今日の『テンプレート式 理系の英語論文術 国際ジャーナルに学ぶ 伝わる論文の書き方』、題名からして明確。英語で論文を書くという、英語を専門としない理系研究者ができればサクッと解決したい難題のうち「タイトル」と「アブストラクト」に絞り、研究背景から結果と考察までの流れの各ポイントでテンプレートという形で解決策を提案しています。テンプレートというけれど要は定型表現。これにはめこめば間違い無しで伝わる寸法です。用例も実際に国際ジャーナルに掲載されたものばかりなので信頼性も高いです。
構文についてもアドバイスが豊富。第五文型などの複雑な構文は避け、できるだけSVO(主語―動詞―目的語)までに抑えるのが大事とはちょっと驚きでした。
it is構文やthere is(are)構文は情報が出るのが遅くなるため避けた方が良いというのは、言われてみればその通り。あれっていわば言語の癖ですものねえ。
受動態は避けてできるだけ能動態で、は以前から知っていたのですが(スペイン語だとこの傾向がより強い)、背景と研究内容を説明し終え、研究手法を説明する段階では「行為者が論文の著者であることが自明で強調する必要がないため、weを主語にせずに受動態」(p.153)を用いるとは目から鱗でした。
また、日本語だと多くなりがちな接続詞もなるべく減らして文同士を直接つなげた方が良いそうです。
人工知能(AI)を使った機械翻訳の活用方法についても一章割いています。最近精度が上がってきているとは小島さなえさんのエッセイマンガで知りましたが、本書の例を見るとなるほど、意外とできています。大量の文章を精確に、でも美しさは二の次でも良いよ、な翻訳作業で下ごしらえ的に翻訳させるならAIは実に有用です。パッと見だけの絵を作らせるよりよほど有用な使い方でしょう。
問題なのは、一文ごとに訳すため用語が一貫していなかったり、元の和文がそのままだと英訳に適していないために冗長になったり、ポロっと誤訳していたりといった、実は人の頭で訳すのと大差ないことだったりします。ここでも本書が提案するテンプレートが活躍します。要は人間の側がちょこちょこと修正・調整してやればいいのです。
いずれにせよ重要なのは、何を伝えたいのかをはっきりさせること。より多くの研究者に読んでもらうための“広告塔”たるタイトルとアブストラクトに工夫をしてこそ、自らの知見を広く世に問えるというものです。
さらには、論文の広告塔であるタイトルとアブストラクトを、英語で効果的に作成していく過程で、筆者自身が研究内容を確認できるという利点もあります。英語は曖昧さを許容しない明快な言語です。そのため、タイトルとアブストラクトの作成時には、研究のエッセンス(scope and nature:範囲と性質)を明確化することが必要となります。英語で書く作業を通じて、著者自身が考えを整理したり、明確化したりすることができ、さらには明確化した研究内容を関係者と共有することで、書面によって研究内容を確認できるといった利点もあるのです。(p.13)
英語で書くことを通じて、自身の研究内容をより深く理解できる。こんな相互作用も期待できるとは、テンプレートと並んで何とも魅力的な提案と言えるでしょう。
¿LAS MÁQUINAS SUSTITUIRÁN AL SER HUMANO?
(機械は人間に取って代わるだろうか?)
『テンプレート式 理系の英語論文術 国際ジャーナルに学ぶ 伝わる論文の書き方』
中山裕木子
講談社ブルーバックス
高さ:17.3cm 幅:11.5cm(新書版、カバー参考)
厚さ:1.5cm
重さ:223g
ページ数:318
本文の文字の大きさ:3mm