another ss.1 | わがままなマックの最近思う事

わがままなマックの最近思う事

愛のままに…わがままに…僕は好き勝手に書いてます。 、

ここは…インドネシアのとある島

ガイドセンターで
ライフラインがいらないから…と
海辺で静かなコテージ(小屋)を探してもらった

そこは
まさに理想通りで

ワンルームの一間で

電気と水道とトイレはあるものの
机と椅子とハンモックしかない
あるのは…ただ海

現金とパスポートや
金目な物は総て
ホテルの貸金庫にしまい

Tシャツとパンツを数枚と
ノートパソとradioと
ギターのみ持って
その小屋を借りた

日本人と聞きつけ
何人か売り子が尋ねて来たが

ボケットから小銭とクシャクシャな数枚の紙幣を見せ
「これがすべて」
と言うと
笑顔で去って行った
噂は早いもので…
その後は来なくなった

腹が減ったので
街に出ると
日本の習慣は怖いもので
食い物屋は総て閉まっていた
海外で食い物に困ったら
ホテルのレストランへ行くといい
何かしらは食える

何とか腹を満たし
小屋に戻ると
ビーチは夕暮れ時だった

しばらく海を眺めていた

そして…
radioの電源を入れると

たるいBosaが流れてきた
手持ち無沙汰に
ギターを取り出して…
しばし…radioと
セッションを楽しんでいた

すると…
音に誘われ
2人の若いレディが
覗きにきた

構わずセッションを続けていたが…
たまたま1人と目が合い
ニコッと笑うと
2人は近くにやってきて
曲に合わせてリズムを取っていた
すると
片方が歌い始めた
とても綺麗な声だった
もう1人は踊っていた

そのまま
続けて2曲セッションすると

踊っていた子が
何かを呟くと走って行ってしまった

2人残されたビーチは
太陽が沈みかけていた

彼女が何かを話したが
たぶんインドネシア語だろう
わからなかったので
笑顔で首を振ると
かたことの英語で言った
「日本人?」
「そう」
「観光?」
「う~ん
心を癒やしに」
「そうなんだ
ようこそ…島へ」
「ありがとう」
「ねぇ…何か歌って?」

そして僕は
ジェームス・タイラーの
『You've Got A Friend』を
歌った

これが…彼女との出会いだった

You just call out my name,

and you know whereever I am
I'll come running, oh yeah baby
to see you again…


2コーラス目から
彼女も一緒に歌いだした

歌い終えると…
夕日は沈んで
周りはすっかり暗くなっていた

「この曲…素敵だわ」
「僕の大好きな曲さ」
月明りで彼女はとても綺麗に見えた
「ここには…いつから?」
「さっき来たばかり」
「そうなの?」
「そう」
「荷物はまだ届かないの?」
「これだけさ」
とバックとギターを指差した
「本当に?」

「そうさ」
彼女は声をあげて笑った
「おもしろい人…」

するとさっき走り去っていった友達が戻ってきた
両手にはビールと袋を抱えていた
「なにしてるの?
こんな暗いとこで…灯りは?」
「ない」
ふたり揃って答えた
「なんなの?」
友達は驚いた顔をしながら笑った

3人は乾杯し…
しばらく楽しげに話をした
彼女達は日本の話に
興味を持ったが…

実はあんまり日本の話は
したい気分ではなかった

夜も更けて
会話が途切れはじめ
「もう疲れた?」
「あぁ…長旅だったからね」
「そうだ…ごめんね」
「いや…君達と出会えたから
楽しかった」
「また…遊びに来ていい?」
「もちろん…いつでもおいで」
「今夜は楽しかった」
「じゃぁ…またね」
と…彼女達は帰っていった

僕はハンモックにで寝ようかと
手をかけたが…
落っこちて
背中を打って
今夜は長椅子で寝る事にした

ラジオを消して
ぼんやりと波の音を聞きながら
いつのまにか

眠りの波にのまれていた

 

 

朝…目を覚ますと

僕は薄い毛布がかけられていた
「ん?…」

「おはよう」
向かいの椅子に
昨晩…一緒に歌った彼女が言った

テーブルには
パンとオレンジジュースと
コーヒーと
スクランブルエッグとベーコンを炒めた物が
置いてあった
「あれ?」
「一緒に朝食をと思ったんだけど」
時計を見ると9時をまわっていた
「あ…ごめん」
「起こそうと思ったんだけど…
気持ち良さそうに寝てたから」
「起こしてくれたら良かったのに…
さて…食べよう!」
「さめちゃったかも」
「いや…美味しそう
お腹もすいた」
彼女は何も無いキッチンを見て
「ここ…本当に何もない部屋ね」
と言った
「何もない部屋を探してもらったんだ」
「やっぱり…あなた面白い」
「うん…美味しいよ…これ」
彼女は笑顔で僕が食べてるのを見ていた
「一緒に食べよう」
「うん」
しばし…無言で食べていたら
「本当にお腹減っていたのね?」
「え?」
「すごい…食べるの早い」
「ははは…日本人の習慣だよ」
「みんな食べるのが早いの?」
「そう…みんな早い」
「昔はゆっくり語らいながら食べていたが
いつのまにか…早くなってしまったんだ」
「なぜ?」
「気持ちに余裕が無くなったのかもね」
「かわいそう」
「自覚が無いのが幸いなのかもね」
「そうなの?」
「あぁ」
「君となら
ゆっくり食べれそうだ」
「それはよかった」
ふたりは海を見ながら
ラジオからのミュージックをBGMに
いろいろ語り合いながら
遅い朝食を食べた。

「ごちそうさま」
「ごち…そ?」
「日本語で
美味しかったよ!ありがとうを
ごちそうさまって言うんだ」
「ごちそいま?」
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「そう…それでいい」
二人は笑いあった

ラジオから
ダンフォーゲルバーグの
『ロンガー』がかかっていた


Longer than there’ve been fishes in the ocean
Higher than any bird ever flew
Longer than there’ve been stars up in the heavens
I’ve been in love with you.


