思った
ニコとジュンは僕を抱き泣いた
ニコのパパは更に加えた
「一番可哀相なのはサラだ…
泣く事も出来ないのだから
さぁ…泣くのはやめよう」と…
僕らは頷いた
僕はニコのパパに
「ここはずっといられるのかな?」
「それは…
聞いてみなければ分からないが
面会は出来るが…
つきっきりは多分無理だろう」
「そうか…じゃ先に帰って下さい…
僕はいれるだけいたい」
「帰り方わかるかい?」
「調べます」
「じゃ…教えてあげよう」
と言い
メモに詳しく書いてくれた
「じゃ…帰ろうか」と言うと
ニコは渋ったが
パパは首を振り…
目で僕とサラを見て
「2人にさせてあげよう」と
言い
3人は帰っていった
しかし…
30分程して
ニコのパパが突然1人戻ってきた
「とりあえず持っておきなさい」と
財布から何枚かお札を出し
僕のポケットに押し込んだ
「ありがとう」と言うと
ニコリと笑い出て行った
病室にサラと2人きり
サラに声をかけようにも
何も言葉が出て来ない…
「可哀相なサラ…」
そんな言葉はきっと望んでいないだろう
人形の様なサラを見ると
泣けてきた
僕はベッドに座りサラと並んだ
すると偶然か
僕の重みで沈んだのか
サラの頭が僕の肩にもたれ掛かった
僕はその重みが懐かしかった
それだけの事だけど…
僕は嬉しかった
右の腕をそっと抜き
サラの頭の後ろにまわし
腕枕の様にして
肩を抱いた
その後…何度か
ナースが見にくると
「あら・・・お邪魔かしら」と
冗談を言って笑った
何にも変化も
何も無いが…
こうして
2人でいられる事が
幸せだった
動かないサラに
僕はいろんな話をした
君が家を出てからの事を…
いろいろ探しまわった事
自殺未遂の時の事
病院で暴れた事
会えなくて寂しかった事
荒れた生活をしてた事
僕は全てを話した
聞こえているのか?
理解できているのか?
わからないが
話さずにはいられなかった
診察の時には
度々中断したが・・・
サラが目の前で聞いていてくれてるのが
嬉しかった
夢中になって話をしていたら
…気がつくと
外はすっかり夜になっていた
ナースは僕が車で来ているかと思い
ベモ(バス)が来る最後の時間を
教えず邪魔しない様に気を使ってくれた
そして面会時間が過ぎ
外に出された
暗い中をベモを探し歩いたが
街はずれのこの病院付近は
タクシーはおろか…車さえ通らなかった
しょうがないから
僕は病院に戻り
タクシーを呼んで貰おうとしたが
病院の1階は電気が消え
ドアには鍵がかかっていた
僕は途方に暮れた…
すぐに諦めて
外からサラの病室が見える駐車場に行き
地べたに座り込んで
いつまでも見ていた
サラは目を開けたままなので
夜は電気が消えていた
「サラ…眠れてるかい?」
と独り言を呟いた
当然の如く
時間が止まった様に
何も変わらない夜だった
サラの病室からそのまま
目線を上げると
綺麗な月が出ていた
「綺麗だ…」と呟くと
それに答える様に…腹がなった
「ハハハ…そう言えば何も食ってないや」と
独り言を言って笑った
ここは高台で海は近くないが
何もなく静まりかえった駐車場は
小さく潮騒が聞こえた気がした
誰もいない駐車場にひとりぼっちだが
近くにサラがいると思うと
なんだか嬉しかった
僕はRod Stewartの
『Tonights the night』を
口ずさんだ
♪Tonights the night
It's gonna be alright
Cause I love you girl
Ain't nobody gonna stop us now
{今夜は二人だけの夜
何の問題もないさ
君を愛してる
誰にも止められやしないんだ}
夜も更け…
さすがに疲れが出てきたのか
眠くなった
その場にゴロリと寝転ぶと
視界に星空が広がった
真っ暗な駐車場が効果を引き立てて
まるで自分が宙に浮いている様に
感じた
「これは…凄い」と呟くと
遠くから
1台の車が駐車場に入ってきた
