頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ― -16ページ目

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

  ― 小さな穴の静かな光

今日の看板は、蓮根の落とし揚げだ。

丸く、穴が空いて、油で光る。

「揚げ物って…主役になれるんですか?」

クゥーは鍋を覗く。


 ロクは無言で鍋を揺らす。

穴から光が透けた。


「穴を生かせば、揚げ物も主役になる」

その一言だけで、クゥーは考え込む。

主役って…揚げ物でも?

穴で決まるのか、光で決まるのか、油で決まるのか。


クゥーは小さくうなずく。


仕込み中、薄切り蓮根を酢水に漬ける。


「クゥー、その厚み…意図は?」

「シャキシャキを残したいんです」


軽く茹でて、ポン酢とゴマで和えるだけ。

少し砂糖を足すと、子どもでも食べやすい。

家庭でもできる簡単小鉢の完成。


買い出しでは、小さな事件。

スーパーで蓮根がラスト1本。

後ろの主婦と目が合った。

戦闘は回避。蓮根、確保。


余った端の蓮根で、小さな味噌和えを作る。

刻んで味噌と混ぜるだけ。名前はまだない。


「新メニューです」

「言い張るな」


揚げるときに、ひとつだけ焦げた。

奇跡的に、味は香ばしく、当たり。

常連が一口食べて、目を丸くした。

「これ、何?」

「…余り物です」

「余り物でこの味か」


無茶ぶりも、意外と笑いに変わる。


揚げ物は火加減が命。

焦がさない、油を飛ばさない。

ちょっとした手加減で、天国にも地獄にもなる。


クゥーは今日も、だいたい成功した。

ロクは無愛想に食べた。

たまに奇跡、たまに焦げ。

それでいい。


暖簾が出る。

揚げ物も、揚げ物以上になる。

…来たら、この瞬間を味わってみてください。


今日も、営業中。


次回

少しだけ、硬かった。


看板は白飯だ。

地味だが、逃げ場がない。

「主役ですか」

「逃げるな」

ロクが炊飯器を開ける前から言う。

米は正直だ。

水と時間と扱い方が、そのまま出る。

「早炊きでいきます」

「却下」

ボタンを押す指を止められた。

「便利は最後に使え」

「最初じゃないんですか」

「最初に使うと、それしかできなくなる」

よく分からないが、戻した。

研ぎは三回。

混ぜすぎない。

白くしすぎない。

「SNSだと透明になるまでやってました」

「それは映像用だ」

包丁より切れ味のあるツッコミだった。

炊き上がりまで四十分。

買い出しのレシートを整理する。

先月より、遥かに全部高い。

「米、また上がりますかね」

「もう上がってる」

「心が追いつきません」

「先に働け」

炊き上がり。

ふたを開ける。

湯気が立つ。

甘い匂いが、少しだけ先に来る。

「すぐ混ぜるな」

「え」

「三十秒待て。蒸気を落ち着かせる」

ちょっとだけ役に立つコツだった。

底から返す。

切るようにほぐす。

押さない。

撫でない。

信じる。

だいたい成功した。

余った端のご飯で、まかないを作る。

卵と醤油とバター。

名前はまだない。

「新メニューです」

「言い張るな」

ロクは無愛想に食べる。

二口目が早い。

これは、たぶん当たりだ。

常連が顔を出す。

「白飯だけってできる?」

「できます」

「最高のおかずで」

無茶ぶりだった。

塩を出した。

真顔でうなずかれた。

今日の甘味はなし。

それでも、腹は減る。

暖簾が出る。

白い粒が、静かに光を返している。

主役かどうかは、誰も決めていない。

ただ、減っていくだけだ。

今日も、営業中。

【本日の注意書き】
・話はだいたい本当、たまに玉子くらい静かに盛る
・焼きすぎると、だしが少しだけ拗ねます
・午後はだいたい、理由もなく静かです

次回


今日は、少しだけ遅れている。


暖簾をくぐると、ロクが鍋の火を少しだけ弱めた。


「お、来ましたね」


そう言ったきり、こちらを振り返らない。


鍋の中の湯気を見ている方が、ロクにとっては大事らしい。


朝一番の仕事は、火をつけることだ。


寸胴の中で、今日のスープがゆっくり目を覚ます。


 来る途中で、腹減ってたやつもいるだろ。



ロクが鍋を見たまま言った。


「味見します!」


「まだ早い」


ひと口すすって、少しむせた。


覚えたはずなんですけどね。


ネギは山盛り。厚みは自由。


ロクは何も言わず、半分だけよけた。


吊るしたチャーシューが、ゆっくり回っている。


見ているだけで、少しだけ気持ちが落ち着くんですよね。


カウンターの端では、クゥーが何かを混ぜている。


今日何を作っているのか、本人も半分くらい分かっていない顔をしている。


まあ、いつものことだ。


暖簾が揺れる。


最初の一杯が、静かに出ていく。


ここに来ると、だいたい何かが煮えている。


そしてだいたい、クゥーが少しだけ失敗している。


それくらいが、ちょうどいい。


今日も、営業中。



【本日の注意書き】

・営業日はだいたい気分です(開いてたらラッキー)

・味見はタイミング命です(早いと怒られます)

・ネギは自由ですが、ロクが少しだけ戻します


――次回

2皿目:「少しだけ硬かった日 ― 銀シャリ」



         ― はじまりの匂い

古い暖簾は、今日も少しだけ曲がっている。
まっすぐ直しても、また曲がる。
どうして曲がるのかは、もう誰も気にしていない。
……まあ、気づいたら笑ってください。

店の奥では、鍋がことこと鳴っている。

火の音は大きくしない。
聞こえるか聞こえないかの、ちょうどいい場所に置いてある。

入口近くには椅子がひとつ、またひとつ。

座る人が来た順に、静かに埋まっていく。

ここは、料理を自慢する店ではないかもしれない。

それでも、湯気はちゃんと届くようにしている。
匂いで、少しだけお腹が鳴るくらいがいいと思っている。

うまくいく日もある。
同じだけ、うまくいかない日もある。

それでも火は落とさない。

今日も、ちゃんとやってます。

厨房の奥から、包丁がまな板を軽く叩く音がする。

今日も、何かを切っている。
野菜かもしれないし、時間かもしれない。

暖簾は少しだけ曲がったまま。

直そうとすると、また同じ角度に戻る。

まあ、うちはこんなもんです。

お腹も心も、また明日で。

――扉の向こうでは、クゥーが何かを運んでいる。

今日のまかないになるのか、
それとも明日の看板になるのかは、まだ分からない。

ただ、湯気だけが、ゆっくり厨房から流れてきた。

本日も、営業中。
次回


今日はロックの日‼︎   ᕦ(ò_óˇ)ᕤ

オーナーのロクです。

そしてなんと!私の誕生日だ‼︎

偶然にも昨日は息子、今日は私。

当然のごとくお祝いは息子中心。 

私はそっちのけです。

まぁいいんですけどね。

もう45歳ですから!!

(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