another ss.2 | わがままなマックの最近思う事

わがままなマックの最近思う事

愛のままに…わがままに…僕は好き勝手に書いてます。 、

【注意】another ss.1から見て下さいね!

 

数日後…
彼女と初めてあった日に
サラと一緒にいた友達の
ニコの家に
僕らは夕食に招待された

ニコと両親は
彼女の両親と仲が良く
生前も親しくしていたそうだ

両親もサラの事を
すごく心配していたので

僕らを快く歓迎してくれた
一緒に食事をして
楽しく過ごした

サラのパパのおかげで
ニコの両親も英語が話せて
助かった…

食後に
「軽く飲もう…」
と言う事で
海が見える庭に移動した

ニコのパパは
「男同士で飲もう」と
誘ってくれた

彼はサラと仲良くしてくれて
以前の様に笑顔が見れる様になって
君には感謝している…
と言った
そして…
「君はディックの様だ」
と言った
ディックとはサラのパパである

サラのパパも
観光でやってきた外国人で
サラのママと出会い
大恋愛の末
結婚し…バリに永住を決めたそうだ

「君はどうするのか?」
「さぁ…まだわからないが
それも悪くないと思っている」
「そうか…それは良い選択だ
まぁ…人生先は長い
ふたりでよく考えるといい」
とご機嫌だった
するとニコのパパは
ある事に気がついた
「おや…その服はディックのかい?」
「Yes・・・サラが出してくれたんです」
「そうか…その服はよく覚えている」
と言うと
奥さんを呼んだ
「ほら…見てごらん」
ニコのママは
「なにかしら?」と
わからない様だ
「ほら…彼が着ている服だよ」
「え?…あぁぁ懐かしい」
と何かを思い出した様だった
それを見ていたサラとニコも
やって来て
「なにが…どうしたの?」と
興味深く聞いた
ニコのパパはサラに聞いた
「これは今日の為に選んだのかい?」
サラはキョトンとした顔で首を振って
「いえ…偶然よ」
「そうか…偶然かぁ
この服は
ディックが君のママをつれて
初めてこの家に来た時に
着ていたんだ」
僕らは驚いた
ニコのママがそれに続き
「ほら…この背中のシミ
これは私がお皿をひっくり返した時のシミよ」
と僕の背中を指さした

…たしかに薄くシミの様な跡があった
ニコのママは
「あなた…あの時のディックにそっくりだわ」
ニコのパパも笑いながら頷いた
「これはディックが仕掛けたのかもな
おーそうだ」
と言いニコのパパは駆け足で
部屋に戻り
1枚の写真を持ってきた
そこには若いサラの両親と
ニコの両親が笑顔で並んでいた
ニコが叫んだ
「やだー本当に似てる
サラのママもサラだわ」
その写真でみんな盛り上がっていたが

僕は…なぜが
最近たまに感じる小さな違和感を
一瞬…感じていた

しかし…その場の雰囲気もあり
軽く流した

そしてニコのパパは
ご機嫌で飲み続け
完全に酔っ払い
途中でディックとの思い出の話から
時たま僕をディックと呼んだり
間違えたりして
ニコのママは
「ごめんね…この人嬉しいと
飲みすぎるのよ」と
謝った

「全然構いませんよ…むしろ光栄です
サラの大好きなパパと似てるなら」と
答えた

夜も更け
ニコのパパは泥酔して
イビキをかきだし
ニコとニコのママに送られ
僕らはニコの家を後にした

酔って熱くなった顔に
涼しい潮風が気持ちよかった

サラは僕の腕に手を回し
肩に頭を軽くのせ
子供の様に甘えてきた
そのまま
僕らはゆっくり夜道を歩いて帰った

家に着くと
サラは「もう少し飲まない?」
と言い
サラはお気に入りのカクテルを
僕にはバーボンをテラスに用意している
その間
僕はギターをつま弾いた
「何か歌って…」とサラが言った

ジョージベンソンの
『Nothing's Gonna Change My Love for You』
を歌った

 

Nothing's gonna change my love for you

You ought to know by now how much I love you
One thing you can be sure of
I'll never ask for more than your love

《君に対する愛は 何があっても変わらない
そろそろ その思いの大きさに気づいているよね
これだけは・・・
僕を愛してくれる思いの他には何も望まないよ》



しかし…酔っているのと
歌詞がうる覚えだったので
多少歌詞を適当に歌うと

サラはクスクス笑いながら飲んでいた
歌い終わると…
「ね…You've got a Friend 歌って?」
「え?」
一瞬…考えて彼女を見ると

サラは…
「私たちの出会いの曲よ…ダメ?」
と…いつもの笑顔で言った

僕は溜息をひとつ吐き
「OK」と答え
歌いだすと
サラは目をつむり
静かに聴いていた

そして
歌い終わる頃には…
サラは
小さく寝息をたてていた

彼女の頬に
一筋の涙の跡があった


さっきの違和感が
また一瞬よぎったが

僕は彼女を抱き上げ
ベッドへ運び
おでこにKissをすると
嬉しそうな少女な顔をして
寝息をたてていた

僕はテラスに戻り
バーボンを一口飲むと
また…ギターをつま弾き
「I am Dick.
Sara's favorite papa
《僕はディック
サラが大好きなパパ…》」と
適当なメロディで歌って
深い溜息をつくと
なんだか可笑しかった

やがて
彼女はパパの夢を抱き
僕はギターを抱いて
おのおの…夢の中へ
落ちていった。

 

 

「おいおい…なにやってんだよ」
ぶっきらぼうな声に起こされた

そこにはサーファーのジュンが
やけに爽やかな顔で笑ってた
「お…おはよう」
「なんだよ…一人でそんなとこに
寝てるって事は…昨晩は
拒否されて追い出されたな」
「いや…違うよ」
「わかった!わかった!
そう言う事にしとこう」
「おまえも嫌な奴だな」
「お互い様だ」

外の騒がしさにサラも起きてきた
「なんなの?まだ3時よ」
ジュンは笑顔で
「サーフィンさ…ほら行くぞ」

僕とサラは
顔を見合わせた…
すっかり忘れてたのだ
サラは慌てて
「ちょっと待って…私も行く」
と…家の中へ戻って行った
ジュンは僕を見て
「さっそく敷かれてるのか?」
と言い
「うるせぇよ」と返すと
2人で苦笑した

サラは少し大きめなバッグを持って出てきた
「奥様…ご旅行ですか?」
とジュンが聞くと
「嫌な奴…」と笑った
ジュンは肩をすくめ
「…だそうだ」と笑った

僕らはジュンの愛車
ボロボロのビートルのワゴンに乗ると
走り出した
エンジンのかかりは最悪だが
走り出したら快調な車だ

海沿いを走り途中で
山越えで林道走っていたら

サラが「サメがいる所は絶対にダメ」
と言う事で
Uターンして
一番近いポイントに変更した
ジュンは不機嫌になったが
車のラジオから
ワムの『Club Tropicana』が
かかると
「こりゃいいぜ」と歌いだした


Club Tropicana, drinks are free,
Fun and sunshine - there's enough for everyone.
All that's missing is the sea,
But don't worry, you can suntan!


