判例タイムズ1515号で紹介された裁判例です(大阪地裁令和5年7月14日判決)。

 

 

本件は、市の定例会の一般質問において、「CIRの国際交流員として中国人を採用していると思うんですが、市民の方から、市民目線でいえば、半分公務員みたいな職業に中国国籍の方が就くのは大丈夫か、あり得ない、怖いという声をもらっています。」旨等の発言を行った市議会議員に対し、市議会により謝罪と反省を求める旨の決議がなされたところ、議員が、決議の取消しや名誉権の侵害を理由とする損害賠償を求めたというものです。

先行してなされた決議内容の広報誌への掲載差し止めの仮処分申し立てについては却下されています。

 

 

謝罪等を求める地方議会の決議内容の市民向け広報誌への掲載禁止等の仮処分の可否 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

本件の争点の一つは、本件決議が、地方自治法135条1項1号の「公開の議場における戒告」に当たる懲罰処分であって取消の対象となるかどうかということでしたが、裁判所は次のとおり述べて否定しています。

・地方自治法134条1項は、普通地方公共団体の議会は、同法並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる旨規定し、同法135条1項は、懲罰は、公開の議場における戒告(同項1号)、公開の議場における陳謝(同項2号)、一定期間の出席停止(同項3号)及び除名(同項4号)とする旨規定する。
・同法134条2項は、懲罰に関し必要な事項は、会議規則中にこれを定めなければならない旨規定し、泉南市議会会議規則162条は、戒告又は陳謝は、議会の定めた戒告文又は陳謝文によって行うものとする旨規定する。
・上記の公開の議場における戒告は、公開の議場において被処分議員を議長の面前に起立させ、議長が戒告文を朗読して行うのが普通である。また、戒告の一種であるから、当該議員本人に将来を戒める旨の申渡しをするものである。
・本件決議の内容は、本件発言に対する抗議の書面が提出されたことを受け、泉南市議会としても、原告に対し謝罪と反省を求めるというものであって、本件発言が「無礼の言葉」に該当することを理由とするものとはいえず、同法134条1項所定の懲罰理由(同法並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反したこと)を理由とするものとは認められない。
・また、本件発言に関し、泉南市議会において、公開の議場において原告を泉南市議会議長の面前に起立させ、同議長が戒告文を朗読し、原告に対し将来を戒める旨の申渡しをしたとは認められない。そして、泉南市議会が本件発言について戒告文を定めたことはない。
・そうすると、本件決議は、懲罰の議決とはいえず、また、本件決議をもって、公開の議場における戒告がされたとはいえない。

・本件決議は、懲罰ではなく、事実上、原告に対して本件発言について謝罪及び反省を求めるものであり、言い換えれば、本件決議は、泉南市議会が法令上の権限に基づいてした議決(地方自治法96条等参照)ではなく、事実上の意思決定としての決議にすぎないといえる。したがって、本件決議は、政治的な意味を有する事実上の効果を伴うものであるといえるとしても、法的効果を伴うものではない。
・以上によれば、原告のその余の主張を踏まえても、本件決議は、上記の行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たらない。そうすると、本件取消しの訴えは、処分の取消しの訴えの対象とならない本件決議を対象として、処分の取消しの訴えを提起するものであるから、不適法である。

 

 

また、名誉権が侵害されたことを理由とする国家賠償請求については、普通地方公共団体の議会の議員に対する懲罰その他の措置が当該議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断するに当たっては、当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り、議会の自律的な判断を尊重し、これを前提として請求の当否を判断すべきものと解するのが相当であると判示した判例を引用したうえで、本件決議の内容が原告の名誉を毀損するなどの原告の人格権を侵害する違法性があるか否かという点については、泉南市議会の内部規律の問題にとどまるものといえるから、同市議会の自律的な判断を尊重し、判断を差し控えるのが相当であるとして請求を棄却しています。

 

 

地方議会の議員に対する懲罰その他の措置に関する国家賠償請求の当否の判断方法 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

地方議会の出席停止の懲罰と司法審査 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)