ここでは
いつもの倍近い
ゆったりとした時間が
流れている気がした。

彼女は言った
「今日はこれからどうするの?」

 


「なにも考えてない」
「ねぇ…私の好きな場所があるから
そこへ行かない?」

もう少しゆっくりしたかったが
朝食の事もあり
行きたそうにしている彼女に
「うん…行こう」と言った
彼女は「Good」と言うと
テーブルの上を片付け始めた

手伝おうとしたら
彼女は首を振り
長椅子を指さした
どうやら
待ってろって事らしい

僕は毛布をたたんで
彼女に渡そうとしたら
「これ…ありがとう」
「それ…使って」
「いいの?」
「夜は寒い時もあるのよ」
「そっか…ありがとう」

彼女は食器を洗い
バスケットに入れると
「さぁ…行こう」と
いっぱいの笑顔で言った

小屋を出ると
入口に
彼女の自転車が置いてあった
「これ…君の?」
「じゃあ僕が運転するよ」
僕と彼女は二人乗りで
海辺の道を北へ向かった

陽は強かったが…
風が冷たく気持ちがよかった
彼女はご機嫌に鼻歌を歌っている

20分程走ると
リゾート地域から少し外れた所で
「ここ…」と彼女が言い
そこはゲートがあり
明らかに誰かの土地であったが
狭い木陰の道をゆくと

一面の海が開けていた
「ここは?」
「友達の別荘のプライベートビーチ」
「いいのかい?」
「VIP専用でしばらく空いているって」

砂浜にタイヤを取られ
フラフラと海に向かって走り
もう少しで海と言う所で止まった

彼女は自転車を降りると
「ねぇ…泳ごう」

と言うと

突然…服を脱ぎだした
あっと言う間に
生まれたままの姿に…

「はやく!」
「え?」
「ここは誰も来ないから大丈夫」
さすがの僕も
驚いたが
急いで服を脱ぎ
彼女を追いかけた

海に飛び込むと
熱い日差しに
海は冷たく気持ちが良かった

彼女はドンドン泳いでいき
こちらを向いた瞬間
大きく息を吸い込み
潜っていった

 


僕も続いて潜ると
そこは
一面…綺麗な珊瑚礁と
綺麗な魚が沢山泳いでいた

あまりの綺麗さに
周りを見回してしたら
息が切れた
素潜りは慣れていたが
素晴らしい景色に
さすがに油断した

慌てて海上に出ると
彼女がやってきて
「ねぇ…素敵でしょ?」
と笑顔で言った
「うん」
「あっちはもっと綺麗よ」
と言うと彼女はまた潜っていった

あとを追いかけると
そこはさっきより深く
また景色が一変した

景色も然る事ながら
深いBlueの海に
一糸まとわない彼女の泳ぐ姿に
見とれていた
綺麗としかいい様がなかった

しばらく潜っては上がりをくり返していたが
かれこれもう1時間は経っていただろう
そろそろ疲れがでてきたので
彼女に親指で上を指し
もう上がると合図をし
2人でビーチに戻ると

来た時には気がつかなかったが
木陰にテラスがあり
そこには長椅子のビーチチェアがあり

ラジオから
エアサプライの
『Making Love Out of Nothing at All』
が流れていた

 

I know just how to whisper
I know just how to cry
And I know just how to fake it
And I know just how to scheme
I know just when to face the truth
And then I know just when to dream
And I know just where to touch you


2人は並んで座った
心地よい疲労感が
気持ちよかった

 


彼女はテラスの奥の棚から
バスタオルを2枚持ってきて
1枚を僕に
もう1枚を身体に巻くと
僕の隣に座った

「そんなに見ないで…
恥ずかしくなっちゃう」
「ハハハよく言うよ」

普通…
このシュチュエーションなら
変な気分になる所だが
心地よい疲労感が
よからぬ誘惑を
吹っ飛ばしてしまった様だ

僕らは服を着て
しばらくそのまま
ビーチチェアーに並んで座って
景色を楽しんでいた

「ここ勝手に使って怒られないの?」
「大丈夫よ…いつもだもん」
「…いつも?
友達が持ってるの?」
「いえ…友達のパパの…
使っているのは公認だからOKよ」
「そっか…じゃ安心だ」
「夜はまた素敵なのよ」
「また来たいね」
「はんと?絶対よ」
「もちろん」
「よかった…気にいってくれて」
彼女は本当に嬉しそうだった

ラジオから
アバの『チキチータ』が流れてきた
「この曲…好き」と言うと
ささやく様な小さな声で歌い始めた


Chiquitita, tell me what's wrong
You're enchained by your own sorrow
In your eyes there is no hope for tomorrow
How I hate to see you like this
There is no way you can deny it
I can see that you're oh so sad, so quiet


よく知っている曲だけど
歌詞までは記憶には無かったが

彼女の歌を聴きながら
ちょっと感動している僕がいた

「いい歌詞だね」
「そう…大好きなの」
「歌…うまいよね?」
「そう?小さな頃からずっと歌ってたからかな?」
「小さな頃から?」
「そう…教会で歌っているの」
「クリスチャン?」
「家族がね…なんで?」
「だって…いきなり脱いじゃうし」
「泳ぐときは脱ぐでしょ」
「…そうだけどさ」
「人が沢山いる場所では水着は着るわよ」
「僕はいいの?」
彼女は悪戯な笑顔と
小さくペロっと舌を出して
ごまかした

彼女の可愛らしさに
すっかりやられていた

 


2人してボーっと海をみていたら
心地よい疲労感と
木陰の気持ちよさと
波の音に…
睡魔が忍び寄ってきた

なにか話してないと
寝落ちそうだった
「なにか飲む?
買ってこようか?」
「いい…取ってくるから」
「え?」
「この裏に倉庫があるの」
「それはヤバいんじゃ…」
「大丈夫…なに飲む?」
「じゃ…同じ物」
「オレンジジュースでいい?」
「OK」
彼女は裏に消えていった

ラジオをつけたら
Billy Prestonの
『You're so Beautiful』
が流れてきた


You are so beautiful To me
You are so beautiful To me
Can't you see
You're everything I hoped for
You're everything I need
You are so beautiful To me


出来すぎな選曲に
思わず笑った

すると…彼女が戻ってきた
「なに笑ってるの?」
「いや…なんでもない」
「変なひと」
そう言うと彼女は
オレンジジュースを差し出し
僕が取ろうとしたら
引っ込めた
「いじわるだな」
と僕が言うと
彼女は悪戯そうな笑顔で
グラスを差し出した

彼女と僕は
しばし子供の様に
グラスの取り合いを
楽しんだ
オレンジジュースがこぼれても
構わずに夢中になった

しかし…

僕が彼女の手首をつかみ
引き寄せ隣に座らせた所で
勝負がついた

「もぉ~びしょびしょ」
「もう一度…海に入る?」
「また見たいんでしょ?」
「え?」
彼女は目を細めやや呆れる様な顔をして
「私のヌード」と言った
彼女の言葉に
意表を突かれ油断した僕は
素直に驚いた
「え?」
「ははは…冗談よ
…かわいい人ね」

どうやら彼女の方が
かなり上手な様だ

くやしいから
ぐぐっと彼女の顔に近づき
耳元にささやく様に
「うん…見たい」
と僕が真面目な顔して言うと
彼女はちょっと驚いた顔して
「本気?」と聞いた

彼女の瞳を見つめながら
深呼吸3回分の間を開け
「冗談」と言うと
彼女は爆笑した
「あなた…やっぱり面白い
じゃ…行こ」
と…椅子を立つと
また
みごとな脱ぎっぷりに
思わず笑ってしまった

真上でギラギラしている太陽を見上げ
僕も脱いだ
彼女はすでに水際まで走っていた
「はやく~カモーン」
と呼んでいた

僕は凄く早いテンポで
You're so Beautifullを
口ずさみながら
彼女を追いかけた。

と言うより…
焼けた砂が異常に熱かった

 


僕と彼女はまた海に入ったが
さっきみたいに潜らず
足が付く浅瀬でふざけあった

水をかけあったり
追いかけっこをしたり
…まさに
子供の様に

逃げる彼女を捕まえ
後ろから抱きしめると

彼女は振り返り
Kissを迫る様に
顎を上げ…
ゆっくりと瞳をとじた

一瞬躊躇してしまったが
僕もそれに答えようと
唇を寄せ…目を閉じると

バシャ!!