《クラブ・トロピカーナでは飲み物は無料
楽しさと陽光が全員に十分用意してある
海だけが欠けているけれども
心配はいらないよ
君は日焼けできるから》



奴は相当な音痴で
サラと僕は大爆笑だった

やがて
ポイントに到着すると
もう何人かのサーファーが海に入っていた

「ちぇ…しけた波だぜ」
とジュンは言ったが
日本では台風でも来なければ
乗れない級な波だ
おもわず僕は
「ヒュー」と口ずさむと
ジュンは
「行こうぜ!」
と言いワゴンの後ろを開け
「好きなの使っていいぜ」と
言った
「サンキュー」と答え
トライフィンのボードを選ぶと
ワックスを塗り始めた
サラはシャツの下に水着を着ていた
腰にロングスカートの様にラスタ柄の布を巻くと
大きな麦わら帽子をかぶり
「行ってらっしゃい」と言った

僕とジュンは海に飛び込むと
一気に沖までバトリングした
「先に行くぜ!」と
ジュンは早々と波に乗った

僕は次の波を待って乗った
中腰で楽々と立てるチューブの中で
久しぶりのサーフィンを楽しんだ

1本目を終え
ボードをまたぎ
サラを見たら
ビーチマットを広げ
ペーパーバックを読んでいた

僕が見てるに気がつくと
手を振っていた
僕も手を振りかえし
次の波を待ってると
ジュンがやってきて
「やってられないな」
と言い僕のボードをひっくり返し
大笑いをしながら
次の波に乗っていった

奴はさすがにプロだけあって
軽く波に乗り
綺麗なラインをひきながら
ご機嫌に乗っていた

しかも…タフである

僕は4本目を乗り終えると
さすがに疲れ
サラの元へと戻った

 

僕が戻ると
サラはペーパーバックを読んでいた

笑顔でこちらを見ると
唇を少し尖らせた
僕は隣にすわり
軽いKissをした

ワゴンのラジオからは
ビーチボーイズの
「kokomo」がかかっていた


Aruba Jamaica
ooo I wanna take you
Bermuda Bahama come on pretty mama
Key Largo Montego baby why don't we go
Jamaica
Ooo I wanna take you down to Kokomo
We'll get there fast
And then we'll take it slow
That's where we wanna go
Way down to Kokomo

《アルーバやジャマイカ
連れてってあげたいな
バーミューダやバハマ、おいで可愛いママさん
キーラーゴやモンテゴ、
ベイビー行かないって手はないぜ
ジャマイカ
ココモに連れて行きたいな
すぐに着いちゃうよ
それで、あとはゆっくりやればいい
あそここそ、僕らが行きたいとこなのさ
ココモをめざして》


サラは
「本当に乗れるのね」と言い
「日本にいる時はたまに乗ってたよ
でも…これだけ大きい波は久しぶりだ」
サラは話を聞きながら笑顔のままだが
少し元気がなかった

「大丈夫かい?
具合悪いのかい?」
首をふり笑顔で返すが
やはりいつもと違う
「止めればよかったな」
更に首を振り
「大丈夫…なんでもない」
と言うと首を横に振って
またペーパーバックに目を落とした

「何を読んでるの?」
と聞くと
「日本人の男とうまい付き合い方」
と言うと表紙をこちらに向けた
「はぁ?」
と言い表紙のタイトルを見ると
『星の王子様』たっだ
「それ…日本人の話だったっけ?」
と聞くと
「知らなかった?」とサラは
とぼけた

「海に入らないの?」と聞くと
「裸になるわよ」と
サラは悪戯そうな顔をした
「それは困る」
「冗談よ…ならないわ」
と笑った
彼女の具合が悪いのは
気のせいだと思った

ジュンは相変わらず

奇声を上げ…
海と戯れていた

「喉が渇いたな」
ワゴンの中を見ると
アイスボックスがあり
開けてみると

中にはビールがつまっていたが

氷も水も入ってない
触ってみると
常温で暖かい
僕らは肩をすくめ
「話にならんな」と言った

ジュンは戻ってくる感じじゃない
「車を借りて店を探すか」と
言うと
僕らは車を走らせた
サラを見ると
青白い顔をして
目をつぶっていた
やはり今日のサラは変だった

近くにスタンドを見つけ
水とコーラーを買って戻ると

ジュンが仁王立ちで
待っていた
ニヤニヤしながら
「すんだかい?俺は目の前で

おっぱじめても構わねえぞ!」と日本語で聞いた
「おまえ…最低だな」と日本語で返すと
サラが難しい顔で
「なに?2人とも…」と言うと
ジュンが
「日本の挨拶だ」と言った
「あなたって頭にくるわ」と
呟いた
日本語じゃなかったら
大変だったろう…と思った
「俺の車でどこへ行ってたんだ?と言ったんだよ」
と言うと
サラは…なんとなく納得し
両手に持ってる水とコーラーを見せた
「俺のは?」とジュンが聞いた
僕らはアイスボックスを指さして
「ホットビール」と言い笑った
ジュンは「マジかよ」と言い
頭を抱えた
「海水でも飲んできな」と
言うと
「やっぱり嫌な奴だ」と言い
ぬるいビールの栓を開け
おもむろに飲みだした
「意外とうまいんだぜ」
と薦めるジェスチャーをしたが
僕らは断った

そしてサラが
「私はここで本を読んでるから
楽しんでらっしゃい」と言うので
僕とジュンはまた
1時間程…波に乗った

海から上がると
「腹減ったなぁ…なんか食いに行くか?」と
ジュンが叫んだ

「悪い…今日サラはあんまり具合良くないんだ」
「え?…そっか残念だな
うまい店つれて行ってやろうかと思ったのに」
「すまんな」
「サラ…大丈夫か?
じゃ…帰るか」
とワゴンに荷物を放り込むと
車はサラの家に向かった

 

 

サラの家に着くと
僕らを降ろし

ジュンは「じゃ…またな」と
呆れる程あっさり走り去った
よっぽど腹が減っていたんだろう

「大丈夫かい?」
「うん…大丈夫」
「やっぱり具合悪いんじゃないか?」
サラを首を振った

とりあえず家に入り
リビングで落ち着いた

僕はキッチンから
冷たい水を持って来て
サラに渡すと
「ありがとう…ごめんね」
と言った
「少し寝た方がいい」
「いい…大丈夫」

そして
リビングのソファで
僕らは暫く海を見ていた

するとサラが
「サーフィン好き?」と聞いた
「好きだよ…でもなぜ?」
「ううん…」と首を横に振ると
深い溜息をついてうつむいた
「どうしたの?」
「なんでもない」
「なんでもよくない」
「…」
サラは黙ってしまった

「サーフィン好きだけど…毎日乗る程ハマってない」
「そうなの?」
サラは顔を上げた
「そうさ…たまにだからいい」
「そっか」
「君もやらないか?」
「私はいい」
「サーフィンは嫌いかい?」
「見ているのはいいけど…
でも…行くんじゃなかった」
と口を閉ざした
「どうした?」

