夕方にはまだ少し早い時間。
店の中は、静かすぎるくらい静かだった。
カウンターの端。
いつもの席に、見慣れない封筒がひとつ置かれている。
角が、少しだけ折れていた。
クゥーが皿を運ぶ。
赤いあんが、光を拾ってゆっくり揺れる。
先に、匂いが届く。
少しだけ、鼻にくる。
「すっぱいの、大丈夫?」
客は一瞬だけ間を置いて、うなずいた。
箸が伸びる。
ひと口。
ほんの少し、顔が止まる。
それから、ゆっくり噛む。
もう一口。
さっきより迷いがない。
赤いあんが、野菜と肉にまとわりつく。
甘さのあとに、少し遅れてくる酸。
気づけば、箸が続いている。
テーブルの上の封筒に、手が伸びる。
今度は、止まらない。
紙の音が、小さく鳴る。
ロクは火を見たまま、何も言わない。
皿が空に近づいた頃、
客は一度だけ息を吐いた。
来たときより、少しだけ軽い。
ロクが火を落とす。
「……まあ、うちはこんなもんです。お腹も心も、また明日で。」
今日の注意書き
・冷めないのは、あんだけとは限りません
・考えごとは、一口目ではほどけません
・酸っぱい顔をしていても、だいたい途中から箸が止まりません