いきなり
水をかけられた
彼女は
驚いた顔をしているだろう僕を見て
笑いながら逃げた

やれやれ…と
僕はため息をつき

追いかけるのをやめた
それを見て彼女は
「もう行きましょう」と笑顔で言った

彼女は僕の手を取り
水打ち際までゆっきり歩いたが

太陽に熱しられた砂浜に
足をつけると
僕らは手をつなぎながら
テラスまで走った

テラスに着くと僕は
「服を着たままで入れば良かったね」
と言い2人のオレンジジュースまみれのシャツを
指差した
彼女は
「とりあえずシャワーを浴びましょう」と
僕の手を取ったままテラスの奥にある
簡易シャワーを2人で浴びた

間近で
水を弾く彼女の肌に
思わず僕の男の部分が反応した
彼女を抱きしめると
彼女は急に困った顔をして
「まだ…ダメ」と言った
その目は冗談では無かった

僕は彼女を離すと
彼女は「ありがとう」と言って微笑んだ

シャワーを終え
気まずい空気の中
彼女は
「ちょっと待って」と言い
奥の倉庫に入り
新しいバスタオルと
お客様用の新品の
Tシャツと短パンを
2着持ってきた
「これ…借りちゃった」と言い
悪戯な笑顔に舌をペロっと出した
僕らは笑いながら
それを着た

彼女は僕らの
ジュースまみれの服とラジオを
バスケットに入れた

そして僕らはビーチを離れ
来た道を戻った
バスケットの中のラジオから
ボビーコールドウェルの
『Stey with me』がかかっていた


Stay with me
Darling after all that
we've been through
Nobody else can warm your lonely nights
No one's gonna love you like I do
Stay with me
Can't you see we've got too much to lose
Oh stay with me, stay
with me baby please


さっきの出来事が
原因なのか?
ゆったりとした曲のせいか?
はたまた…
泳ぎ疲れたのか?
自転車のペダルがやけに重かった

 


「ねぇ…おなか空かない?」
時間はもう3時を回っていた
「そうだね」
「あ…そこ曲がって」
海沿いの道を右に曲がると
ワルン(屋台飯屋)があった
「ここ…おいしいのよ」

2人は入口に自転車を停め
席に着くと
彼女は何かをオーダーした
お店はそれ程綺麗ではない
モロにローカル色出しまくりで
いい雰囲気を出していた

すぐにアイスティーが出てきた
「バリのアイスティーは好きなんだよね
以前来た時に
こればっかり飲んでた」
彼女はニコニコ笑っている
すると
プレートに焼き鳥みたいな物と
野菜とご飯が添えた物が出てきた
「これは旨そうだ」

2人は遅いランチを
たっぷり時間をかけて楽しんだ
彼女は「ごちそうさま?」と言うと
僕を見た
「そう…ごちそうさま」と言い

親指を立てると
彼女は嬉しそうだった

「ここは僕が払うよ」と言うと
彼女は青い紙の様なものを出し
「これがあるから大丈夫」
「それはなに?」
「クーポンよ…これは便利よ」
と言うとそれで支払い店を出た

彼女はこれから仕事があると言い
「送って行こうか?」と言うと
「自転車じゃ行けないわ
…それに遅刻しちゃう」
と笑顔で答え
「ここなら私の家も近いから…
ねぇ…自転車使って」
と言うと
彼女は僕の頬にkissをし
走って行ってしまった

僕は自転車で
ブラブラと散策する事にした

しばらく走っていたら…

「あ…」
服もろともラジオまで
持ってかれてしまった事に気がついた

「まぁ~いいか」

暑い日差しと冷たい風が
いい感じだった

僕は彼女が頬にした
Kissを思い出しながら
鼻歌を歌いながら
ご機嫌にペダルを漕いだ

 

しばらく海沿いを散策し
店を見て廻った

しかし…さすがに
思い出したかの様に
疲れが戻ってきたのか
眠くなってきた

急いで小屋に帰り
ハンモックで寝た


何時間寝ただろうか?
まわりは夕日どころか
陽はすっかり落ち
空には星が見え始めていた

「こんなに星が沢山あるのを見たのは
いつだっただろう?」

と…つぶやき
深い紫から紺
さらに濃紺から黒へと
だんだんと色を濃くしていく
夜空を見ていた

時間が止まるって
こう言う事なんだろうな
と…また独り言を呟いた

切なさと…
この夜空の美しさに
感動して
なぜかしら胸がいっぱいに
なった

きっとラジオがあったら
アランパーソンズプロジェクトの
『Time』がかかっていただろう

そう思うと
たまらなく聞きたくなって
パソコンのi-tuneから
曲を探し出し…かけた

波の音に繊細で美しい旋律が合わさり
この広大で美しい夜空を見ていたら

自然と涙が出てきた
…悲しい訳ではない
…寂しい訳ではない

ただただ…感動していた

Time flowing like a river,
Time beckoning me.
Who knows when we shall meet again,
if ever
But time, keeps flowing like a river,
to the sea.
Goodbye my love, maybe for forever.
Goodbye my love, the tide waits for me.
Who knows when we shall meet again,
if ever.
But time, keeps flowing like a river...
on and on,
to the sea....
to the sea.....
Till its gone forever....
gone forever..
gone forever...