どうやら
波に乗っている時はいいが
落ちて波に巻かれて
上がってくるまで
心配でならないらしい
特に波が大きい程

わかってはいるが…
気が気じゃないと

「落ちなきゃいい…
って訳にもいかないしなぁ」
と言うと
彼女は笑った
「無理でしょ…
あ…ごめんなさい
あなたが楽しいんでいるのに」
「心配してくれてありがとう
でも…子供じゃないから
無理はしないよ
そこまで…チャレンジャーじゃない」
「…サーフィンはやめないでね」
「たまには…やりたい」
「次は家で待つわ」

そうだったのか…と
ちょっと安心したが

「あと…」と言い
口ごもった
「なに?」
すごく言い難そうにしてたが
小さな声で呟く様に言った
「車が…怖いの…まだ」
「あ…」
全身が固まった

そうだ…サラは事故を…

またも浮かれて
気が回らなかった自分に
腹がたち
「なんで…言わなかったんだ?」
と…つい口調が強くなってしまった
「あ…ごめん
それを言ってくれたら止めたのに」
と言いなおすと
サラはまた泣きそうな顔になった
「ごめんなさい」
「違うだろ…謝るのは僕だ
サラ…ごめん」

サラは事故で
車恐怖症になっていたのと
その事故で恋人を亡くしているから
恋人をなくす恐怖から
サーフィンで派手に海に落ちていく
僕が心配でならなかったのだ

僕は馬鹿だ…
とんでもない馬鹿だ

こんな事…ちょっと考えれば
わかる事じゃないか

サラは…黙って我慢していたのだ

「サラ…本当にごめん」
サラを首を横に振るが
あまりの自分の情けなさに
声が震え・・・
自分に対する怒りで
身体が振るえ…
馬鹿さ加減に
涙まで出てきた

それを見たサラは
僕を抱きしめてくれた

…逆じゃないか

僕がサラを抱きしめてあげるのが
筋だろう

でも…サラは優しかった

僕らは抱き合って泣いた

ラジオから
ジェームス・イングラムの
『Just Once』が流れていた


Just once…
Can't we find a way to fin'ly make it right?
Oh, to make the magic last for more than just one night?
I know we could break through it
If we could just get to it
Just once…

《今一度だけ、時間が欲しい
正しい結末に至る道筋を、2人で見つけることはできないだろうか?
たかが一夜では消えない魔法をかけることはできないだろうか?
この危機を乗り越えていけるとわかってる
もし2人が始められるなら
だから、今一度だけ》

 

 

あの一件から

僕らは歩いて行ける場所か
自転車で行ける場所にしか行かなくなった
行動範囲が狭まり
行く場所も
マンネリ化していた

しかも
相変わらず一緒にいるから

当然…少しずつ
ズレが生じて来るようになった

チョットした気になる事も

お互い気にしてないフリで流していた
のが暗黙のルールになっていた

しかし
その…ルールが壊れ始めた

それは
お互いの言葉で
その国に無い言葉
共通の英語でも無い言葉だと
説明のしようもないから

僕は日本語
サラはインドネシア語で
つい使ってしまうと
お互いわからないから
軽く流すのも
沈黙がついてまわる

それと…
サラの
「パパなら…そう言わない」とか
やたら…パパを出してくるのに

不快な気持ちになっていた

初めは
言ってから
お互い気まずくなっても
流していたが…

最近では
顔に出る様になってきた

そして…

とうとう
僕らは喧嘩をした

それはホンのつまらない事だった

ひと揉めしてから…
僕がある言葉を発し
口論は中断した…

僕らは長い沈黙の中
ソファーに並んで座っていたが

サラを背中を向け
僕はギターを弾いていた

やがて
サラは耐え切れなくなり
泣き出した

僕もつまらない意地を張って
無視をした

すると
サラは立ち上がると
家を出て行った

「大人げ無かったか…」
と思い
あとを追いかけたが…

出遅れたのと
地理感の無さで…見失ってしまった

戻って
自転車で走りまわり

サラの行きそうな場所…
サラの好きな場所…
サラの友達の家…

いろいろ
探しまわったが

…見つからなかった

しょうがないので
サラの家に戻り待っていたが

サラは帰って来なかった

心配になり
また…思いつく場所を
さんざん探しまわったが
…見つからなかった

そして
その日はとうとう帰って来なかった

次の日も

更に翌々日も

そして
4日目の朝
僕は鍵をポストに入れ
サラの家を出た

 

 


以前借りていた小屋に戻ると
まだ…空いていたので
持ち主の家に行き
「またそこを借りたい」と
言うと
前に借りた時に
すぐ出てしまったから
家賃分はまだ十分余ってるし
借りる人がいないから
暫くは好きに使っていい
と言われ
礼を言い握手して
小屋に戻った

部屋のレイアウトは
僕がいたままになっていた

ちょっとしか住んでなかったが
微妙に懐かしかった

テラスの長椅子に座り
ラジオを取り出し
スイッチを入れた
ライオネル・リッチーの
「Hello」が流れていた


Hello!
Is it me you're looking for?
Because I wonder where you are
And I wonder what you do
Are you somewhere feeling lonely?
Or is someone loving you?
Tell me how to win your heart
For I haven't got a clue
But let start by saying I love you

《ハロー
ただ君に知って欲しいんだ
だって僕は、君がどこにいるのか知りたいから
君が何をするのか知りたい
君はどこかでさびしく感じているの?
それとも誰かが君を愛しているの?
君の心を勝ち取るには、どうすればいいのか教えてくれよ
だって僕はヒントすら持っていないから

でもこの言葉で始めさせて欲しい。愛しているよ……》



まったく…出来過ぎだろ
と失笑して

ラジオのスイッチを切った

潮騒と風の音だけが
残った

僕は大きく溜息をつき

長椅子の背もたれに両手を投げ出し

ぼー…と
海を見ていた

気を抜いてしまうと

浮かんでくるのは
サラと一緒にいたシーンばかり

何も考えない様に
していたが

無駄な抵抗だった

やれやれ…と
また大きな溜息をついた

「我ながら…呆れるな」
とまた失笑し

ハンモックに横になり
ひと寝入りしようかと
思い
ハンモックに腰をかけ
背中に体重を乗せると
1回転して落ちた

痛みまで懐かしかった
起き上がらずにそのまま
砂の上に大の字になり

目を閉じると

そこには
またもサラが…

「馬鹿だな…俺」と呟き

起き上がり
長椅子に戻り

カバンの中から
バーボンを出して
グビっと飲んだ

喉元を熱く抜けると
酔いが少しずつまわってきた

「酔うのが気持ちがいいのは
久しぶりだな」と呟くと

バーボンのボトルを
一気に飲みほした

いい具合に睡魔が
やってきて

僕はそのまま
眠った

バリの潮風は
優しかった

 

 

 

どの位寝ただろう…

この小屋に来た時は
真上にあった太陽は
すでに月に変わっていた

あまりの馬鹿らしさに
思わず笑ってしまった

「腹が減ったな…」と呟き
腰をあげ
自転車を探した…

ある訳がない

「馬鹿だな…俺」
と失笑して

まぁいいか…と呟くと
また長椅子に腰かけると
ラジオをつけた
シンディ・ローパーの
『Time After Time』が
流れてきた


If you're lost you can look and you will find me
time after time.
If you fall I will catch you I'll be waiting
Time after time.

