判例タイムズ1538号で紹介された事例です(鹿児島家裁令和7年3月27日審判)。

 

 

【事案】

・日本に在住しているインド国籍の夫(ヒンドゥー教徒)と日本国籍の妻が、里親認定を受けて、乳児院に入所していたが、児童相談所から里親委託を打診され未成年者の監護養育していた未成年者につき特別養子縁組を申し立てた。

 

 

【判旨】

(1)国際裁判管轄について
 本件申立て時における申立人ら及び未成年者の住所はいずれも日本国内にあることが認められるから、本件につき日本の裁判所が国際裁判管轄を有する(家事事件手続法3条の5)。
 

(2)準拠法について
 法の適用に関する通則法31条1項によれば、渉外養子縁組の実質的成立要件は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法によるものとされ(同項前段)、養子となるべき者の本国法において同人の保護のための同意、許可等のいわゆる保護要件が定められているときは、その要件をも備えなければならないものとされている(同項後段)。

 

法の適用に関する通則法

(養子縁組)
第31条1項
 養子縁組は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。この場合において、養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。

 

 本件では、養子縁組の実質的成立要件については、申立人妻と未成年者との関係では申立人妻の本国法である日本法が、申立人夫と未成年者との関係では申立人夫の本国法であるインド法が、保護要件については未成年者の本国法である日本法が、それぞれ適用される。

 この点、インドは、宗教により身分法を異にする人的不統一法国であるところ、ヒンドゥー教徒による特別養子縁組については、ヒンドゥー教徒養子縁組及び扶養法(HinduAdoptionsandMaintenanceAct,1956。)が適用されることから(同法2条1項(a),5条1項)、申立人夫と未成年者との関係では同法が準拠法となる(通則法40条1項)。

 

 養父子関係については、ヒンドゥー教徒養子縁組法の要件として、①養父となるべき者が、健全な精神を有していること、18歳未満でないこと、妻の同意を得ていること(ただし、妻が死亡しているか、ヒンドゥー教を完全に放棄するか、ヒンドゥー教徒でなくなったか、管轄裁判所によって精神異常であると宣告されている場合を除く。)(同法7条)、②養子となるべき者が息子のときは、養父母となるべき者に生存するヒンドゥー教徒の息子、息子の息子、息子の息子の息子(養子を含む。)がいないこと(同法11条1号)、③養子となるべき者が、ヒンドゥー教徒であること、養子となっていないこと、未婚であること、15歳未満であること(ただし、15歳に達している者が養子縁組をすることが認められる慣習又は慣行が存在する場合を除く。)(同法10条)を満たす必要がある。

 

 前記1の認定事実によれば、申立人夫と未成年者との関係において、養子となるべき者がヒンドゥー教徒であるとする要件を除き、上記①から③の各要件を満たしているものと認められる。

 

 ところで、未成年者はヒンドゥー教徒ではないため、養子となるべき者がヒンドゥー教徒であるとする要件を本件に適用するとすれば、本件で特別養子縁組の成立を認める余地はないことになるが、上記要件は必ずしも養子となるべき者の保護を目的としたものではないこと、申立人夫妻は今後もインドで定住することなく日本で未成年者とともに生活する予定であり、本件特別養子縁組を認めた場合のインド社会秩序に与える影響は大きくないと思われること、前記(1)での認定、説示したとおり、本件では特別養子縁組を成立させることが未成年者の利益のために特に必要があると認められることからすると、未成年者がヒンドゥー教徒でないことのみを理由に特別養子縁組を認めないことは不当であるといわざるを得ず、特別養子縁組の成否を子の利益を中心に考慮決定すべきものとする我が国の社会通念や法の下の平等を定める憲法14条1項に反する結果になりかねない。

 

 そうすると、本件特別養子縁組に関し、ヒンドゥー教徒養子縁組法10条のうち養子となるべき者がヒンドゥー教徒であることを要件とする部分を適用することは、我が国の公の秩序又は善良の風俗に反するものと解するのが相当であるから、通則法42条により、同部分の適用を排除するのが相当である。

 

公序)
第42条
 外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。

 

カナダ国籍の夫につき反致により特別養子縁組の準拠法を日本法と判断した事例 | 弁護士江木大輔のブログ

 

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