その夜は
彼女はやって来なかった。


翌朝…目がさめたら

雨が降っていた
ここに来て初めての雨

この空同様…
寝起きでぼやけた頭のまま

ぼんやりと外を眺めていた
雨のビーチも悪くはない

「サーフィンやりたいな」
そんな事を思いながら
重く暗い雲が流れていく様を
見ていた

ハソコンをひらき
ネットにつなぐと

唯一の日本との繋ぐラインの
ブログを開き記事を書き始めた

今日はあまり気分が乗らない
i-tuneを立ち上げ
ボズスキャッグスのベストをチョイスして
かけた
『We're All Alone』が流れた

「ははは…できすぎだよな」
キーボードを打つ手を止めて

暫くボズの音楽に浸っていた

昨晩もそうだが…
音楽って…いいな
しみじみとそう思った

音楽をBGMでしか聴けなかった
日本の生活が馬鹿らしく感じた

ここに来て良かった
本気でそう思った


Outside the rain begins
And it may never end
So cry no more on the shore
A dream will take us out to sea
Forevermore forevermore

Close your eyes , Amie
And you can be with me
'Neath the waves, through the caves of ours
Long forgotten now

We're all alone , We're all alone


「うん…いい感じ」と
ひとりで気だるさに酔っていた

…しかし

そんな雰囲気を
ブチ壊したのは

僕の腹の虫だった

「腹へったなぁ」
そう呟き
ひとりでウケていたら

彼女が大きなバスケットを持って
濡れた海岸を歩いて来た

僕に気づき
あの笑顔で手を振っていた


僕は彼女の所へ行き
バスケットを受け取り
一緒に小屋に戻った

「お腹すいたでしょ?」
「うん…でも
毎日は…

ありがたいけど」
「いいの…私がそうしたいから
それとも…迷惑?」
「そんな事はない…むしろ嬉しい」
「本当?」
「あぁ…本当」
「よかった…」
彼女は嬉しそうに笑った

彼女は朝食の準備をしながら
「昨日はごめんね」
「ん?なに?」
「帰り…迷わなかった?」
「うん!迷った」
「え?…大丈夫だった?」
「ははは…かえって楽しかった」

彼女はバスケットを覗きこんで
「あ…これ」
彼女はバスケットから
ラジオを出して軽く振った
「これ無くて寂しかったでしょ?」
と言ったが…彼女はパソコンから
音楽が流れているのを見て
「…そうでもなかったみたいね?」
そう言うと食器を並べた

「それより…君がいないのが
寂しかった」と僕が言うと
彼女は手を止めて僕を見た
ほんの少しの沈黙があり
「このあとに…冗談って言わないわよね!
さぁ…どうぞ」
と彼女は笑って言った


テーブルには
ワッフルとオムレツに
アイスティーが並べてあった

パソコンを切り
ラジオをつけると
フィルコリンズの
『You Can't Hurry Love』が
流れてきた

朝にふさわしいが
あいにくのレイニーデーには
ちょっと元気が良すぎた

彼女と僕は顔を見合わせ
思わず笑ってしまった

…恋はあせらず

まさに僕らの曲

彼女は
途中のフレーズの歌マネをして
「でもママが言うの
恋はあせっちゃダメよ
待たなくちゃダメ…」と歌うと
やれやれと両手の平を上にして
軽くため息をつくフリをして
笑った


I need love, love
To ease my mind
I need to find, find someone to call mine
But mama said
You can’t hurry love
No, you just have to wait
She said love don’t come easy
It’s a game of give and take

 

 

ミストシャワーの様な
霧雨は…
まだまだ止まない

僕らは朝食を取りながら
いろいろな話をした

仕事の話
友達の話
家族の話

いろんな話をしながら

僕はひとつ
…気になっていた事があった

それは
僕らの関係…

思い切って聞いてみた
「僕らは何だろう?」
彼女は少し考えて
「…ともだち?」と答えた
「ともだちか…」
彼女は小さくうなずき
「大切なともだち」と付け加えた
「そっか」と答えると
この話題を
やめてしまった

…これは僕のミスだった
あとから聞いた話だが
バリの女性は
簡単に自分から告白はしない

彼女はまだ…何かを
言いたそうだったが

僕は話題を変えてしまった

その時ラジオから
流れていたのは
皮肉にも…
フィルコリンズの
『Another Day In Paradise』


Oh, think twice,
it's just another day for you and me in paradise.

Oh, think twice,
it's just another day for you,
you and me in paradise.

Just think about it, ohh.....


彼女の瞳の奥に
今日のこの空の様な
曇りを僕は気がつけなかった

フィルは何度も歌っていたのに…
「ねえ もう一度考えて
君にも僕にも 

パラダイスがあるかもしれない」
…と

 

 

雨は更に濡れない位の
本当にミストになってきた

僕らの話も
そろそろネタが尽きてきた

沈黙の時間が
段々と長くなった

彼女は思いたった様に
「ねぇ…行きたいとこがあるんだけど」
「どこ?」
「見せたいとこがあるの」
「そっか…行こう」
どうやら
この沈黙から
回避できそうだ

僕らは自転車に2人乗りして走り出した

彼女のナビに合わせて
走らせていると

そこには…
真っ白い教会が

え?まさか?と
思ったが
彼女は
「ここで歌ってたの」
「あ~ここが…」
中に入ると
こじんまりとしているが
天井が高くよく響きそうな建物だった
内装は何度も
塗り変えているが
かなり古い

彼女は小さな声で
Ave Mariaを口ずさんだ

透き通る綺麗な声だ

僕は…もっと続けてと
ジェスチャーすると
彼女は笑顔で返し…
大きな声で歌いだした


Ave Maria! Gratia plena,
Maria, gratia plena,
Maria, gratia plena,
Ave, Ave! Dominus,
tecum,
Benedicta tu in mulieribus,
Et benedictus, et benedictus fructus ventris,
Ventris tui, Jesus.
Ave Maria!


歌い終えると…
僕はスタンディングで拍手した

すると奥の方から
「ここはコンサートホールではないよ」と声がした
振り返ると
そこには歳老いた神父さんが立っていた
「聞き覚えのある声だと思ったが…君だったか」
神父さんは
何とも言えない優しい笑顔だった

 

神父さんは彼女に近づき

「素敵なladyになったね」と彼女に微笑んだ
彼女は照れながらも
嬉しそうだった

神父さんは僕を見て
「おや?…君達は結婚するのかい?」と言った

いきなりそう来るか…
と思ったが
このシュチュエーションは
確かに…そうもとれる
彼女は
「友達よ~」と
笑いながらそう言うと
神父さんは彼女に
「そうですか…それは残念ですね
ご両親もさぞかし…」
「あの…神父さま」
彼女は慌てて神父さんの言葉を遮って
首を左右に振った
何かを察した神父さんは
彼女に優しく微笑みながら頷いた

神父さんは笑顔のまま
僕に近づき…
小さな声で
「どうやら…この子は君が好きなようだ」と耳元に囁いた
「え?」僕は驚いて神父さんを見ると
「小さい頃から見てるから間違いない…頑張りなさい」と
またも小声で囁き微笑んだ

先程の
彼女と神父さんの
不自然なやりとりの事かと
何となく納得した僕だが…
その笑顔につられて
笑ってしまった

「なに話してるの?」
彼女は口を尖らせて言った
神父さんは
「君が小さい頃はおてんばだったから
気をつけなさいと
教えてあげたんじゃ」と言うと
「嘘はいけません…神父さま」と彼女は言った
神父さんは
「神はhappyな嘘なら
お許しになる」と言うと
優しい笑顔から一転
ケラケラと笑いだした

大した神父さんだ

ちなみに
後に…バリの女性は自ら告白しないと
教えてくれたのは
この人だった

しかも…
この老いた神父さんは
意外なところで再会するのであった

それは…また
いつかの話

 

