孤独便  -4ページ目

永らく言葉の囚人であったわたしよ

 

今こそ反射神経だけを頼りに

 

心の僻地まで駆けてゆけ

 

 

どうか言葉に追いつかれず

 

どうか言葉を振りほどき

 

どうか言葉の茨を掻き分けて

 

詩人はうたかたの夜が明けるまえ

 

透明な水を汲みにゆく

 

 

門灯の灯りを消さぬまま

 

また帰ってくるつもりなのか

 

手汗で錆びた名前さえ

 

玄関のドアに挿したまま

 

 

 

 

 

 

 

 

反旗をひるがえした青春が

世界中から剥がせるだけの赤を引き連れて

青空よ跪けよと堕落と腐敗を謳う


青と赤に裂かれた命に血はただ沈黙するが

静脈の青にはそれが毒針だ

理性は血の中で無様に溺れてみせた


色彩の戦争で流れでる鮮やかな涙

たとえそれが赤でも青でも緑でも

焼け野原を塗りつぶせる頑丈な色だけが

君の平面的な自画像に立体の階段を架けるだろう


二階建てになった君のアトリエ

夏草が香るころ雀が巣をつくった

かさぶたのように隆起した絵の具塗れのパレットが

顔を洗い忘れる君そっくりだ

君の自画像よりも更に君に似ているものだから

絵筆も雀も頭をかしげている


油絵のように君は君を忘れるまで君を塗り重ねたが

毛穴から溢れでる油と頑丈な涙とによって

素顔を静かに憶い出す日がいつかくるだろう

そんな丸裸にされた日にしかできない決意を

君はするだろう

そんな純白の日にしか見えない色に

君は染まるだろう

そんな日は

か弱き青空を睨む君を疑っと睨めばいい

そんな日にしかできない眼つきと決して目を逸らさずに












虚無を舌先で舐めると塩の味がした

どうやら瞳に宿した紅蓮の焔がついに涙を蒸発させたらしい

怒りはやがて胴体から腐敗し

アンモニアの悪臭を放ちながら錆びた悲しみに分解される

そして永い年月をかけ結晶した岩塩のように

海の化石となったのだ


口に含んだ虚無を舌先で転がすと

唾液が吸い取られ歯茎が乾燥する

舌先の潜熱で焙煎された虚無は潮の薫りをたたえ

次第に溶解してしまう

僕は耐えきれずに口から海を吐き出した



懐かしい海だった

父も

母も

兄も

皆が楽しそうに泳いでいる海だ

浜辺に聳り立つパラソルが

月の地肌に突き刺した国旗のように星の脊椎を傷つけていた



僕は死に色目をつかったのだ

ああ なんて下心だ

生きるために死の色気に獣欲し

奇形な問いを身籠るとは…



やがて海亀の産卵ように大量の問いが

陸へ打ち上げられ

潮風に晒され

命は疑われ


それはまるで僕にしか育てられぬ子のようで

親をも焼きつくす太陽の子のようで


放漫な太陽よ

お前を抱いたおかげで枯渇した海が

地肌を露に砂漠の娼婦となったのだ

子宮の屋根の下に棄てられた幾千もの奇形児が

命を繋ぐためハラワタを漁り血管を奪い合う

こうして望まれない子は復讐しに産まれくる

沈黙を糾弾する圧倒的な問いを手土産に



僕は不思議な子を抱いている

明日こそはコインロッカーに棄てにいこう

明日がだめなら明後日だ


人の道から締め出された夜

僕は徹夜で朝を苦学する

丑満時まで皆と同じ格好をしていたが

僕の規則が似ても非なる朝を浮き彫りに

僕は子を暁光と答え世間から落第したが

不正を働いたのはどっちかと

ああ 子を前にみっともない