心と体に挟まれた渓谷は美しく
体は毎朝 其処に生きる分の言葉を汲みにくる
水面に映る顔は青白く
素手で掬うことができた言葉など雀の涙に等しく
喉の渇きを渡る幾艘もの言葉が
いったいどれだけ血潮に流れ着いたというのだろう
ああ 海を目指さぬ言葉など信用するものか
孤独の藻屑となった幽霊船が
野良犬の歯並びのように支離滅裂と散らばり
海の裾をくわえている
まるで体はやまびこさ
心に凱旋を果たせず砕け散った言葉の墓場を
君は見たか
生を渇望する命乞いを君は藁をもすがる思いで
訊くことができたか
今宵 わたしは海へと還るため涙と心中する
船を捨て
ひとり 泳ぐため
体は毎朝 生きる分の言葉を汲みにくる
わたしの変死体を素手で引き揚げるように
朽ち果てたとんぼが秒針に止まる。
眠りとは思想を象る剝製なのだと言わんばかりに
翅は弧を描いたまま
触角は薄目を開いたまま
とんぼは一心に静止を営み、時は淡々と葬式を続ける。
明滅する命の月明かりに夜行性の残像が群がり、
旋回を余儀なくされた。
網目状の翅は荒れ地を耕すように空を区画する。
空へと翳した翅が透明な街を編む頃、
積乱雲が軍隊の行進のようにやってきた。
かつて夕陽を背に飛んだとんぼよ。
お前のかわりに今度は僕が雲隠れする街へ漂流してみせよう。
やがては夜のくちばしに啄ばまれ落日する街だ。
血色のよい朝が孵化するまで巣は密林へと隠し、
心よ、暫し夜を演じておくれ。
風におぶさるには宇宙の塵より軽い地図しか持たぬこと。
野生の空を誘き寄せる罠は
偽りの気配さえも追い風にする忘我の狂人に見倣った。
嗚呼、重力と結託した青き狩人が渡り鳥を狩猟する。
僕は撃ち落とされ肉体へと墜落した。
肉体よ
空から千切ってきた太陽の切れ端がお前の分け前だ。
飛べないお前は身が焦げるまで火薬を貪り
走ることが魂の生き証人たるお前の使命だ。
この奇妙なとんぼ返りを地上では我に返るというらしい。
ならば追憶に咲く広大無辺の空こそが
魂の帰路でないと誰がいえよう。
とんぼよ
お前もまた
朧に紛れて
お前の街へ
還るという。
眠りとは思想を象る剝製なのだと言わんばかりに
翅は弧を描いたまま
触角は薄目を開いたまま
とんぼは一心に静止を営み、時は淡々と葬式を続ける。
明滅する命の月明かりに夜行性の残像が群がり、
旋回を余儀なくされた。
網目状の翅は荒れ地を耕すように空を区画する。
空へと翳した翅が透明な街を編む頃、
積乱雲が軍隊の行進のようにやってきた。
かつて夕陽を背に飛んだとんぼよ。
お前のかわりに今度は僕が雲隠れする街へ漂流してみせよう。
やがては夜のくちばしに啄ばまれ落日する街だ。
血色のよい朝が孵化するまで巣は密林へと隠し、
心よ、暫し夜を演じておくれ。
風におぶさるには宇宙の塵より軽い地図しか持たぬこと。
野生の空を誘き寄せる罠は
偽りの気配さえも追い風にする忘我の狂人に見倣った。
嗚呼、重力と結託した青き狩人が渡り鳥を狩猟する。
僕は撃ち落とされ肉体へと墜落した。
肉体よ
空から千切ってきた太陽の切れ端がお前の分け前だ。
飛べないお前は身が焦げるまで火薬を貪り
走ることが魂の生き証人たるお前の使命だ。
この奇妙なとんぼ返りを地上では我に返るというらしい。
ならば追憶に咲く広大無辺の空こそが
魂の帰路でないと誰がいえよう。
とんぼよ
お前もまた
朧に紛れて
お前の街へ
還るという。
着せた言葉を脱ぎ捨てたがるヤドカリは
書物の砂地を這いずり廻る。
手垢に塗れた砂山を寓居にするには肩身が狭く、
言葉を器用に着熟せぬ身体が憎い。
這い疲れたヤドカリは浜辺の白妙に腰掛け、
ふと行間に耳を澄ませば波の音。
ようやく見つけた誂え向きの貝殻さ。
肥沃な余白を耕せば、心根が芋蔓のように絡み合う。
もはや言葉は心の贋作でしかなく、
名画の前では誰もが沈黙に水先を委ねるだろう。
限られた嘘で心を建築しろと言葉は喉元に詰め寄るが、
寡黙を貫こうにも脆弱な心ほど饒舌だ。
瓦礫に棲む言霊に養われ、命を拾われた孤児は、
やがて自ら研いだ言葉で我が身を除霊するという。
眼に見えぬものを退治するために
眼に見えるものを信じるばかりの人生さ。
眼に見えぬものを信じるために
眼に見えるものを疑うばかりの人生さ。
着せた言葉を脱ぎ捨てたがるヤドカリは
今日もせっせと御引っ越し。
くたびれた自由など粋に着崩すまでもなく
すでに年代物の古着と来ている。
群衆は何層にも折り畳まれ、圧縮されたしわとなる。
その僅かにできた空洞に耳を澄ませば
波の音。
書物の砂地を這いずり廻る。
手垢に塗れた砂山を寓居にするには肩身が狭く、
言葉を器用に着熟せぬ身体が憎い。
這い疲れたヤドカリは浜辺の白妙に腰掛け、
ふと行間に耳を澄ませば波の音。
ようやく見つけた誂え向きの貝殻さ。
肥沃な余白を耕せば、心根が芋蔓のように絡み合う。
もはや言葉は心の贋作でしかなく、
名画の前では誰もが沈黙に水先を委ねるだろう。
限られた嘘で心を建築しろと言葉は喉元に詰め寄るが、
寡黙を貫こうにも脆弱な心ほど饒舌だ。
瓦礫に棲む言霊に養われ、命を拾われた孤児は、
やがて自ら研いだ言葉で我が身を除霊するという。
眼に見えぬものを退治するために
眼に見えるものを信じるばかりの人生さ。
眼に見えぬものを信じるために
眼に見えるものを疑うばかりの人生さ。
着せた言葉を脱ぎ捨てたがるヤドカリは
今日もせっせと御引っ越し。
くたびれた自由など粋に着崩すまでもなく
すでに年代物の古着と来ている。
群衆は何層にも折り畳まれ、圧縮されたしわとなる。
その僅かにできた空洞に耳を澄ませば
波の音。