 

僕らは教会を出て
自転車に乗った時

神父さんが彼女を呼んだ

何やら神父さんの笑顔に対し
彼女の微妙な表情から
さっき僕に言った事を
彼女にも言っている様だ

「彼は君の事が好きな様じゃな…」

神父だけに
こう言うおせっかいは…
万国共通な様だ

彼女が戻ってきたので
思い切って聞いてみた
「なに話してたの?」
「え?…あ…
たまには来なさいって」
と不器用に笑った

彼女もまた…嘘がヘタな様だ

ただ…朝の微妙な空気が
消えていたのが救いであろう

それは
雨もやみ…軽快に
飛ばしてる自転車の
僕の後ろで
彼女の鼻歌まじりの歌が証明していた
その歌は
バングルズの
『Eternal Flame』だった


Say my name,
sun shines through the rain
A whole life so lonely,
and then you come and ease the pain
I don't want to lose this feeling
ahhh~

Close your eyes and give me your hand
Do you feel my heart beating,
do you understand?
Do you feel the same,
am I only dreaming
Or is this burning an eternal flame?

《私の名前を呼んで
雨粒が陽の光に透き通る
すべての命はとても孤独
あなたはその痛みを和らげてくれる
私はこの気持ちを失いたくないの
あぁ…

瞳を閉じて
あなたの手を私の胸にあてて
聞こえる?
私の胸の鼓動が…

わかってくれるかしら
あなたも私と同じ気持ちかしら
私は夢を見ているだけなの?
この胸に燃えているのは永遠の炎なの?》



彼女はわかって歌っているのだろうか?

その歌詞は…そのまま
誰かに対する
ストレート過ぎる告白である事を…

「それは…僕に?」と
聞いて見たい気持ちはあったが

気持ちよさそうに
歌ってる彼女は
狙って歌っている訳では無いのが
わかるだけに
やめておいた

僕らは何かに
引かれる様に
少しずつ距離を縮めているのが
わかってきた

でも…神父さんが彼女に
話した事は
僕の都合のいい想像とは
大きくかけ離れた話だった

 

 

プールでクールダウンした僕らは
自転車で海沿いを走った

すると
後ろから車のクラクションが
パッパーンと鳴った

自転車を停め振り返ると
古いオープンカーに沢山の男女が乗っていた
よく見ると…
助手席で手を振っている女性が見えた

それは…
彼女と初めて出会った日に
一緒にいた女性だ

「これからパーティなの…いかない?」

彼女は僕を見た
「ねぇ…行こう」
「いいよ」

彼女は「どこ?」と聞くと
運転している彼が何かを言ったが
僕には聞き取れなかったが
「あとから行く」と彼女が言うと
車は勢いよく走り去っていった

それから
1時間程ゆっくりとしたペースで
自転車を走らせると

やたら騒がしい家があって
庭の方から
音楽がかかっていた

僕らは音楽に誘われる様に
庭の方へ行くと
30人位の人が所狭しと
盛り上がっていた

彼らは僕らを見ると…
僕らは知らない人達に
いきなり主役登場の様な
ハチャメチャな大歓迎をうけた

すると
15cm程の低い簡易ステージに
司会らしき男性が
僕らを見て
腕を振りこっちへ来るように
合図した

その司会の男はマイクで
インドネシア語で何かを言うと
みんなはステージまでの
道を開けてくれた

やんだかわからない盛り上がりの中
僕らはステージに上がると
彼女はマイクで
恥ずかしそうに何かを話始めた
勿論インドネシア語なんで
僕にはさっぱりわからなかった

そして
彼女が僕にも何かを話す様に
ジェスチャーをした

これは困った…
彼女に「これは何のパーティ?」
と聞くと
どうやら女友達のアンの誕生日パーティで
友達連中が集まっているらしい
とりあえず英語で
「Happy Birthday,ann」
と言うと
またひと盛り上がり
次の台詞に困っていたら
するとやたら陽に焼けた
サーファーらしき男が
「おまえ日本人か?」と日本語で聞いてきた
そいつは日本人でプロのサーファーらしい
「ここにいる奴らは
英語ならわかる連中いっぱいいるぞ」と
教えてくれた
…それならと
英語で簡単な挨拶をすると
司会の男は
「じゃ…アンにプレゼントを…」
と言った
いきなり呼ばれてプレゼントも無い訳で
しょうがないので
ステージに置いてあったギターをとり
スティビーワンダーの
『Happy Birthday』を
ワンコーラスだけ歌うと
サビの所から大合唱で
とりあえず繋げたと安心していたら
まさかの…アンコール
しょうがないので
Orleansの
『Dance with me』を歌い出すと
何人かがステージに上がってきて
ギターや楽器を取ると
一緒に歌いだした

即興のバンドだが
いきなりライブが始まった
「おまえ…イカしてるな」
「この曲弾けるか?」
と…やりとりをしながら
ドゥービーブラザーズの
『What a fool believes』と
Timothy B. Schmitの
『So Much In Love』と
ロッドシュチュワートの
『You're In My Heart』の
の4曲をやって
UnpluggedなミニLiveは終わった

すると司会の男は
「アン…満足かい?」
「うん…最高に楽しかった」
「もういいのかい?」
この司会はさっきから
…意味ありげだ
アンはチョット考えて
「サラのKiss」
「OK!…サラ!!ステージに上がって」

僕はてっきり彼女とアンのKIssかと
思いきや…

気がつけば
ステージの上には僕らだけ
「やられた」
と思った時には既に遅く
静まりかえった会場に
みんなの期待の目

やらない訳にはいかない空気の中

沈黙を破ったのは

…彼女だった

いきなり僕に抱きつき
熱いKIssをした

それは長く窒息しそうな濃厚なKissだった

会場は大盛り上がり
司会の男は叫んだ
「サンキュー!!2人に拍手」と

司会の男は
僕らにウィンクをして
親指を立てていた

この何でもないパーティが
僕らの関係を大きく変えてしまうとは

この時は…想像もしていなかった

 

僕らはさんざん
からかわれたが
パーティを楽しんでいた

すると
僕と彼女の間に
さっきのサーファーが入り込んできた

「サラ…ちょっと借りるぜ
日本の話がしてぇ」
と言って僕を強引に引っ張っていった

「ここでいいだろう…」
手作りのカウンターバーに座ると
「おまえがサラの男とはね…
その前にサラの登場には驚いたが」
そう呟くとビールをグビっと飲んで
「日本語は久しぶりだ」と言った
サラの登場が驚く…が気になったが
軽く流して…
「日本はどれ位離れてる?」
「さぁな…俺は数字が苦手だ」
こいつはかなり軽い男の様だ
「ははは」
「おまえ…どうやってサラを物にした?」
「いきなり来るか…」
「お~俺はサラのクドき暦は8年だ」
「数字は苦手じゃなかったのか?」
「おまえ…実は嫌な奴だな」
「ははは」
「で…どうやった?
俺は見向きもされねぇし…
あんな事があったしな
どうやったんだ?教えろよ」
「あんな事?…
そうだなぁ…偶然出会った」
奴は絶句して…
「え?…それだけか?」
「あぁ…それだけ」
「マジかよ」
「あ…歌を歌ったかな?」
「おまえ…やっぱ嫌な奴」
「ははは…本当さ」
「訳わかんねぇ」
「男と女はそんなもんさ」
「ちぇ…でも
あのサラがねぇ…驚いたぜ」
「なに?」と聞いた僕に対して
彼は驚いた顔して
「おまえ…本当に何も
知らないのか?」
と言った