《もしあなたが迷ったら、私を探して、そしたら私を見つけることができる
何度も何度も
もし落ち込む事があったら、私があなたを受け止める、そしてずっと待ってるから
何度も何度も》



…思わず笑ってしまった

スイッチを切ろうとして
手を伸ばすと
酔いのせいか手元が狂い
ラジオを落とす瞬間
チューナーに触れ
別の局になった
エアロスミスの
『Walk This Way』が
流れてきた


Walk this way, Walk this way,
Just gimme a kiss
Like this!

《こうやって歩くのさ。こうやって歩くのさ。
キスしてくれよ!
こんな風に!》



ゴキゲンなRockに
思わずギターを手に取り
セッションした
この局はRock専用チャンネルらしい

エアロスミスやチープトリックや
ボストンやデフレパードや
ディープパープルやボンジョビが
僕を束の間の
楽しい世界に誘ってくれた

やがて疲れて
セッションを止め
曲だけを楽しんでいたら

「やっぱり
ここにいた…」
と声がした

振り返ると
ニコとジュンがこちらを見ていた

「なんだ…泣いてないじゃん」
とジュンが日本語で言った
「阿呆ぅ…誰が泣いてるって?」と返すと
「おまえ」と
指を指しながらニヤニヤしている
「これが泣いている様に見えるか?」
ラジオはボストンの
『Don't Look Back』に
変わっていた
「ははは…ボストンか
いい趣味してるな」
と日本語のまま話していると

「アンタ達…なに話てんの?」
ニコが呆れ顔で言った
「ははは…ごめん」と言うと

「随分元気いいじゃない」と
イヤミっぽくニコは言った
「これは落ち込んでる男の姿だよ」
とジュンは笑いながら指を指した
僕は調子に乗って
「我ながら泣けてくるよ」と言うと
ニコの平手が飛んできた

「サラは毎日…泣いてるのよ」

ラジオから
レニー・クラビッツの
『Rock & Roll is Dead』が
流れてきた

ジュンは
レニーの「ウ~イェ~」とハモると
「俺…こう言うの苦手」
と言い
逃げる様にエアギターをしながら
去っていった

「とにかく…このラジオ止めてよ」
とニコが怒りながら言った

僕はラジオのスイッチを切ると
また潮騒と風の音だけになった

ニコは静かに言った
「このままで…いいの?」

 


「いいの?…って聞かれても」
「サラは毎日泣いているのよ」
ニコは言った後に…
しまったと言うリアクションをした
「サラが…毎日?…泣いている?」
と呟く様に言うと
更にニコは困った顔をした

「サラは…どこにいる?」
「…」
「毎日って…
君の家にはいない…って言ってたよな」
「…でも」
「まぁ…いいや
サラが会いたくないって言ったんだろ?」
ニコは苦し紛れに頷いた
「だったら…しょうがないだろ」
「…」
「どうしたらいいのかは…サラの方だろ?
会いたくないなら…僕は何にも出来ない」

「でも…サラの家を出る事は無かったんじゃない?」
「あそこで…何日もひとりでサラを待てと?
僕が出れば…サラは家に戻れるだろ」
と思わず声がでかくなった

しばしの沈黙
気まずい空気が溢れている

「一体…何があったの?」
「…なにがって」
「サラは何にも言ってくれないし…」
大した事じゃない…
と言ってもしょうがないから
言うのは止めた

「じゃ…なんて言ったの?」
僕は溜息をひとつつき
「僕は君のパパじゃない」
と呟いた

ニコは驚いた
「なんて事を…」
「え?」
「サラは…あなたとパパを重ねていたのよ」
「わかってる…」
「じゃ…なぜ?」
「僕はサラのパパじゃなく
恋人でいたいんだ」
「…わかるけど」
ニコは困った顔をし
「とりあえず…謝るってできない?」
「とりあえず…って何だよ?」
「だから…ただ謝って抱きしめるのよ」
僕は呆れた顔をして
首を横に振った

「…このままじゃ」
「なに?」
「サラは…また一人になっちゃう」
ニコの答えは意外な物だった
「君達がいるだろ?」
「私じゃ…ダメなのよ」
「なぜ?…」
更に困った顔をして
「…ダメなのよ」と呟いた
「…」
その呟きに
返す言葉が無かった
そして…小さな声で
「あなたにしか…心を許してないの」
「…」

そして…また重い沈黙

ニコは僕を見て
「ねぇ…サラが嫌いになった?」
と不安顔で聞いた
「そんな事はない」
そう言うとニコは
「だったら…サラと会ってよ」
と叫んだ

会わせなかったのは…君
と言おうとしたが止めた
そう…ニコのせいじゃない

黙っている僕を見て
「とりあえず…今日は帰るわ
サラにはあなたが家を出たとだけ伝えるわ」
そう言うと
ニコは立ち上がって
背中を向けた

そして一歩足を出した時に
思い出した様に振り返り
「ねぇ…国に帰るとか言わないでよ」
「あぁ…」と言い
気だるそうに手を振った
「じゃあね」
と言うとニコは
振り返る事も無く帰って行った

また…
くだらない意地を張ってしまった

溜息をついて
やれやれと首を振った

やがて風は止まり
波の音だけになった
視界にラジオが入り
スウィッチを入れると
U2の
『With or Without You』
が流れてきた


Sleight of hand and twist of fate
On a bed of nails she makes me wait
And I wait without you
I can't live
With or without you
…And I'm waiting for you

《策略か巡り合わせか
運命の女神は僕を針のむしろに座らせる
君がいても、いなくても
僕は生きて行けない
君と一緒でも、一緒でなくても
…そして僕は君を待っている》


「ふざけてるな…」と言い
ラジオを海に投げつけた

ドボンと音と共に
ボノの歌は…消えた

波打ち際で浮いているラジオの
ONの赤いランプが静かに消えた

思い立った様に
バーボンのボトルを手に取ると
それは既に空だった

さっき飲み干したのを
思い出し
苛立ち…テーブルに叩き付け

ボトルは鈍い音を立てて
砕けた

僕は長椅子に座り
頭をかかえ

どこから来るのかわからない
怒りに打ち震えていた

風のないバリの夜は
異常な程に静かだった

 

 

頭をかかえながら
目をつむり
怒りに耐えていると

静かな夜の砂浜に
足音が近づいてきた

目を開け顔を上げると
「あ~ぁ」と
濡れたラジオを持って
ジュンが立っていた

戻ってきたのだ

「海に物を捨てるなって
親父から教わらなかったか?」
と言い
「しょうがねぇなぁ~」と
紙袋から
バーボンのボトルを出し
「ほらよ」と投げた

僕はボトルを受けとった
「サンキュウ…」と言うと

「しかし…見事な
絵に描いた様な荒れ方だな…」
と言って笑い
「てめぇはロクな男じゃねぇな
女を2人も泣かしやがって
ニコ…泣いてだぜ」と続けた
「そっか…」と答えて

