1 離婚原因としての精神病 民法770条1項4号は「強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき」を離婚原因して挙げています。

 旧民法では離婚原因して定められていませんでしたが,昭和23年の民法改正から離婚原因として規定されているものです。

 精神病には,精神医学的には統合失調症や躁うつ病などさまざまな病名がありますが,法的には,病名は関係なく,精神障がいがあってそれが婚姻生活の破綻に結びつくものであるかどうかが問題とされます。

成年後見や保佐の開始審判を受けていることとは直接の関係はありません。 

 

 

2 精神病を理由とする離婚請求と裁量棄却(具体的方途論) 

民法770条1項4号の精神病を理由とする離婚請求のみを離婚原因として請求した場合,民法770条2項の裁量棄却の適用が問題となることがあります。 

最高裁の昭和33年7月25日判決は,民法770条1項4号の「配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込がないとき」について,同条二2は,右の事由があるときでも裁判所は一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは離婚の請求を棄却することができる旨を規定しているのであつて,民法は単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもって直ちに離婚の訴訟を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても,諸般の事情を考慮し,病者の今後の療養,生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において,前途に,その方途の見込のついた上でなければ,ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて,離婚の請求は許さない法意であると解すべきであるとしました。

 裁判例の流れとしては,精神病を理由とした離婚請求については,離婚後の相手方配偶者の生活費などの経済的な負担や保護の引受先などの具体的な方途が講じられているかどうかを重視する傾向にあります。

 離婚原因としては,精神病の不治のみを理由とするのではなく,その他の民法770条1項5号の婚姻を継続し難い重大の事由があるということも併せて主張すべきということになります。もっとも,その他の離婚原因として婚姻を継続し難い事由に当たるものがないような場合には,精神病の不治によることを理由として,相手方配偶者の今後の生活のための具体的な方途を講じているということを併せて主張立証する必要があります。 

 

 

3 被告適格 精神病を理由とする離婚請求の場合,相手方配偶者の被告適格が問題となることがあります。 

相手方配偶者に意思能力がある限り,離婚訴訟の当事者として相手か配偶者本人を被告とすればよいことになりますが(人事訴訟法13条1項),意思能力を書いているような常況にある場合には,民事訴訟法35条の特別代理人を選任してもらうか,成年後見開始の審判を得た上で成年後見人や成年後見監督人を被告として訴訟提起するということになります(人訴法14条)。

 

 

 

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