どうやらサラは
5年前から
ずっと一人だったそうだ

それも前彼とは死別で
同時にその彼の運転の事故で
両親と彼を同時になくし
サラも2ヶ月も意識不明のまま
意識が戻ってから
半年寝たきりで…
ある程度回復し
退院を目の前にした時に
事実を知らされ
ひとりぼっちになっていたそうだ

サラの落ち込みは半端なく
誰ひとり…
サラの力になれずに

サラは自ら人を避け
暫くは笑う事もなかった

しかし
時間が少しずつ
昔のサラを取り戻しつつあったが…

そのサラに男が出来た…
と言う話は
仲間連中は
かなり話題になっていて

ましてみんなの前に出てくるなんて
ビッグ・サプライズだったそうだ

なんとなく
今日のパーティの
主役ではない僕らに対して
異様な食いつきの意味が
見えてきた

それと同時に

あの時…サラの

「まだ…ダメ」と
悲しそうな顔で言った言葉と
その後の
「ありがとう」と言った言葉の
意味が見えてきた

神父とサラの不可解な会話の意味も…

僕は愕然とした…

 

 

「おまえ…本当に知らなかったのか?
ヤベぇ…すっかり暗い話になった」
奴はそう叫ぶと
「わりぃ…俺…こう言う空気は苦手なんだ」

自分で言っといて何言ってんだか…と
思ったが

奴はいきなり
かなり強引に話題を変えてきた

「それはそうと
おまえ…サーフィンやらねぇ?」
「え?…あぁ
実はここに来て乗りたいと思ってた」
「お~おまえ
波乗るのか?」
動揺は隠しきれないが
これ以上さっきの話に
ついて行く自信がなく
とりあえず奴に合わせて
「ちょっとだけな」と答えた
「そっか…いいポイントがあるんだ」
「それはいい」
「サメがいるのが難点だが…いい波くるんだ」
「サメ…」
「大丈夫だ…死ぬまで噛まねぇさ」
「ははは」
「週末…おまえ暇か?」
「たぶんな」
「おまえ…観光か?」
「いや…話すと長いぜ」
「面倒な話はお断りだが…
まぁいいや
車で迎えに行くからよ」
「OK」

そこにサラが割り込んできた
「私の彼は男にはなびかないわよ」
いきなりの登場に
僕らは焦ったが
奴は
「ちぇ…もう少しだったのに」
と言って笑い僕を指差し
「次に会ったら覚悟しろよ
俺の魅力にゃ…どんな男もイチコロだぜ
…じゃまたな」
と言って半ば逃げる様に
去っていった

彼女は僕の顔を覗き込んで
「なに話してたの?」と聞いた
やっぱり来たか…と思い
「あ~日本の景気の話と円高について」
と…かなり適当な事を言うと
「嘘…でしょ」
と彼女は笑った
「ははは」
僕の笑顔はかなり変だったろう
「女の話でしょ?
彼…女好きだから…」
クリスチャンじゃないが
この時は神に感謝した
「今度サーフィンやる約束した」
「サーフィンやるの?」
「少しね」
「ダメよ」
「え?」
「ジュンはここら辺でなんて言われてるか知ってる?」
「なんだろう?」
「クレイジー・マゾヒスト」
「なんだそりゃ?」
「誰も近寄らない嵐の海に入って
何度も死にかけたり
サメに噛まれても
波に叩きつけられて肋骨折れたままでも
笑って波乗ってる」

ロクな奴じゃないと思ったが
サメの話は本当だったのか…

「とにかく…だめ
どうしても行くなら…私も行く
危険なら
絶対海に入れないから」

今日の彼女は
すっかり僕の恋人の様だった

でも…それは
みんなに対する
サラの精一杯の
気づかいだったと
知ったのは
もう少し後の話だった

それより僕は
落ち着く事で精一杯だった

 

パーティは終わらない
ロケーションはとうとう夕陽を迎え

夕陽に見とれていい雰囲気な奴
馬鹿騒ぎする奴
泥酔してぶっ倒れている奴
懸命に口説きに入ってる奴
やたら食いまくってる奴

沈み行く太陽の中
おのおのが好き勝手にしている

楽しそうにしている彼女とは
まったく逆に
やぶさかじゃない僕がいた

すると
僕の所に先程セッションした連中が
やってきた
「なぁ…もう一発やらないか?」
行きたそうな顔をして彼女を見ると
右手を上げ指先で
いってらっしゃいとやっている

あの話を聞いて
正直…彼女と一緒にいるのが
つらかった
心の整理する時間が欲しかった

ステージ前で何をやろうかと
相談を始めたが
なかなか決まらず
しょうがないので
自分の知ってる曲をやって
みんなは適当に合わせる事にした
このルーズな時間には救われた

と言う事で

僕は少しダレた空気なので
スティーブン・ビショップのバラード
『One More Night』を歌った
オーディエンスは先程の熱気は消え
おとなしく聴いていた

次にベースが
Timothy B. Schmitの
『Something So Sad』を歌い
そのまま夕陽のバラード大会に
なってしまった

やがて
陽も沈むと
そろそろ潮時で…
ジョンDサウザーの
『You're Only Lonely』で
ラストにした

このライブの時間かせぎで
なんとか
自分を取り戻せた

彼女はカウンターで聞いていた
僕はステージを降りて
彼女の元へ行った

「君も歌えばいいのに」

彼女は
やや寂しそうだが
笑顔で首を振った

そう言えば…
彼女が歌が旨いのは
みんな知っているだろうに
誰も口にしなかったのは
彼女に気を使っていたんだろう

彼女の友達は
みんないい連中だ
と…思った

彼女は僕の耳元で
「そろそろ行きましょう」
と言うと
僕らはそのまま
エスケープした

自転車で来た道を戻っていると
彼女は僕の後ろで
「ねぇ…うちに送って」と言った
彼女の言う通り自転車を走らせると

街はずれに一軒の家があった
「ここ…どうぞ」
と言うと
僕を招いた
正直なところ…
今夜は帰りたかった

中に入ると
なるほど…一人暮らしには
寂しすぎる広さだ

海が見えるリビングに通されると
「そこに座って…」とソファーを指差した

彼女はミネラルウォーターにレモンを絞った物を
持って来て僕の隣に座った

そして…
彼女は小さく呟いた
「ここ…誰もいないの」

知っているとは言えずに
黙っていると

「前に家族の話をしたよね」
「あぁ」
「それは…生きていた頃の話」
「そっか…」
すると彼女は
僕の驚かない
不自然なリアクションに気づき
…察した
「え?なに?
やだ…ジュン…言っちゃった?」
「あぁ…奴は僕が知っている物だと思ってた」
「そう…聞いちゃったんだ」
「うん」
すると…彼女の瞳から
涙が溢れこぼれた
僕はそっと彼女の肩を抱くと
彼女は僕に寄り掛かり
声をころして静かに泣き出した

