L STREET 4
3つあるカウンターの端に座ってビールを飲む
知らない曲に身をゆだねていると、ふいに父親の横顔が脳裏に浮かぶ
トミーはビールを一気に飲み干す
枯れた喉に炭酸が痛い
もう一杯、ビールを流し込むが、酔いの気配を感じることができない
どうやら最低な夜みたいだ
曲のブレイクの度に、暗いフロアーから笑い声が聞こえる
香水と大麻の匂い
スネアの破裂音
ガレージの思い出話
いつもなら心地良いのに、今日はダメだ
どうやら最低な夜みたいだ
トミーは俯いて眉間に皺を寄せる
どうやら最低な夜みたいだ
そんな夜に、ふと気づけば彼女がいた
L STREET 5に続く
L STREET 3
L STREETの入り口に車を路駐するのがいつものパターン
オーリーの練習をしている音が、ドラッグストアの駐車場から聞こえる
7,8分位歩いて、あの店に到着
ガレージの廃業により、職を失った整備士の一人がマスター
デカいスピーカーが狭いフロアーに鎮座している
大抵はマスターがDJで、好みの曲を一日中流している
年に数回、マスターと親交のあるバンドが演奏する
トミーがこの店に訪れるのは半年ぶり
太ったベーシストが、パンツ一丁になって客席で暴れていたっけ
マスターと死ぬ程笑ったんだ
地下2階まで、ポケットの小銭をいじりながら階段を降りる
壁にはフライヤーやステージパスがびっしりと貼り付けてある
重厚なドアのノブを押し上げて少しだけドアを開くと、隙間から音が漏れてくる
久しぶりに会うマスターは相変わらずだった。長身に長髪、首のタトゥーが増えたみたいだ
L STREET 4に続く
L STREET2
少し迷ったが、整備士の試験に合格したことを父親に告げた
金勘定をしている手が一瞬止まっただけで、父親は無言だった
クソみたいな横顔が、なんだか哀れに思えた
トミーは、家のドアを静かに閉じた
車に乗り込み、タバコに火をつけた
ゆっくりとアクセルを踏み込む
街灯が細長く残像するまで加速したら、アクセルを緩めてラジオの音量を上げる
スピーカーから古いヒットソングが流れている
パンクバンドのボーカルが、社会問題や労働について叫んでいる
理由もなく笑いがこみ上げてきて、トミーはそのヒットソングを大声で歌った
次の曲も、またその次の曲も、トミーの知っている曲が流れたので、喉が枯れるまで歌った
その日を境に、トミーは父親と会話をしていない