52皿目 「母の日のおもいで献立表」 | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

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町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。




夕方の湯気が、静かに店の窓を曇らせる。


ロクは少し曲がった背中のまま、慣れない筆を持っていた。


油の匂いがまだ残る厨房の隅。


古びた木机の上には、一枚の厚紙。


「字が下手でも、気持ちは入るだろ」


そう呟きながら、ロクはゆっくり“思い出お品書き”を書き始める。


母の日限定  

― おもいで献立表 ―  


一、先付

「ごろっとじゃがいもとウィンナーのスパニッシュオムレツ」


昔、忙しい朝に母ちゃんがよく作ってくれた。
少し焦げた端っこを取り合った記憶まで、ちゃんと味になってる。

「最初の一口は、懐かしい台所の匂いから。」


二、主菜

「オンボロ食堂仕込み・山盛り唐揚げ」


揚げる音だけで、なんだか家が明るくなる料理。
今日は揚げたてを、ゆっくり食べてもらいたい。

「今日は台所、休んでてください。」

横でクゥーがつまみ食いしようとして、ロクに軽く頭を小突かれている。


三、飯物

「季節の炊き込みご飯」


湯気の向こうに、いつもの食卓が見える。
特別じゃない日を、ずっと支えてくれた味。

「変わらない毎日に、ありがとう。」

ロクはそこだけ少し書き直した。
墨がにじんでいた。


四、甘味

「なめらか手作りプリン」


最後は、ちゃんと甘いものを。
少し固めで、昔ながら。


クゥーが端っこに小さく描いたカーネーションと、
ちょっと似てない母ちゃんの似顔絵。

横には震えた字で、

『いつもありがと』

とだけ書いてある。


店の外では、夕方の風が暖簾を揺らしている。

ロクは品書きを見つめたまま、少し照れくさそうに鼻を掻いた。


「……まあ、うちはこんなもんです。


お腹も心も、また明日で。」