金融・商事判例1676号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年3月14日判決)。

 

 

本件は、胃GISTという腫瘍について、加入していたがん保険の「悪性新生物」にあたるとして保険金請求がされた事案です。

 

 

国立研究開発法人国立がん研究センター

GIST(消化管間質腫瘍) | 希少がんセンター (ncc.go.jp)

 

 

GISTという概念が広く知られるようになったのは2000年以降のこととされ、本件がん保険が「がん」の定義とする基準として定めるICD-10(「がん」かどうかに関して基準を定めた厚生省の「疾病、傷害及び死因統計分類概要」)、ICD-O-2(「悪性」かどうかについての基準を定めた「国際疾病分類-腫瘍学第2版」)には、本件の保険契約が締結された平成9年当時には記載がなく、これらが参考としていた文献であるWHOの教科書シリーズであるブルーブックの第1版(1977年刊行)、第2版(1990年刊行 本件保険契約締結時に最新であったもの)にも記載がありませんでした。胃GISTについてブルーブックに記載が登場するのは第3版(2000年刊行)以降でした。

なお、本件がん保険ではICDの改定があったとしても遡及適用はしないこととされていました。

 

 

判決は、本件GIST(原発性)について本件がん保険の保険金請求が認められるためには、ICD-10において胃の悪性新生物に該当することが必要であり、悪性であると言えるためにはICD-O-2上、新生物の形態の形状コードが/3にあたる必要があるとした上で、本件がん保険契約締結当時に胃GISTという概念がなかったことから、当時のICD-10やICD-O-2の記載から直ちに本件GISTが悪性かどうかを判断はできないが、これらがブルーブックを参照にしていたことから、ブルーブックの記載内容を参照とするのが合理的であるとしています。

 

 

そして、ブルーブック第4版(2010年刊行)には、GISTには良性のものと悪性のものがあることが明記されており、GISTが悪性であるという原告の主張を退けて、本件GISTがブルーブック第4版の予後グループ2(良性)に該当していることからも、本件GISTが悪性であるとは認められないとしています。