…会話が途切れた

するとジュンは突然
「あ~」と叫びながら
頭をかきむしり
「だからぁ…
こう言う空気はダメなんだよなぁ」
とジュンは叫ぶと
「よし…俺が聞いてやる
ただし…簡潔にな
難しい話は理解できねぇ」
とテラスにドッカリと座り込んだ

「サラが出て行った…」とだけ言った

短い沈黙…

「え?…それだけ?」
「あぁ…それだけ」
「おまえ…俺を馬鹿にしてないか?
いくらなんでも簡潔過ぎだろ
第一…出て行ったから
俺がここにいるんだろ」
「ははは…確かにそうだな」
「何があった?」
「喧嘩した」
ジュンは呆れ顔で
「あのな…難しい話でいいから
もう少し具体的にな…」

そして僕は
事細かく話した…

ジュンは黙って聞いていた
話し終わると
「そうか…」と呟いた

「理解できたか?」
「とりあえずな…でも
俺の専門な分野じゃねぇなぁ」
と難しい顔をした
「ははは…」僕らは苦笑した

すると
ジュンは思い立った様に…
「おまえ…今すぐ
サラのとこ行って
Kissして抱きしめろ」と言った

「ニコもそう言った」
「え?…ニコも?
で…なぜ?行かない?」
「え?」
「なんで…そうしない?」
「なんで…って」
「おまえ…とことん日本人だな」
「おまえだって日本人だろ」
「とりあえず行ってこい」

…僕は首を振った

それを見てジュンは
「男と女は理屈じゃねぇんだよ
今すぐいけ…」
と…その時
ジュンの携帯が鳴った
携帯をとると
「なんだよ!
え?…わかった」
電話を切ると
「ニコだ…サラが消えたって

探しにいくぞ!…おまえも来い」
ジュンはそう叫ぶと
僕の襟首をつかんで走りだした

僕らはワゴンに乗り込むと
ジュンはキーを回すが
エンジンがかからない
セルが空しく音を立てている
「この野郎」
とハンドルをぶっ叩くと
すんなりエンジンは回り出した
ラジオから
ビーチボーイズの
『Wouldn't It Be Nice』が流れていた
「そんな気分じゃねぇ」と
ラジオに蹴りを入れると
ビートルズの『Help!』に変わった


Help! I need somebody
Help! Not just anybody
Help! You know I need someone
Help!
《ヘルプ! 誰か助けて
ヘルプ! 誰でもいいってわけじゃないけど
ヘルプ! 誰かの助けがいるんだ
ヘルプ! 》


僕らは顔を見合わせて
爆笑した
「ありえんだろ」と
もう一発蹴りを入れると
ブルース・ブラザーズの
『Everybody needs somebody to love』に変わった

Everybody needs somebody
Everybody needs somebody to love
Someone to love
Sweetheart to miss, sugar to kiss

《どんな奴にも誰かが必要なんだ

誰かを愛することが必要なんだ

逢えないときは淋しい想いをし

逢えたら甘いKissする人が》



「これでいいか?」
ジュンが聞いた
「なんでもいいよ」と答えると
ビートルのワゴンはタイヤを鳴らして
急発進した

僕が
「どこへ行くんだ?」と聞くと
ジュンは
「わかんねぇ…
とりあえずサラの家だ」
と叫ぶとアクセルを吹かした
音の割には遅い車だった

すぐにサラの家に着くと
玄関にニコがいた
「ここには帰ってないみたい」

ポストから鍵を取り
ドアを開け3人は部屋に飛び込んだ
「サラ?」
部屋は僕が出て行ったままだった

ニコが「どこに行ったのかしら?」と言うと
2人は僕を見た
僕は首を振った
「とりあえず…片っ端から探す…」
「あ…」ニコが大声を上げた
「サラのパパのお墓」
「そこだ…そこしか無い…どこにある?」
「私…わかるわ」
「よし…行くぞ」
と3人はワゴンに乗り走り出した

ラジオから
ジェームス・ブラウンの
『Get Up Sex Machine』が流れてる
「あんた達…何聞いてんの?」
と呆れ顔をした
ジュンは「これはラジオだから…」
と…また蹴りを入れると
火花をあげて音が止まった
その瞬間…車内は真っ黒な煙にまみれ
視界が無くなった
僕らは急いで窓を開け煙を外に出すと
「なんなのよ」とニコは怒り
僕は「漫画だなこりゃ」と言うと
ニコは更に怒り
「サラが大変なのよ」と叫んだ
「わかってるさ…」とジュンが
クールに答えたが
壊れたラジオをチラチラ見ながら
相当…落ちていた

そして墓地に着いた
「ここは違うんじゃないか?」
ジュンは小声で言った
時間は夜の10時を回っていた

灯りの無い夜の墓地は
一段と恐怖感を増していた
「とりあえず…行こ」と
ニコが呟くと
ジュンはワゴンから懐中電灯を
取り出した
「なぁ…この柵を乗り越えたのか?」
目の前に高い柵があり
鍵が掛かっている
「…でも」ニコは呟いた
「ニコには超えられないから
俺達で行くか?」とジュンが言うと
「場所…わからないでしょ」と
ニコが言うと
ジュンは呆然とした
「なぁ…来てないよ
ここ…いくらなんでも
サラでも無理だ」
と言うと
「そうね」とニコが言うと
ジュンは大きな溜息をついた
「ここじゃ無いなら…ラジオが」
それを聞いて
「ラジオとサラ…どっちが大事なの?」
とニコはキレた
「とりあえず…他を探そう」
僕らはワゴンに乗り込んだ

その時…
サラは僕の小屋にいた


僕のギターを見つけ
「やっぱり…ここだ」
サラは呟いた

しかし…小屋には誰もいなかった

テラスは荒れていて
机に濡れたラジオと
床に散らばったバーボンのボトルの破片を
見つけた

長椅子に腰かけ
それを暫く見ていたが
ラジオのスイッチを入れてみたが
やはり電源は入らなかった

サラは床に散らばった
ボトルの破片を拾い出した

拾いながら
サラは静かに
泣いていた

拾い終えると
また…長椅子に座り
無造作に置いてある
ギターを手に取ると
ギターを抱きしめ
「ごめんなさい…」と
小さく呟いた

誰もいない小屋には
静かに潮騒の音だけが
響いていた

サラはしばらく
ギターを抱いたまま
海を見ていた

どの位…時間が経っただろうか?

いくら待っても
僕が帰って来ない

サラは小さく溜息をつくと

何かを小さく呟いて
ギターを長椅子に戻し

ゆっくりと立ち上がると

海に向かってゆっくりと
歩き始めた

波打ち際まで来ると
波をサラのつま先をなぞった

波はやがて足首まで来て
足を浚おうとするが
よろけながら…膝
…腰と

サラは…海に入って行った

その頃…
僕らは
いる筈の無いサラの行きそうな場所を
ひたすら探しまわっていた



一通り探し
どこにも見つからないのと
疲れと睡魔のせいで
僕らは相当落ち込んでいた

…まさか?