せっかくの天体ショーが邪魔された
車はドンドンこちらに向かってきて
目の前で停まった
ヘッドライトでよく見えないが
誰かが降りてきた
「こんな事だろうと思った」
「轢かれて死ぬぞ」
と聞き慣れた声がした
ニコとジュンだった
「何してたの?こんなとこで」
とニコが聞いた
「プラネタリウムさ」と答えると
2人は空を見上げ
その後…お互いの顔を見合わせ
やれやれと両手の平を上に向けた
なかなか戻ってこないから
小屋に帰ったか…病院の外で野宿だろう
…じゃなきゃ歩いて帰ってる
とニコのパパは教えてくれたと言う
「さぁ…乗れよ」と
ジュンは右手を出した
僕はその手を取り
立ち上がると
服の砂を落とし
車に乗り込んだ
車はワゴンではなく
ニコのパパの車だった
「やっぱり運転しやすいな…御機嫌だぜこの車」
とジュンは言った
「お前らが結婚すれば
ニコも車も乗り放題だぜ」と言うと
ニコは「あなたも叩かれたいの?」と
右手をあげた
「それは遠慮しとく」
と言ったその時
車はタイヤを鳴らし急発進した
「ちょっといい加減にしなさい」と
ニコはジュンの頬を叩いた
「ははは…ロッケンロー」と
頬に手のひらの印をつけたまま
御機嫌に叫んだ
やっぱりマゾヒストってのは本当だな…と思った
そして僕は
後部座席ですぐに眠りに落ちていた
それに気がついたニコはジュンに
「少し遠回りして」と言い後ろを指差すと
「俺んちくるか?」と言い
今度はコブシでこじられた
そして軽いドライブをして
ニコの家についた
寝落ちた僕を
ジュンとパパが家に運んでくれてる最中に
目が覚めた
「あ~起きちゃった」とニコが笑っていた
ニコのママが
「シャワー浴びてらっしゃい
…お腹すいたでしょ」と言い
僕は頷くと
「だから絶対食べてないって言ったでしょ」と
ニコは笑って言った
シャワーを浴び出てくると
ニコのパパがバスタオルを持って
待っていた
真面目な顔で
「大丈夫か?」と聞いた
「ありがとう…とりあえず」と
頷くと
「そうか…よかった」と言い
笑顔で行ってしまった
リビングに戻るとみんなは待っていた
よく見るとテーブルの上の料理は
誰も手を付けてなかった
みんなで待っていてくれたのだ
これにはちょっと感動した
ニコのパパは
「さぁ…ご馳走だ!食べるぞ」と
活き込んだ
お腹は空いていたが
胸がいっぱいになった
その2日後…
あのドクターは逮捕された
僕はサラの自転車で
毎日…サラに会いにいった。
片道2時間かかったが…
全然苦にはならない所か
楽しくてしょうがなかった
この事もあり…
自暴自棄になっていた生活が
完全に無くなった
食欲も出てきて
一時はやつれていた頬も
戻ってきた
しかし…
変わっていく僕とは対象に
まったくサラはそのままだった
でも…僕は
毎日色々な話をした
病院の人達とも
かなり友達が増えた
ジュンも気まぐれだが
迎えにきてくれたりもした
ジュンはバイクを借りてきてくれると言ったが
国際免許を持っていないからと断ったが
「ここじゃ国際免許証は無効だぜ
…関係ねぇよ」と
奴が見せてくれたのは
日本の免許証だった
奴はこれでワゴンを走らせているらしい
まったく…信じられない男だ
だが…国際免許証は使えないのは
冗談かと思ったが
本当だったのは驚いた
ちなみに日本の免許証は
とっておきの冗談だったらしい
そんなこんなで
自転車で
ニコの家とサラの病院を行き来が
続いていた
そして数日後…
弁護士からニコのパパに
電話があった
確実な証拠もあり
圧倒的に有利な状況が
変わって来た
と言っていた
あのドクターは
ウエシャ(貴族)の末裔で
大学教授でもあるから
地位も金もあり
多額のワイロをばら撒き
警察やこちらの証人を
買収しているらしい
スードラ(平民)出には
圧力をかけている
もう手段は選ばない
…と言った所だそうだ
「君も気をつけてくれ」
と伝言もあった
なにに気をつけるんだろう?
