判例タイムズ1505号で紹介された裁判例です(大阪地裁令和4年9月26日決定)。

 

 

本件は、市議会議員が、市議会で行なった質問に差別的内容が含まれていたとして市議会により謝罪と反省を求める旨の決議がなされたところ、この内容を市の市民向け広報誌である議会便りに掲載された場合、その名誉が侵害されるとして、人格権に基づき、決議の内容の掲載とこれが掲載された議会便りの頒布を禁止する仮処分を求めたという事案です。

 

 

裁判所は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてこれを読めば、当該市議が一般質問の際に在日中国人に関して何らかの発言を行い、これが不当な差別的言動等に当たるとする抗議書が市議会に複数提出されたことを受け、市議会からも謝罪及び反省を求められていると受け取られるものであり、市議会議員としての名声、信用等社会から受ける客観的評価を低下させるものと認められるとして社会的な評価の低下をもたらすものであるとした上で、記事の掲載及び頒布が市議会の内部規律の問題にとどまるものとは言い難いとし、司法審査の対象になることを肯定しています。

 

 

しかし、名誉権に基づく出版物の頒布等の事前差止めは、その対象が公務員や議員に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、原則として許されず、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに、例外的に許されるものと解するのが相当であるとする判例(北方ジャーナル事件)を引用した上で、本件記事が摘示する事実はいずれも真実であり、本件議会だよりが、議会の活動や各議員の発言を泉南市民に周知することを目的として発行され、頒布されるものであるところ、市議会の活動内容は市民の重大な関心事であることに加えて、本件記事の内容も、市議会定例会における市議の発言に対して市議会が行った本件決議の内容をそのまま紹介するにとどまるものであることからすれば、本件議会だよりにおいて本件記事を掲載することとこれを各世帯に頒布することは、公益を図る目的でされたものであると認められるとして、結論として、差し止めについて否定しています。