朽ち果てたとんぼが秒針に止まる。
眠りとは思想を象る剝製なのだと言わんばかりに
翅は弧を描いたまま
触角は薄目を開いたまま
とんぼは一心に静止を営み、時は淡々と葬式を続ける。
明滅する命の月明かりに夜行性の残像が群がり、
旋回を余儀なくされた。
網目状の翅は荒れ地を耕すように空を区画する。
空へと翳した翅が透明な街を編む頃、
積乱雲が軍隊の行進のようにやってきた。
かつて夕陽を背に飛んだとんぼよ。
お前のかわりに今度は僕が雲隠れする街へ漂流してみせよう。
やがては夜のくちばしに啄ばまれ落日する街だ。
血色のよい朝が孵化するまで巣は密林へと隠し、
心よ、暫し夜を演じておくれ。
風におぶさるには宇宙の塵より軽い地図しか持たぬこと。
野生の空を誘き寄せる罠は
偽りの気配さえも追い風にする忘我の狂人に見倣った。
嗚呼、重力と結託した青き狩人が渡り鳥を狩猟する。
僕は撃ち落とされ肉体へと墜落した。
肉体よ
空から千切ってきた太陽の切れ端がお前の分け前だ。
飛べないお前は身が焦げるまで火薬を貪り
走ることが魂の生き証人たるお前の使命だ。
この奇妙なとんぼ返りを地上では我に返るというらしい。
ならば追憶に咲く広大無辺の空こそが
魂の帰路でないと誰がいえよう。
とんぼよ
お前もまた
朧に紛れて
お前の街へ
還るという。