夕方の食堂に、いつもより少し低く、ゴツゴツとした油の音が響いていた。
カウンターの端のいつもの席から見える厨房では、ロクが黙々と鍋を見つめている。
湯気の向こうで、油が静かに歌っていた。
ロクが差し出したのは、いつになく無骨で、驚くほど分厚いカツだった。
飾り気のない平皿の上で、黄金色の衣が微かに震えている。
「考えすぎるな。まずは噛め。」
箸で持ち上げると、ずっしりと重い。
口に運び、前歯を立てた瞬間。
ザクッ。
その音は、頭の奥まで真っ直ぐ届いた。
厚い肉が歯を押し返す。
肉汁がゆっくりと滲み出す。
二噛み。
三噛み。
旨味がほどける。
ソースの味ではない。
肉と衣が刻むリズムだった。
ザクッ。
モグ。
ザクッ。
モグ。
気づけば、さっきまで頭の中にいた考え事が少し遠くなっていた。
ロクは何も言わない。
ただ、湯気の向こうで次のカツを揚げていた。
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新ジャガとカツの「ザクザク」おから衣団子
「ロクさんが直球なら、私は変化球で前進です!可能性、丸めました!」
クゥーが運んできたのは、拳ほどもある揚げ物だった。
カツの端切れと蒸した新ジャガ。
それを丸めて、粗めのおからをまとわせて揚げたらしい。
「このザクザク感、脳みそに響きますよ!」
勢いよく齧る。
ガリッ。
思った以上に豪快な音がした。
香ばしいおから。
ほくほくのジャガイモ。
時々顔を出す豚肉の旨味。
少し口の中の水分を持っていく。
その不器用さまで、妙に前向きだった。
「成功率、七割!」
クゥーは胸を張る。
残り三割は、たぶん勢いだ。
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すり鉢の音と、クゥーの悩み
「……でね、ロクさん。」
珍しくクゥーが眉をひそめていた。
手元ではゴマをする音が止まっている。
「次のブログ、どうしようかなって考えてたら、全然まとまらなくて。」
ロクは黙ってすりこ木を受け取った。
そして。
ゴリゴリ。
ゴリゴリ。
一定のリズムでゴマをすり始める。
店の中には、その音だけが静かに響いた。
「手が止まってる。」
ロクが言う。
「え?」
「だから考えが渋滞する。」
ゴリゴリ。
ゴリゴリ。
やがてゴマの香りがふわりと立ち上がった。
「あ。」
クゥーの顔が少し緩む。
「なんか、お腹空いてきました。」
ロクは少しだけはにかみ、すり鉢を突き返した。
⸻
閉店後。
油の匂いが少しだけ残る夜道を歩く。
ザク。
もう一歩。
ザク。
夜道に音が響く。
答えはまだ見つからない。
けれど。
足は止まっていなかった。
夜風が少しだけ気持ちよかった。
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【本日の注意書き】
・カツの音に集中しすぎて上顎を火傷しないこと
・クゥーのおから団子はお茶と一緒を推奨します
・悩んだら、とりあえずキャベツをおかわりしてください
「ゆっくりで、ちょうどいい。」