66皿目:うなぎとスイカ、夏の相性 ― うなぎのあとに、スイカ | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―
去年の、暑い夕方。
昼間の熱が、まだ道路に残っている。
暖簾が風に揺れる。
「そういや、土用の丑の日だったらしいけど……」
暖簾をくぐった客が、席につきながら笑った。
「うなぎ、食べ損ねたよ」
その言葉に、クゥーが振り向く。
「じゃあ、夏が終わる前に食べればいいじゃないですか!」
ロクは何も言わず、冷蔵庫からうなぎを取り出した。
炭に火が入る。
じゅう。
脂が落ちる。
甘いたれの香りが、店いっぱいに広がった。
そこへ――
クゥーが冷蔵庫から何かを抱えてくる。
「これも夏ですよね?」
ロクが見る。
赤い果肉。
黒い種。
「……まさか」
クゥーは笑った。
「うなぎの後に、スイカです!」
ロクは小さく息を吐く。
「また始まった」
⸻
クゥーは黒板を持ってきた。
『夏の食べ合わせ研究』
「うなぎと梅干しはダメって聞いたことがあります!」
「じゃあ、うなぎとスイカは?」
「夏同士だから、相性いいんじゃないですか?」
ロクは焼き台から離れず、
「食べ合わせっていうのは、仲が悪いって意味じゃない」
クゥーが首をかしげる。
「じゃあ、何ですか?」
ロクは焼き上がったうなぎを皿に乗せた。
「昔の人の知恵だ」
それだけ言って、皿を客の前へ滑らせる。
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客はうなぎを口に運ぶ。
香ばしい皮。
ふっくらした身。
甘いたれの余韻。
そして――
冷えたスイカ。
シャリッ。
口の中に、夏の甘さが広がる。
客は少し笑った。
「……夏だな」
クゥーが胸を張る。
「ほら! うなぎとスイカ、仲良しです!」
ロクは空いた皿を引きながら、
「最初からケンカしてない」
クゥーは少し考えた。
「じゃあ、次は何と何を仲直りさせましょう?」
ロクの手が止まる。
包丁を握り直して、
「……厨房で実験するな」
夕暮れの店に、笑い声が残った。
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【今日の注意書き】
・食べ合わせ研究は、ほどほどに。
・夏の味は、楽しく食べましょう。

