判例タイムズ1438号で紹介された事例です(大阪地裁平成29年2月2日判決)。
本件は,要介護2の認定を受けていた高齢者(在宅)が,ショートステイ先の施設で深夜に一人でトイレに行こうとしたところ転倒し,急性硬膜下血腫となり,そのまま死亡したという事案につき,遺族が施設の安全注意義務違反を主張して損害賠償請求したという事案です。
施設側は,
・再三に亘って一人でトイレに行かないように注意しており,当該高齢者が一人でトイレに行くことは予見できなかった(予見可能性の問題)
・たとえ予見できたとしても,体制を整備するにも限界があり,(遺族側が主張する)離床センサーを設置して結果を回避すべき義務まではなかった(結果回避可能性の問題)
を主張して反論しました。
まず,予見可能性の問題については,当該高齢者は入所当初から一人でトイレに行こうとしていたこと,本件事故の19日前にもトイレに一人で行こうとして転倒していたことなどからすれば,当該高齢者が一人でトイレに行こうとすることについては予見することができたとされました。
結果回避義務の点については,当該施設は介護事業者であり,実際に施設内に離床センサーを設置していた実績があったこと,当該高齢者がナースコールを押そうとしない利用者であり,事故当時の知見からしてもそうした利用者に対しては離床センサーの設置が有効であったと認められること,高齢者に対して聞き入れてもらえないことが分かっている注意をしたとしても意味はなく一人でトイレに行かないように注意していたからといって結果回避義務を果たしたとは言えないことなどから,結果回避義務違反についても認められてました。
転倒事故は,食事中の事故などと並んで介護事故において多く見られる類型であり,きちんと対処しておかなければ施設として責任が問われ得るということを認識しておかなければならないと思います。