判例タイムズ1432号等で紹介された最高裁判決です(平成28年7月8日判決)。
本件は,民事再生事件における相殺の可否について判断したものです。
相殺することができるの要件の一つとして「相互性」があり(民法505条1項「互いに」),AとBとがそれぞれ相互に債権を持ち合っている場合に相殺することができることでする
当然のことのように思われますが,倒産の場面においては,相殺を利用して実質的に倒産した者からの債権回収を図ろうとしたりすることが行われることがあり,また,そのようなことを防ぐために法律上,相殺の制限が規定されています。
破産においても民事再生においても,破産者(再生債務者)と債権者との間に,手続き開始前にすでに相殺することができる状態(相殺適状)となっていた場合には,手続き開始後においても相殺することができます。なお,再生手続きにおいては,相殺することができる場合であっても債権届出期間内に相殺の意思表示をしなければならないということとなっているので,再生債権者側として届出手続きを行う際には,注意が必要です(これを怠ってしまうと,本来相殺することができたはずの債務の支払いは全額求められるのに,自己が有している債権についてはカットされるということになってしまいます。)。
(相殺の要件等)(相殺権)
本件においては,民事再生を申し立てた再生債務者と再生債権者との間において,当初の取引開始時の基本契約書において,仮に,一方当事者が倒産の手続きを申し立てるような事態となった場合には,当事者の関係会社が当該当事者に対して有する債権をもって相殺することができると合意がされていました。
これに基づき相殺することができるとすれば,本来それぞれの債権の当事者が違っているため相殺ができないはずであるのに,再生債務者は本来全額支払いを求められたはずの債権が相殺により消滅してしまい,済生債務者に対して債権を有している関係会社は,本来再生手続きによって債権カットがされてしまうはずの債権を全額回収できるのと同様の利益をれることができてしまうということになります。
高裁の原判決ではこのような相殺も有効であると判断しましたが,最高裁においては,再生債権者間の公平,平等という民事再生法92条1項の趣旨を踏まえると,事前に合意がされていたとしても許されず,本件において再生債権者と関係会社が親会社を完全に同じくする兄弟会社であったとしても許されないと判断しました。