判例タイムズ1538号で紹介された裁判例です(東京高裁令和6年10月17日判決)。

 

 

複数の犯罪が成立し何れについても有期刑とするという場合、外国では単純にそれぞれの罪で定めた刑期を合計して懲役150年といった刑が下されることがありますが、日本ではこうした方式はとっておらず、併合罪として刑の長期の上限にロックがかかっています(成立する犯罪の中で最も重い罪の刑の長期の1.5倍 刑法47条)。

ただ、外見的に複数の犯罪が別個に成立しているように見えても全体を一罪として処断して併合罪とは取り扱わない包括一罪という概念もあります。

被告人にとっては、併合罪として扱われて刑の長期が1.5倍増しとなるかどうかが関心事となります。

 

刑法

(有期拘禁刑の加重)
第47条 
併合罪のうちの二個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

 

また、刑法54条は、一個の行為が2個以上の罪名に触れる場合などにおいてはその最も重い罪により処断することを定めています。2個以上の罪名に触れているため、被告人にとっては、併合罪として取り扱われて刑の長期が1.5倍増しとなるかどうかが関心事となります。

 

刑法

(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第54条
 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

 

 なお、こうした科刑処理について正しく処理がされなかった場合、法令上の誤りとして控訴の理由となり、結果として処断刑は変わらなかったとしても控訴審において破棄され、控訴以降の未決期間がすべて刑期に算入されるという被告人にとってのメリットがあります。

 

 

 本件は、被告人が氏名不詳者らと共謀の上、令和5年3月30日から同年4月10日までの間に、

①氏名不詳者が、電話で、各被害者に対しキャッシュカードを新しいものに交換する必要があるなどとうそを言い、被告人が、7名の被害者方を訪れ、同人らからそれぞれキャッシュカードや通帳を詐取し、

②被告人が、前記①で詐取したキャッシュカードや通帳を用いて現金自動預払機から現金を窃取し(被害額合計863万9000円)、

③被告人が、前記①で詐取したキャッシュカードを用いてATMを作動させ、前記①の被害者のうち4名の預金口座から被告人らが管理する第三者名義の各口座に送金したとする虚偽の情報を電子計算機に与え、不実の電磁的記録を作り、財産上不法の利益を得るという電子計算機使用詐欺を行い(被害額合計600万円)、

④前記③の各犯行により財産上不法の利益を得るに当たり、被告人が、被告人らが管理する第三者名義の口座に同金員を振込送金し、各犯罪収益等の取得につき事実を仮装した

という事案です。

 

 

【弁護人の主張】

・④の犯罪収益等取得事実仮装の罪について、同一の犯意の下に行われた犯罪収益隠匿行為であって全体として包括一罪である。

・③の電子計算機使用詐欺罪とその際に行った犯罪収益等取得事実仮装の罪とは、全く同じ行為であって科刑上一罪である。

 

【判旨】

(1)所論①(犯罪収益等取得事実仮装の罪は包括一罪であるとの主張)について
 ア そもそも、原判示第6、第10、第18及び第22の各犯罪収益等取得事実仮装の各罪の前提犯罪は、それぞれ別罪を構成する電子計算機使用詐欺罪である上、各事実仮装の犯行に用いられた振込先口座はそれぞれ異なっている。

 また、被告人は、振込先の口座番号を伝えられて振り込む役で、各振込先口座を管理していたわけではないし、各振込先口座への送金後は直ちに同口座から引き出され、犯罪収益の隠匿がさらに進められており、各振込先口座において犯罪収益が管理されていたわけでもない。
 加えて、本件において、被告人は、前記2(1)イの被害者に対するキャッシュカード詐欺の受け子をした際の現場遺留指紋と被告人の指紋が一致したことから検挙され、被告人が逮捕時に所持していたキャッシュカードに関する捜査等から、他の詐欺等の犯行が発覚するなど、被告人の所持品に関連する捜査や被害者、被告人等に対する所要の捜査を行い、他の被害者に対するキャッシュカード等の詐取などが解明され、各犯罪収益等取得事実仮装の罪の検挙に至っているという事情もある。
 これらの各犯罪収益等取得事実仮装の罪が包括一罪といえるかどうかについては、犯罪収益等の仮装・隠匿の罪の規定の趣旨を踏まえて検討すべきであるが、犯罪収益等の将来への犯罪活動への再投資及び合法的な経済活動への悪影響の防止を目的とし、将来の犯罪活動への再投資などのおそれのある犯罪収益の保持・運用を容易にする行為を処罰するという同規定の趣旨からは、再投資防止の観点から法益侵害の一体性を肯定できるような実質的隠匿状況の共通性がない場合は、別々に処罰するのが相当であり、包括一罪とすることはできないというべきである。