何と言ってよいのか
言葉に迷ったが
結局何も出て来ないまま
彼女を抱きしめた

沈黙のまま
外から潮騒の音が部屋を満たしていた
優しい風が海からそっと吹いていた

暫くすると彼女は泣き止み
僕に寄り掛かったまま
僕らは月あかりで揺れている海を見ていた

すると…
「ありがとう」と彼女は小さく呟いた
「いや…よくがんばったね」
と言うと
彼女は両腕を僕の首にまわし
僕に抱きついて胸元に顔をうずめ
「少しこのままでいて」と
言った
僕はそっと背中に手をまわし
抱きしめた
彼女は微妙に震えていたが
また泣いているのがわかった

今夜のバリの夜は
優しかった

 

僕らは長い間
ソファーにすわったまま
抱き合っていた

やがて彼女は
泣き疲れたのか
…落ち着いた様だ

すると彼女は
ゆっくりと顔を上げ
僕を見ると
顎を浮かし瞳を閉じた

それを見ていた僕は
若干タイミングを逃し
微妙な間ができた

すると薄目を開け小さな声で
「大丈夫…水をかけたりしないから」
と言った

見つめ合ったまま
僕らは笑いをこらえ震えていた
明らかに空気は変わっていた

今の一言は
僕らにはツボだった

僕は溜まりかねて
ふきだした
「サラ…ぶち壊しだ」
「ごめんね…言って後悔した」
そして僕らは思い切り笑った

笑い終えると
「あなた…優しいのね」
「そうかな…」
「そう言う所…好きよ」
「ありがとう…
僕も君が好…」
僕の言葉を遮る様に
彼女は自分の唇で
僕の唇をふさいだ

しかし…すぐに唇は離れた

「いきなりが好きなんだね」
「ううん…その先は
まだ言わないで…」
「なぜ?」
彼女は呟く様な小さな声で
「恋をしそう」と呟いた

「しても…いいんじゃないか?」

彼女はゆっくりと
首を振った
彼女の瞳はどことなく寂しげで
困惑していた

「僕はもう君に…」
と言うとまた
彼女は慌てて唇をふさいだ

そして…離れ間際に
「こうすれば…君とKissができるんだ」
と言うと
「いじわるね」
「そう…いじわるだ」
「もぅ…」
「君も望んでいるだろ?」
「でも…」
「だって…口を塞ぐなら
…指先1本で十分だろ」
と人差し指を彼女の唇にあてた

彼女は人差し指を避けて
「あ…次はそうする」
と言うとちょっと微笑んだ
「本当にするの?」と僕が聞くと
「する」と言い切った
「Kissは無し?」
「なし」
「いじわるだな」
「そう…いじわるだ」
と彼女は僕の真似をして
勝ち誇った顔をしている
「やっと笑顔が戻った」
「え?」
「君は笑顔が似合う」
と言って僕は
いきなり彼女の唇を塞いだ
彼女は抵抗しなかった
そして
お互いの唇の感触を確認するかの様に
長い長いKissをした

優しいバリの夜に
抱かれながら
僕らは…
今まで積み上げてきた
気持ちを分け合った

ゆっくりと…
時間をかけて…

 

 

僕は彼女の家で
朝を迎えた

優しい日差しと
さざなみの音が
深い眠りから現実へと
優しく呼び戻した

寝ぼけた頭のまま
廻りを見渡すと
「あ…そうか」と呟いた
枕にほのかに彼女の香水の匂いがした

すると
シーツをまいた彼女が
大きなトレーに
朝食を持って戻ってきた
彼女はradioのスウィッチを入れて
トレーをベッドの上に置き
うつ伏せに寝ている僕の肩に
軽くKissをし
「さぁ…起きて」と言い
ベッドに2人並んで座った

ラジオから
バニーマニロウの
「Can't smile without you」が流れてきた


And you see I can't smile without you
I can't smile without you
I can't laugh and I can't sing
I'm finding it hard to do anything


《君いなければ
僕は微笑むこともできない。
君なしでは微笑むこともできない。
笑うこともできないし、歌うことだってできやしない。
何もできないんだ。》


僕らはベッドで朝食をとる事にした
「ベッドで寝るのは久しぶりでしょ?」
と彼女は言った
「あぁ…気持ちよく眠れた
それと君が…」
彼女は人差し指で僕の唇に当て
言葉を遮った
「これでいいんでしょ?」
彼女は笑顔で言った
「あぁ…いや…こんな時は
…唇の方が…」
と言うと彼女は優しく微笑み
短いKissをしてくれた
「満足?」
「うん」
「さぁ…食べましょう」
「うん」と頷き
彼女を抱きしめるフリをしたら
彼女はスッとよけて
「ここでジュースまみれは嫌よ…
寝る所が無くなっちゃう」
と笑った
「かまわないさ」と言うと
「あなたって…そう言う人なの?」
と聞いた
「冗談さ」と答え

僕らは朝食を食べた

海から気持ちいい風が吹いてきた

ベッドの上という以外は
いつもと変わらない
あまりの自然さに

昨晩の目の回る様な出来事は
夢だったのかと
錯覚してしまいそうな
清々しい朝だった

 

朝食を食べ終えると
彼女は
「シャワー浴びる?」と言い
「うん」と答え
立ち上がると
「バスタオル置いてあるから…」
と言い
さっきまで自分が巻いていたシーツを
渡してくれた
「裸で部屋はうろつかないでね」
と笑った

「あ…」
僕は慌ててシーツを巻き
部屋を出ると
バスルームへ行き
ゆっくりとシャワーを浴びた

熱いシャワーに浴びるのも
久しぶりだった
シャワーで火照る身体に
潮風が気持ちよかった
「こんな気持ちい朝は久しぶりだ」
と呟いた

部屋に戻ると
ベッドルームに彼女はいなかった

Tシャツにホットパンツに着替え
彼女はリビングにいた

ラジオから
スティーブン・ビショップの
『One More Night』が流れてきた

彼女は
「あ…この曲
昨日歌ってたね」
「あぁ…そうだね
僕の好きな曲なんだ」
「誰が歌っているの?」
「スティーブン・ビショップだよ」
「知らなかった…素敵なメロディね」
「あなたに出会ってなかったら
…知らないままね」
「そんな事ないさ…
こうやってラジオで聞いていたかも」
「ラジオを聞くのは…
あなたと出会ってからよ」
「え?」
「パパとママがいなくなってから
この家には音楽が無くなったの」
「そ…そうなんだ…」
この広い家に
音楽もかけないで
たった一人でいたのか?
と思い軽くショックを受けた

