第61皿目 「箸に伝わる、確かな手応え」 ― 芯まで巻いたロールキャベツ | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

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町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。



夕方の光が、古い窓からやわらかく差し込んでいた。

カウンターの端で、ひとりの客が両手を見つめている。

新しい仕事が始まってから数ヶ月。

毎日忙しく過ぎていくのに、自分が何かを積み上げている実感だけが、どこか遠かった。

「お待たせしました。」

静かに置かれた深皿から、湯気が立ちのぼる。

黄金色のスープの中に、大きなロールキャベツがひとつ。

柔らかそうに見える葉は艶やかに光り、じっくりと火を通された気配をまとっていた。

客は箸を伸ばした。

そっと箸先を押し当てる。

柔らかそうに見えたその姿は、思ったよりも簡単には崩れなかった。

箸先に、小さな抵抗が返ってくる。

くたくたに見えた葉の奥に、幾重にも重なった層が隠れていた。

客は少しだけ力を込める。

一枚。

また一枚。

キャベツの繊維がほどける感触が、箸を通して指先へ伝わる。

やがて断面が開いた。

閉じ込められていた肉汁がじわりと溢れ出し、黄金色のスープに小さな輪を描く。

客は断面を見つめた。

幾重にも重なった葉が、静かに湯気を吐いている。

一枚。

また一枚。

その奥に、肉の旨味が抱かれていた。

派手さはない。

けれど、そこには確かに時間がいた。

切り分けたひとくちを口へ運ぶ。

出汁の旨味。

肉のコク。

ほどけるキャベツの甘み。

静かな味だった。

しばらく箸は止まらなかった。



巻ききれなかったキャベツの重ね焼き

「ロクさんは綺麗に巻くんですけど、私は途中でだいたい崩れます!」

クゥーが運んできたのは、丸く巻かれていないロールキャベツだった。

ロールキャベツを作る途中で余った葉。

少し破れた葉。

巻ききれなかった具。

それらを順番に重ねて、小さな耐熱皿で焼き上げたらしい。

「巻けないなら積めばいいんですよ!」

表面にはこんがり焼けたチーズ。

スプーンを入れると、キャベツと肉の層が現れる。

見た目は不格好。

けれど一口ごとに旨味が重なっていた。

「人生もだいたいこんな感じです!」

クゥーは胸を張る。

ロクは鍋の向こうで小さくため息をついた。


店の中では、鍋の小さな音だけが続いている。

やがて皿は空になった。

底に残ったスープから、まだ少しだけ湯気が立っている。

客は箸を置き、そっと両手を見つめた。

来たときよりも、少しだけ力が戻っている気がした。

窓の外では、夕方の光がゆっくりと傾いている。

ロクは何も言わない。

ただ、次の鍋の火加減を見ていた。


【本日の注意書き】

・ロールキャベツは見た目以上に熱いので油断しないこと

・断面を眺めすぎるとスープが冷めます

・積み重ねは、だいたい後から見えてきます

「ゆっくりで、ちょうどいい。」