と思ったが
ニコのパパが言うには
買収に揺るがないのは
今、サラを見ている医師と
サラが注射を打たれた夜に
その場にいた女性警備員と
話せないサラの代弁が出来て
一番サラを知っている僕が
消えて欲しい3人だから
と言っていた
それと…僕に限っては
ボコボコにされて
鼻を折られたのが
相当頭にきているそうだ
そして
もうすぐ裁判が始まるから
焦っているらしい
しかし…
僕はこれだけ確実な証拠もあり
裁判には楽勝であるだろうと
思い込んでいた
それが油断を生み
また…自分が日本人である事を
嫌という程思い知らされるのであった
そう…ここは日本では無いのだ
…ジュンが言ったとおり
そして…
その思い知らされる日が来た
僕は病院を出て
海沿いの道を自転車で滑走していた
夕陽が沈み…
Blueのグラディションの空を
楽しみながら
風は背中を押してくれていた
ニコの家まで
あと15分位の所で
突然…狭い路地の右側から
若い男が飛び出してきた
ハッと気がついた時には
その男が持っていた
バットが僕の左頬に当たり
その衝撃と鈍い骨の折れる様な音と共に
僕はそのまま自転車から転げ落ちた
顔の半分に強烈な痛みが走り
口の中に血の臭いが広がった
舌の上にゴロゴロと石らしき物があり
吐き出すと
折れた歯が3本転がっていた
口から溢れる様に
血が垂れてきた
起き上がろうとしたら
何か硬い物で殴られ
反対側に転がったままその男を見たら
その男はリボルバータイプ(回転式)の拳銃を
僕のこめかみに当て
「これは警告だ」と言い
ニヤリと笑い
撃鉄をおこすと
シリンダーがゆっくりと回り
「Bye…」と言い
躊躇わずに引き金を引いた
「やめ…」
カチン…何も起こらなかった
「ハハハ…弾は入ってないさ」
と男は楽しそうに言った
僕は心臓が止まるかと思った
すると
「お前…ミュージシャンなんだってな」
と言うと
右手を高くあげて
僕の左手の甲を
拳銃の柄で力まかせに叩きつけた
鈍い音と激しい痛みに
僕は左手の甲を押さえ
うずくまった
男は「このまま日本に帰れ!
次に会ったら…今度は弾は入れておく」
と言うと車に乗り
転がってるサラの自転車を踏みつけ
走り去って行った
僕は
痛みと
経験した事も無い体験で
まったく動けず
暫く道の真ん中で
ひっくり返ったままだった
気がつくと
僕の廻りに人だかりが出来ていた
何人か何かを話しかけられたが
言葉がわからなかった
そして
暫くすると
誰かが教えたのだろう
ニコが深刻な顔をして
走り寄ってきた
「どうしたの?
…大丈夫?」
「あぁ…」と答える事しか出来なかった
誰かが救急車を呼んでくれたらしく
救急車が来て
ニコは一緒に乗ってくれた
運ばれた先は
サラのいる病院だった
手術室に運ばれたが
口の中を縫い
頬と左手の甲にシップをし固定し
身体中の傷を消毒するだけの
驚くほど簡単な処置で
あっと言う間に終わった
治療をうけている間に
ニコのパパと弁護士がやってきていた
その出来事を話すと
ニコのパパは蒼白になり
弁護士は怒り地団駄を踏んでいた
警察を呼んだらしく
警官が来た…
弁護士が通訳してくれたが
事情聴取は驚く程簡単で
5分もかからなかった
あとは弁護士が話しをしてくれた
これも
お国柄ってヤツなんだろう…
僕は左上の歯を3本へし折られ
顔は打撲だが
骨折やヒビはなかった
勿論…脳にも異常は無く
首に軽いムチ打ちがある位ですんだ
しかし
左手は重い打撲で
暫くは動かないだろうと
言われた
たしかに手は倍に腫上がり
開いたまま指も動かなかった
その晩は様子を見るからと
サラと同じ病室にベッドを入れてくれた
もしもの為に警官が付けられたが
気を使って
病室の外で待機してくれた
しかし…
まったく甘かった
あれで拳銃に弾が入っていたら
そう考えると…
背筋が寒くなった
そう…ここは
日本では無いのだ
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another ss.4に続く
※コメントは『今日は指向を変えて・・・』の方にお願いします