家庭の法と裁判36号で紹介された裁判例です(大阪高裁令和3年8月27日決定)。

 

 

離婚事案において争点のなることの一つに財産分与を巡って,「財産隠しがされている。」,「いや,されていないいない。」という主張の応酬が繰り広げられることがあります。

 

 

実務的には,まずは当事者双方で通帳などの資料を出しあっ上で財産が,それでも開示されていない財産があるはずだと主張する当事者が裁判所を通じて金融機関などに対して調査嘱託を行いますが,すんなり開示してくる金融機関もあれば,あくまでも預金名義人の同意が必要であるとして同意が得られないことなどを理由に嘱託に応じない金融機関などさまざまです。

 

 

本件も離婚に伴う財産分与において,夫が妻の財産が十分に開示がされておらず,本当はもっと財産が存在しているはずだということを主張した事案ですが,第一審ではそのような主張は退けられましたが,控訴審ではこの点に関する主張が認められ(もっとも、夫が主張する財産分与の基準日から1年以上前の預貯金口座の取引履歴についての文書提出命令について第一審、控訴審ともに却下としています),裁判所は,当事者が開示していない財産を保有し,あるいは保有し得たとの事情があり,この事情を斟酌しなければ財産分与における当事者間の衡平を害すると認められる場合には,民法768条3項の「一切の事情」として考慮して財産分の額を定めるのが相当であるとされました。

 

 

民法

(財産分与)
第768条
 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

 

 

本件では,当事者が開示していない財産を保有し,あるいは保有し得たとの事情があり,この事情を斟酌しなければ財産分与における当事者間の衡平を害すると認められるとされたわけですが,具体的な事情として,本件において,当事者は夫婦ともに医師であり,夫が「妻にはもっと財産があるはずだ」と主張して銀行に対する文書提出命令などを繰り返していたのですが,裁判所は,別居の4年前からの妻の収入については約3386万円もの高額な収入であったことやその収入から妻が負担すべき租税公課や職業費などの支出についてどれだけの額を支出したのかについて的確な証拠が提出されていないこと,家計支出については夫の収入から支出されていたものがほとんどであったことなどから,この間の収入のうちの2,3割程度は別居時点までに貯蓄されていたものと認められるとされています。

 

 

本件の場合,高額な収入を得ていたという特殊事情があり,多くの家庭裁判所で繰り広げられている離婚に伴う財産分与に関する財産開示を巡る紛争において一般化できるものではないように思われます。

 

 

また、本件では、10年以上前に財産分与対象である住宅についてのローンの繰上げ返済につき、その原資についてはその実父からの援助であるからこの部分は財産分与の対象ではなく夫の特有財産として評価すべきであると主張したいのに対し、第一審はこれを認めませんでしたが、控訴審は、10年以上前の繰上げ返済について裏付ける資料がなかったとしてもやむを得ないことであり、繰上げ返済金額を夫がその資産から支払ったことを裏付ける証拠もないことなどから、夫の主張を認めています。

 

 

本件では、実務上よくありがちな点について判断されていますが、その他に、基準時の預貯金残高に婚姻前からの預金が含まれておりその部分は特有財産であるという主張につき、仮にそうであるとしても、家計管理のための口座であって、婚姻以後20年以上出入金が繰り返されており婚姻時の預金は夫婦共有財産として特有財産性を失ったと指摘されています。