判例タイムズ1460号などで紹介されている最高裁判決です(最高裁平成31年2月14日判決)。

 

 

本件は地方議会(市)の議員(原告)が決定された委員会の視察旅行につき、市の財政状況などに照らして行うべきではないと考えて欠席届を出して視察旅行を欠席したところ、議会から厳重注意処分を受けたとして、国家賠償による慰謝料請求を行ったという事案です。

 

 

高裁は次のとおり判示して議員(被上告人)の市(上告人)に対する請求を一部認容しました。

(1) 被上告人の請求は,名誉権という私権の侵害を理由とする国家賠償請求であり,議会が自主的,自律的に決定した事項の是非を直接の問題とするものではない。また,被上告人は,公費の支出を伴う本件視察旅行の必要性に疑問を呈し,政治的信条として参加を拒否したのであるから,上記請求は,紛争の実態に照らしても,一般市民法秩序において保障される移動の自由や思想信条の自由という重大な権利侵害を問題とするものであり,一般市民法秩序と直接の関係を有する。したがって,本件訴えは,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たる。
(2) 本件措置等は,議会運営委員会が,被上告人が市議会議員としての公務を怠ったと断定し,厳重注意処分をしなければその責務を全うし得ない人物であると評価し,判断したことを示すものであるから,被上告人の市議会議員としての社会的評価の低下をもたらすと認められる。そして,被上告人の請求は司法審査の対象となるから,本件措置等において摘示された事実が真実であるか,また,その事実を真実と信ずるについて相当の理由があるか否かも裁判所が判断すべき事項であるところ,これらはいずれも認められない。したがって,上告人は名誉毀損による国家賠償責任を負う。

 

 

しかし、最高裁は(1)については是認できるものの、次のとおり説示して(2)の判示については是認できないとして、議員の請求を全部棄却した第一審判決を支持しました。

・被上告人の請求は,本件視察旅行を正当な理由なく欠席したことを理由とする本件措置等が国家賠償法1条1項の適用上違法であることを前提とするものである。
・普通地方公共団体の議会は,地方自治の本旨に基づき自律的な法規範を有するものであり,議会の議員に対する懲罰その他の措置については,議会の内部規律の問題にとどまる限り,その自律的な判断に委ねるのが適当である(最高裁昭和34年(オ)第10号同35年10月19日大法廷判決・民集14巻12号2633頁参照)。そして,このことは,上記の措置が私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断する場合であっても,異なることはないというべきである。
・したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する懲罰その他の措置が当該議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断するに当たっては,当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り,議会の自律的な判断を尊重し,これを前提として請求の当否を判断すべきものと解するのが相当である。
・これを本件についてみると,本件措置は,被上告人が本件視察旅行を正当な理由なく欠席したことが,地方自治の本旨及び本件規則にのっとり,議員としての責務を全うすべきことを定めた本件要綱2条2号に違反するとして,議会運営委員会により本件要綱3条所定のその他必要な措置として行われたものである。これは,被上告人の議員としての行為に対する市議会の措置であり,かつ,本件要綱に基づくものであって特段の法的効力を有するものではない。また,市議会議長が,相当数の新聞記者のいる議長室において,本件通知書を朗読し,これを被上告人に交付したことについても,殊更に被上告人の社会的評価を低下させるなどの態様,方法によって本件措置を公表したものとはいえない。
・以上によれば,本件措置は議会の内部規律の問題にとどまるものであるから,その適否については議会の自律的な判断を尊重すべきであり,本件措置等が違法な公権力の行使に当たるものということはできない。