そんな嫌な予感を
誰もが感じ始めていた

でも…誰もそれを
口に出来ないでいた

ワゴンの中は
沈黙の重い空気の中

途中で偶然復活したラジオが
ノイズまじりに小さく
ノラ・ジョーンズの
『Don't Know Why』が流れていて
まるでサラが歌っている様で
一層…気持ちをダウンさせた


I waited 'til I saw the sun
I don't know why I didn't come
I left you by the house of fun
I don't know why I didn't come
I don't know why I didn't come

《朝日を見るまで、ずっと待っていた
何故だか分からないけど私行かなかった
楽しい家のわきにあなたを残して...
何故だか分からないけど私、行かなかった
何故だか分からないけど私、行かなかった》



そして
途方に暮れた僕らは
とりあえず小屋に
戻る事にした

ひょっとしたら
来てるかも?…と

3人は期待を胸に
小屋へ向かった

ワゴンを小屋のすぐ裏に停め
3人は小屋へ走った

小屋には誰もいなかった

ジュンは
「どこへ行ったんだろう?」
と呟いた
ニコは長椅子に腰かけると
「ちょっと待って…」
「なに?」
「あ…」
床に散らばったボトルの破片が
綺麗になくなっている

ニコは更に
「あれ…なに?」と
指を指す先を見ると
砂浜に
海に向かって足跡がある

3人は顔を見合わせ
絶句した

僕は足跡を追って
海に飛び込んだ

暗い海に
何かが浮いていた

僕はそれに向かい泳いだ

近づいて行く程

それが人だとわかった

僕は
「サラ…」と叫びながら
泳ぎ
側まで着くと抱き寄せ
やはりサラだった

「サラ…サラ…」と何度も呼んだ

サラの身体は冷えきっていた。



サラは僕に気づくと
薄れゆく意識の中で
「ねぇ…Kissして」と
ささやく様な小さな声で言い
微笑むとそのまま気を失ってしまった

…サラは生きていた

僕はサラを抱き砂浜まで泳いだ
途中でジュンが…
浅瀬でニコが待っていた
3人で小屋に運ぶと
暖炉に焚き火をし
僕はバックから服という服を
全て出しニコとサラを着替えをさせ
僕はサラを抱き暖めた
ニコは
「なに?ここ…毛布ひとつ無いの?」
とぼやいた
ジュンがワゴンから毛布を出してくれた

気がつくと
サラは小さな寝息をたてていた

ジュンが
「とりあえず…サラの家に運ぼう」と言うと

僕はサラを抱きワゴンの後部シートに乗り
ニコは助手席に乗った

ニコは
「サラは泳ぎが得意で助かったわ」
と独り言を呟いた

サラの家に着くと
部屋を暖め
ベッドにサラを寝かした

どうやら
サラは大丈夫の様だ

ニコはジュンの携帯を奪うと
「私達は帰るけど…
何かあったら電話して
番号は履歴にあるから」
とジュンの携帯を僕に渡した

ジュンは
なんで…俺の?と言う顔をしていたが
「さぁ…帰るわよ…送って」と
ニコに無理やり外につれて行かれた

サラの家はまた
風の音と潮騒だけの静寂を取り戻した

しばらくベッドの横で
サラの寝顔を見ていたら
サラが気づき…
「寒いわ…暖めて」と呟いた

そのままベッドに入ろうとしたら
サラは首を横に振り
僕は服を脱ぎ
サラの服を脱がして
裸で抱き合った
サラは
「暖かい…」と呟くと
僕の腕の中で
また…小さく寝息をたて始めた
サラの身体はだいぶ暖かくなっていた

サラの小さな寝息と
安心と
疲れのせいか

僕も夢の中へ落ちていった
遠のく意識の中で
さっき聞いていた
ノラ・ジョーンズの
『Don't Know Why』が
頭の中で回っていた


I don't know why I didn't come
I don't know why I didn't come

《何故だか分からないけど私、行かなかった
何故だか分からないけど私、行かなかった》


今夜も
バリの夜は優しかった

 

 

 

海沿いの道を走るワゴン

ニコとジュンは
何も語らずに
聞こえにくいラジオを聞いていた

ラジオは
スクリーンミュージック専門の局らしく
シリアスな空気の不似合いな
『燃えよドラゴン』が流れていた

ニコが沈黙を破った
「ねぇ…このラジオ何とかなんないの?」
「変えたら…また止まるかもよ」
「その蹴りでチャンネルを変える事自体
おかしんじゃない?」
「そりゃ…まぁ…そうだけどさ」
ニコはチューナーに触れた
その瞬間…バチバチと小さな火花が出た
慌てて手を引っ込めたニコは
「このままでいいわ」
とクールなフリをして呟いた

ジュンは笑いを堪えていた
するとニコは
「ねぇ…」
「ん?」
「サラは…事故?」
「…」
「事故じゃないわよね」
「だろうな」
「…なんで?」
「さぁ~難しい話は苦手だ」
「なんで死のうとしたの?
なんで喧嘩したのすらわからないし…」
「俺…知ってるよ」
「え?なんで?」
「だって聞いたから…」
「誰に?」
「奴に…直接」
「…信じられない」
「本当さぁ嘘じゃないぜ」
「じゃなくて…私にはダメで
なんでアンタなんかに…話すの?」
「女には話しても理解できない事もある」
と言った瞬間
いきなりニコはジュンの頬を叩いた
「いて!…何すんだよ」
と言いハンドルを叩いた
すると…ラジオは局が変わり
スウィング・アウト・シスターの
『Break out』に変わった
ニコは大笑いをして
「便利なラジオね」と言った


Some people stop at nothing
If you're searching for something
Lay down the law
Shout out for more
Break out and shout
Day in day out
Break out

《後先考えずやっちゃう人だっているの
もし何かきっかけを探しているなら
自信を持って言うのよ
叫ぶの、もっと大きく何回も
はじけるの、そして叫ぶの
来る日も来る日も
はじけるのよ》



ジュンとニコは
顔を見合わせた
「後先考えずにやっちゃう?…これサラの事」
「アンタ…やっぱり馬鹿だわ」
「ひでぇなぁ」
「自信を持って自殺する人間がどこにいるのよ?」
「サラ…?」
ニコは深い溜息をついた
「でも…話しても女にはわからない事…って
わかったわ…少なくとも
アンタ達がよくわからない」
「だろぉ」
ジュンは自慢げに答えた
「馬鹿ね…嫌味よ
ねぇ…その訳のわからなさは…
男だから?日本人だから?」
「ははは…なんせ四千年の歴史があるからな」
「そんな古い国?…違う国の話じゃないの?」
「どうでもいいさ…そんな事」
ニコはまた溜息をついた
「なんだか…馬鹿らしくなってきたわ」
「そう…あとは2人の問題さ」
「そうね…早く帰って寝るわ」
「俺んち…来る?」
「はぁぁぁぁ?
なんでアンタんちで寝なきゃいけないのよ?」
「ニコ…よく見たらいい女だ」
「それ…くどいてんの?」
「そうさ…」
「よく見なきゃいい女じゃなくて悪かったわね」
「恋は盲目って言うだろ?」
「早く家まで送って…アンタと話してると
頭おかしくなる」
「それは…きっと恋だ」
「そうね恋かもね」
「だろ?…俺んちが嫌なら車の中でもいい」
「アンタ…したいだけじゃないの?」
「当たり!…ニコは勘がいいな」
「犯される前に早く私の家に送って」
「ニコんちでもいいぞ」
「アンタ…やっぱり馬鹿だわ」
「ははは…Break Outだ」
ジュンは運転しながら
派手に腰を上下に振った