 前記のとおり、前記2(1)アないしエの各事件は、「同一の」犯罪収益等を隠匿した事案ではないし、振込先口座には共通性がなく、振込先口座から引き出した後の実質的隠匿状況の共通性をうかがわせる証拠はなく、各事件が事件ごとの捜査を経て証拠が収集され検挙に至ったという事情からも、実質的隠匿状況の共通性を認めることができない。これらによれば、各事件は、それぞれ別個の犯罪収益等の隠匿事案として処罰すべきであり、包括一罪と扱うことが相当とはいえない(なお、隠匿の共通性がないこともあり、本件のような類型の事実仮装事件は、検挙された者が関与した犯行の全てが解明できて判決に至るとは限らないところ、これらの罪について検挙された者の意思などを根拠に包括一罪と解することとすると、有罪判決を受けた後に同様の罪が発覚した場合、電子計算機使用詐欺罪については一事不再理効の問題は生じないが、犯罪収益等取得事実仮装の罪については一事不再理効の問題が生じることになりかねないが、見つかりにくい隠匿を行った場合、その後発覚しても処罰を免れることになりかねず、犯罪収益等の仮装・隠匿の罪の規定の趣旨に照らしても不合理である。なお、今回は振込実行役が検挙されているが、匿名性のある連絡状況からは、指示役等が検挙された場合でも同様の問題が生じる類型といえる。)。


 イ 所論は、高裁判決(東京高等裁判所平成20年(う)第672号同年7月3日判決・高等裁判所刑事裁判速報集平成20年109頁、東京高等裁判所平成30年(う)第1289号令和元年9月13日判決・東京高等裁判所判決時報70巻75頁)を引用し、同一の犯意の下に犯罪収益等取得につき事実を仮装した事案については、包括一罪とすべきであるという。
 しかし、引用判決は、いずれも、各被害者に電話をかけて、各被害者によりいわゆるかけ子である犯人らの管理する第三者口座に現金を振込入金させる詐欺を前提犯罪とする犯罪収益等取得事実仮装の罪の事案についてのものであるところ、これらは、被害者に振込入金させた第三者口座が各事件の被告人の下で管理されているなど各犯罪収益等取得事実仮装事件に係る犯罪収益の実質的隠匿状況に一定の共通性がある事案についてのものと解されるのに対し、本件は、第三者口座が一時的な送金のみに用いられ、その後の隠匿場所も明らかではないなど再投資防止の観点から法益侵害の一体性を肯定できるような実質的隠匿状況の共通性も認められないものであるから、事案を異にしている。本件について、実質的隠匿状況等から包括評価になじまないといえる以上、引用判決の趣旨を踏まえて検討しても、犯意の同一性などを根拠に包括一罪と評価することはできないから、所論は採用できない。
 ウ 以上によれば、前記2(1)アないしエの各犯罪収益等取得事実仮装の罪は、併合罪関係にあるといえ、原判決の法令適用に誤りはない。
 

(2)所論②(電子計算機使用詐欺罪と犯罪収益等取得事実仮装の罪は、観念的競合であるとの主張)について
 所論は、原判示に係る各電子計算機使用詐欺罪に該当する行為(原判示第5、第9、第17及び第21)とその際に行われた各犯罪収益等取得事実仮装の罪に該当する行為(原判示第6、第10、第18及び第22)は同じ行為であり、観念的競合の関係にあるという。
 そこで検討すると、本件の各電子計算機使用詐欺罪の行為は、ATMを操作して被害者の口座から振込送金操作を行い、第三者口座の残高を増加させる方法で行われているところ、第三者口座に送金後、同口座から現金を引き出されており、社会的には、これらの行為全体が、犯罪収益等取得事実仮装の罪の行為と評価されるべきものである(振込先口座からの現金引出行為は、同口座の第三者口座性の推認にも関わるという意味で、事実仮装の罪の認定に関わる事実といえるし、この事実は犯罪収益としての没収困難性を強めるという意味で犯罪収益等取得事実仮装の罪の非難可能性を大きく左右する重要な事実ともいえる。)。

 これらによれば、本件における各電子計算機使用詐欺罪の行為とその機会に行われた各犯罪収益等事実仮装の罪の行為は、構成要件としての認定犯罪事実だけをみれば、同一といい得るものの、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとでは、その重なり合いは一部にすぎず、行為の重要部分が重なっているとはいえない。また、電子計算機使用詐欺罪に触れる行為は、第三者口座を用いなくても、犯人の個人口座に送金することでも実行できるのであって、電子計算機使用詐欺罪に触れる行為と犯罪収益等取得事実仮装の罪に触れる行為が通常伴う関係にあるともいえない。これらによれば、各電子計算機使用詐欺とその際に行われた犯罪収益等取得事実仮装の行為は、社会的見解上1個のものと評価できず、両罪は観念的競合の関係にはないといえ、両罪を刑法45条前段の併合罪であるとした原判決の法令適用に誤りはない。
 所論は、最高裁判例(最高裁判所平成18年(あ)第2516号同19年12月3日第一小法廷決定・刑集61巻9号821頁)は、詐欺罪と犯罪収益等取得事実仮装の罪とが観念的競合の関係にあることを前提としており、本件についても観念的競合と解すべきである旨をいうが、事案を異にする判例を引用するものであるし、同決定の説示は、両罪が観念的競合かどうかという点に関わるものではなく、本件における罪数判断と抵触しない。

 また、所論は、組織的詐欺の罪と犯罪収益等取得事実仮装の罪が観念的競合の関係にあるとした高裁判決(前掲東京高等裁判所平成20年7月3日判決)の存在を指摘して、電子計算機使用詐欺罪と犯罪収益等取得事実仮装の罪も同様に観念的競合の関係にあると解すべきというが、事案を異にする判決を引用するものであるし、前記の判断を左右する事情は見当たらない。これらによれば、各電子計算機使用詐欺罪とその際に行われた犯罪収益等取得事実仮装の罪が観念的競合の関係にある旨をいう所論は、採用できない。