「パパは歌が好きで
よく一緒に歌ってたわ」
「…」
「パパはアメリカ人でね
英語の歌はよく歌ってたの」
「だから英語がわかるんだね」
「でも…会話はインドネシア語だったわ」

昨晩とは違い
彼女は軽く淡々と話してしたが
僕は重い内容に
うまい返答ができずにいた
「そうなんだ…」

「あなたが初めて歌ってくれた曲」
「you've got a friend…」
「パパの好きな曲だったの…」
「あ…」
さすがの僕もこれには
動揺を隠せずに彼女を見た
「いえ…いいの
あなたの歌…優しかったから
でも…初めはビックリしたわ」
「そうだったんだ…」
…なんて事をしたんだ
と心の中で思った
「でも…あなたのおかげで
また…歌えた」
「…」
僕は言葉を完全に失った
偶然とは言え…

もし神様のいたずら
…だとしたら

相当タチが悪い

結果オーライだから良いが

恐ろしい賭けを仕掛けてくるもんだ

と思った。

すがすがしい朝が
僕の中で一変していた

やはり昨晩の
目の回る様な嵐は
現実だった…と思った



Just give me one more night
to hold you
One more night
Give me one more night
to have you near

 

僕は言葉を失い
彼女を見ている事しか出来なかった

彼女はそれに気づき
「あ…ごめんなさい
そんな意味では無いの」
「うん…わかってる…」と
答えたが…やはり言葉が出てこない

しばしの沈黙

彼女が言った
「歌を聞きながら…この人は
パパが会わせてくれたと思ったの」
「…」
その言葉が更に追い込んだ
「このままじゃいけない…と思ってた矢先だったし」
最悪だ…俺…と思い
「それで…初対面の僕に
…いろいろと」と口に出た

なんて事だ…
浮かれていたのは僕で…
何も知らないで…
調子に乗って…
恋や愛だのと…

僕は情けなくて
たまらなくなった
「ごめん…」
彼女は慌てて
僕の言葉を遮った
「違うの…初めはそう思ったけど
あなたと一緒にいて…
すごく楽しかったの」
「でも…」
「ねぇ…聞いて
あなたは外国人だし…
私は暫く人と接してなかったから
どうしていいのかわからなくて
でも…一緒にいるうちに
気が付いたら
好きになっていたの」
「え…?」
「私…好きになったと気づいたら
言えなくなったの…
自分の事や家族の事
なんて話せば…って
…いずれはわかってしまうのに」
「…」
「だから…謝らないで」
彼女は泣きそうな顔でそう言った

「うん…わかった」と答えると
彼女はちょっと安心した顔をしたが
2人の空気はぎこちなかった

多少のニュアンスの違いは
あったが…
僕の一方的な勘違いでは
なかったのがわかった

そして…
「ねぇ…こう考えてみよう」
「…」
「君も僕も…生きてきたから
いろんな事があった
でも…今
ここに君と僕がいる
…僕は君が好きだ
君も僕が好き
…それがTRUE」
彼女の瞳には涙が溜まっていた

「しがらみや運命なんて
目に見えない物は関係ない
今…僕に見えているのは
サラ…君だけだ
君は…僕が見えているかい?」
彼女は黙ってうなずいた

「昨夜の僕らが…偽りの無い
ふたりのLOVE…だろ?」

彼女はうなずいた
溜まっていた涙が一筋こぼれた・・・

僕は彼女の頬の涙をそっとぬぐい
僕もうなずきながら微笑むと
彼女もそれに応え
微笑みを返してくれた

涙をぬぐったその手を
そのまま彼女の頬から首筋へ進み
彼女を引き寄せ
Kissをした

僕は「サラ…愛してる」と言い
彼女も昨夜の様に言葉を遮る事なく
「私も…愛してる」と言い
何度も何度も
僕らはKissをした

ラジオから
流れていたのは

カーペンターズの
『Close To You』だった

 

Why do birds  Suddenly appear?

Everytime You are near just like me

Thy long to be Close to you

Why do some  fall down from the Sky?

Everytime You walk by just like me

Thy long to be Close to you

 

《なぜ鳥たちは突然現れるの?
あなたが近くにいる時はいつも
まるで私みたいに
彼らはあなたの
近くに居たくて仕方がないのね

なぜ星たちは
空から降ってくるの?
あなたが通りかかる時はいつも
まるで私みたいに
彼らはあなたの
近くに居たくて仕方がないのね》

 

 

僕は…小屋を引き払った

もう彼女をあの家に
独りにしたくなかった

元々荷物も少なかったから
何も問題は無かった

小屋のオーナーは
「もう出て行くのか?」と
驚いていたが
「彼女と暮らす」と言うと
笑顔でうなずいてくれた

暫くは彼女と
この家で海を見ながら
過ごした

「好きに着ていいわ」と
彼女はパパの服を出してくれた

着てみると
意外とサイズはぴったりだった
アメリカ人なだけに
シンプルでベイシックな物が
多かったが
どうしてもTシャツのセンスだけは
いまひとつではあるが…
それを見て嬉しそうに
笑っている彼女を見てると
それでいいと思った

僕らはいつでも
どこでも一緒にいた

彼女の好きな場所なら
どこでも行った

もっともっと
彼女が知りたくて
たまらなかった

彼女の友達とも
積極的に会った

知れば知るほど
彼女が愛おしかった

ある日…
彼女は長い事封印していた
アルバムやビデオを出してきた

そこには小さい頃からの
彼女が幸せいっぱいで微笑んでいた

ビデオのBGMに
ブレッドの『if』が流れていた

 

And when my love for life is running dry
You come and pour yourself on me


If a man could be two places at one time
I'd be with you.
Tomorrow and today
Beside you all the way

《僕の心の愛が乾いてしまいそうになったら
ここに来て、君の愛を注いでおくれ
もし人間が一度に二か所に行けるなら
僕は君と一緒にいたい
いつでも どこでもきみの傍に》



彼女は照れながら
1枚1枚説明してくれた

その彼女を見ているだけで
僕は嬉しかった

心から幸せを感じていた

初対面ではあるが
僕らと同世代の
彼女の両親もそこにいた

彼女の好きなパパは
アメリカ人ではあるが
東洋の血が混ざっているのか
確かに
どことなく僕に似ている気がした




…しかし
何気なくそう思ったこれが

後に大きく影響してくるとは

この時には
まったく予想にもしていなかった

 

**************************

 

another ss.2に続く

 

※コメントは『今日は指向を変えて・・・』の方にお願いします