ニコは再度
ジュンの頬を叩いた

「痛てぇなぁ」
「黙って運転して」
「ラジャー」

ワゴンはニコの家に向かって行った

 

 

翌日の早朝

僕は目をさました
隣にサラが小さな寝息をたてていた

僕はしばらくサラの寝顔を見ていた
…この寝顔を見ていたら
昨日の事やケンカの事など
どうでもよいと思った

そっと頬にKissをすると
サラは目をさました
「おはよう」と言うと
サラはジッと僕を見た
「ん?…どうした?」

サラは黙って僕を見ている
その目は何かを訴えていた

それは…拒否にも見えた

長い沈黙…

するとサラは僕の胸に手をまわし
するりと抱きついた
僕の胸の中で
「しばらくこのままでいて…」
と呟いた

僕はサラを抱きしめて
そのまま動かずにいた
サラの髪は潮の匂いがした

…そうか
昨日のままなんだよな
と思った

サラは僕の胸に顔を埋めたまま
「なにも…聞かないのね」と言った
「あぁ…君が言いたくない事は聞きたくない」
「私はアナタのそう言う所が嫌い」
え?…と思ったが
「そうか…」と答えた

またも長い沈黙

「泳げるって損だわ」と呟いた
「なにを言ってるんだ」
僕は起き上がり
サラと向かい合い両腕を掴んで言った

サラは下を向いたまま
目を合わさずに
「溺れるまで時間がかかったわ」
両腕を掴んだまま大きく振って
「何を馬鹿な事を言ってるんだ」
声が大きくなった

「私…死ねなかった」
と言うとサラの頬に
涙が一筋滑り落ちた
「なぜ?死ななきゃいけなかったんだ」
するとサラは顔を上げ
「やっと…聞いてくれた」
「え?」
「私は…あなたといる事が
最高の幸せを感じるの…でも
辛くて苦しいの」
「なぜ?」
「あなたを見ていると…
どうしてもパパと重なるの」
「…」
「あなたはパパじゃない…
あなたの言う通りよ」
「…」
「でも…これだけは
私でも…どうしようもないの」
「…」
「パパを亡くして…
あなたまでいなくなったら
私は生きていけない」
サラの涙は次々と溢れていた
「僕はどうしたらいい?」
「わからない…」
と首を振るサラ
「…」
「あなたは私が
パパと重ねると
嫌な気持ちになっていた事もわかってた」
「…」
「でも…どうしようもないの」
「わかった…君のパパと重ねてもいい」
「違うの…それも辛いの」
救いを求める様な顔で僕を見た

その瞬間…
僕はサラの両腕を掴んでいた手に
力が抜けて
するりとすべり落ちた

僕の目の前に
震えて座っているサラが
急に幼い少女に見えた

サラは僕の前では
娘だったのだ

僕はサラを愛するあまり
それが見えていなかった

ひとりの女性としか
見れていなかった

サラはこのギャップに苦しんでいたのか…

思い起こせば
サラの無邪気さは
親子の愛であって…

恋人どうしの愛では無い

初めに拒んでいたのは
前彼の事が忘れられないのではなく

大好きだった
父親に求められる
拒否だった

勿論…サラの大人の部分は
僕を求め…
その反面
サラの子供の部分は
それを…拒み続けていた

そんな馬鹿な話…と思うが
少女の様に震えているサラを見て
確信した

おそらく…突然両親を無くした
トラウマがそうさせているんだろう

そのギャップに苦しんでいた所に

僕のずっと言えなかった
「僕は君のパパじゃない」
と言う言葉が

サラの張り詰めていた気持ちの糸を
バッサリと切ってしまい

サラにあんな行動を取らせて
しまった事を
悟った…


僕らは愛し合えない
…こんなに愛しいのに


やはり…神様は
とんでもない悪戯を
隠してした

なぜ?出会ってしまったのか?

無神論者であるが…
僕は神を恨んだ

 

 

僕は震えているサラを
そっと抱きしめた

それはひとりの女性に対するでは無く

まさに娘にハグ…であった

サラもそれに気づき
拒否の色を消した

サラは目を瞑ったまま
僕に身を任せていた

そして
僕らは服を着て
リビング移動して
いつものソファに
並んで座り

長い事…
海を見ていた

2時間いや…4時間は経っただろう
僕らは会話もなく

ただただ…海を見ていた

だが…それは
今までの様な
辛い…とか
では無く

一緒にいる…

それだけで幸せな…気になっていた
サラもさっきと違い
穏やかな顔をしていた

そして
思い出した様に
「サラ…シャワーを浴びておいで
髪や身体が潮と砂で気持ち悪いだろ」
と言うと

サラは…え?という顔をしたが
うなづいて
ゆっくりと立ち上がり
リビングを出て
バスへと向かった

それは…まさに
親子の会話の様だった

サラがシャワーを浴びている間
僕は頭を抱えた
「どうしたらいいんだ…」
色々な事を考えてみたが
混乱するだけだった

その時間は
重く長く感じた

しかし…
それは僕だけでは無かった

ハッとして我に返った時
僕はある事を思い出した
サラはこうして並んで座っている時は
必ずソファーを離れる時には
頬にKissをしたが…

それが無かった

それに…
シャワーにしては
時間がかかり過ぎる

もしや…と思い

バスルームに行くと

サラはシャワールームで
服を着たまま倒れていた

シャワーが出しっぱなしで
ずぶ濡れになっていた

「しまった…」と思い
近寄ると
床には大量の睡眠薬が
散らばっていた

「なんで…」
と思わず口からこぼれた

 

 

サラは睡眠薬を大量に飲んでいた

僕はサラを抱き上げ
「サラ…サラ…」と呼んだが
今度は返事は無かった

止め処なく噴出すシャワーを浴びながら
心がへし折れた気分になり
叫んだが声にはならなかった

サラを抱き上げソファーに寝かすと
救急車を呼ぼうと電話をしたが
インドネシア語がわからず
溜まりかめて切った

そしてニコに電話した
僕は動揺し言葉にならなかった
「サラが…サラが…」と繰り返していた
ニコはそれを察して電話を切り
救急車を呼んでくれた

僕はサラの服を着替えて
ぐったりしているサラを抱きしめた
やるせなさと色んな気持ちが
弾けて胸が張り裂けそうになり
息が苦しく涙が止まらなかった
「ちくしょう…」と言う単語しか出てこなかった

救急車より先に
ニコがパパと一緒に到着し
「なにがあった?」と質問攻めだったが
「サラが…睡眠薬を…」
としか言えなかった
ニコは「やっぱり帰るんじゃなかった」
と呟いた
ニコのパパは表で救急車を待った

たいした時間では無かっただろうが
1分1秒が
とんでもなく長く感じた
ニコは「あなたも着替えなさい」と
言っていたが…いっぱいいっぱいで
動けなかったのとサラが心配でならなかった

救急車が到着しサラは担架に乗せられ
救急車に運ばれた
僕はサラがまたも自殺をはかり
しかも一緒にいた事に
精神的ショックを受けパニックになっていたのと
昨夜の疲労もあり

救急車に足をかけた時
迂闊にも
気を失ってしまった


目を覚ました時には
病院のベッドの上だった

虚ろな頭で回りを見ると
ジュンと…その後ろに
いつぞやの神父さんがいた

神父を見て…
まさか…と思い
「サラは?サラはどうした?」と
いきなり起き上がり
ジュンの腕を掴むと
強い眩暈でベッドから転げ落ちた

何がなんだかわからず
パニックになっていた僕に
神父さんは
「大丈夫…サラも無事ですよ」と
笑顔で言ったが
まったく信じられなかった
力の入らない身体に
無理やり起き上がろうと
のたうち回っていたら
医者がやってきて注射をうたれ

意識が遠のいてきた
「ちくしょう」と叫ぶが
そのまま落ちた

 

 

次に目をさました時には
また暴れると思ったのか…
手足をベッドに固定されていた

「ちくしょう」と叫び
ベッドを壊してやろうかと思う位暴れた
しかし…手足は外れなかった

悔しくて涙が出てきた

とりあえずサラに会わなければ…

それだけしか考えられなかった

看護士に汚い言葉を浴びせ
「サラに会わせろ」と叫び続けた

医者とジュンがやってきた
医者はまたあの注射を持っていたが
ジュンが医者を止めて
「馬鹿野郎…また眠らされるぞ
いい加減にしろ」と言った
「サラは?サラはどうした?」と叫ぶと
「チョット待て」と言い
医者に何かを話し
しばらくしたら
車椅子に乗ったサラがニコに押されて
やってきた

「サラ…?」そう呟くと
頭に血が上ったのか?
それとも薬のせいか?
生きてるサラを見た安心からか?
そのまま力が抜ける様に気を失った

そんな騒ぎを起こしたせいで
すぐ退院できた物を
頭を打ったとか精神的に異常の疑いとか
訳のわからない事を言われ
精密検査など3日間も拘束された

ただ…サラと会いたかった

それだけなのに…

サラは発見が早く処置も早かったので
大丈夫だったそうだ
様子を見て一晩泊まるだけで
すんだそうだ…

3日目
僕は検査の結果
異常は発見されず
やっと開放される事になった

しかし

退院の日に
なぜかサラはいなかった

なぜいないのか不思議だった
まだ…外に出れないのか?
それともまだ…僕に会いたくないのか?
と色々考えた

あの時…薄れ行く意識の中で見た
サラは幻覚だったのか?とまで思った

僕はジュンとニコに掴みかかり
「サラはどうした?どこにいる?
なぜ…いない?」と
聞いた

ジュンは「説明できねぇ」と言い
ニコは「サラはメンタルケアが必要で他の病院で治療を受けてる」
と言った
「どこの病院だ?」
と「聞くと
「教えられない」と言う
治療には…
暫く僕と合わせない方がいい
と医者の指示らしい

僕は気がふれそうだった

サラのいない家で待つのも辛く
サラが未遂をした家や海の小屋にいるだけで
あのシーンがフラッシュバックして
狂いそうだった
サラの家を出て小屋に戻ったが
すぐに酒に溺れ
パソコンを殴り壊し
ギターを叩き折り…挙句に
飲み過ぎて急性アルコール中毒で
搬送され
今度は僕が死にかけて
酒も禁止された
誰かが監視してないと危ない
と言う事で
ニコの家に軟禁状態になった

フラッシュバックが酷く
不眠状態が続いた
食欲も無くなり
このままでは廃人になるんじゃないか?
と言われた

僕もメンタルケアを受ける事を
薦められたが…

サラが出て行った時の様に
冷静ではいられなかった

サラに会えない辛さは半端なく
本当に狂いそうだった

そんな事だから
カウンセリングの時点で
医者とすぐケンカになり

とうとう医師を殴り飛ばし

これ以上問題を起こすと
精神病と判断されかねないと
ケアを受ける事を
誰も薦めなくなった

見るに見かねた
ニコのパパは
僕に日本へ帰る事を薦めたが

どうしても、このままで
日本に帰る気分にはなれなかった

 


ニコの家で軟禁状態で
毎日…海だけを見てる生活が続いた

そんな僕を
ニコはいつでも側にいて
献身的に面倒をみてくれた

しかし…
トラブルが起きてしまった

暴れなくなった僕に
ニコのパパは
そろそろいいだろう…と
夕食にワインを出してくれた

食欲が無く小食になっていたのと
久しぶりのアルコールに
すぐに酔いがまわり
たった一杯で目がまわった

足に来てよろけるので
ニコが部屋まで連れて行ってくれた

そこで
朦朧とした頭の僕は

何を勘違いをしたのか
サラと間違え
ニコをベッドに押し倒した
必死に抵抗するニコを
押さえつけ
Kissをし…
服を脱がそうとした

ニコの悲鳴でニコのパパが止めてくれた

嫌がるニコを
危く犯すところだった

ニコのパパは自分が酒を薦めたから
自分のせいだと謝った
ニコのママも謝ってくれた

未遂だったのと
状況がわかっていたニコも
気にしないから…
と言ってくれた


しかし…

僕は…
もう…ここにいられない
と、みんなの静止も聞かず

ニコの家を出て…
小屋に戻った

すぐに心配して…
ニコとジュンが様子を見に来てくれた

ニコは
毛布と枕を持って

ジュンは
ラジオと古いギターを
どこからか持ってきた
「これは貸すから…壊すなよ」
と言って置いていった

誰もいなくなって
ギターを手に取って
ジャランと鳴らした
チューニングが滅茶苦茶だった
「僕と一緒だ…」と呟き
そのまま長椅子に置いた

ラジオには触れる気もしなかった

それから…何時間かわからないが
長い事…海を見ていた

薬も面倒で飲まなくなって
小屋に戻った時に捨てた

しかし…

こうして何も考えず
長く海を見ていると

フラッシュバックも無く
穏やかにいられた

サラは死んだ訳じゃない…
そう言い聞かせると
気持ちも落ち着いた

ニコとジュンは
毎日交代で来てくれた

おかげで…
何事も無くいられた

そして
退院して
1週間後…


やっと
サラとの面会が許された

 

*******************************

 

another ss.3に続く

 

※コメントは『今日は指向を変えて・・・』の方にお願いします