番外編 2: エイプリルフールの魔法?「おんぼろ食堂」の異変と謎の新メニュー | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

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町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。



カウンターの端、いつもの席に座る。
夕方の光が、少しだけ傾いている。

油の音が聞こえる。
……いつもより、少しだけ軽い気がした。

湯気の上がり方も、悪くない。
それでも、何かが引っかかる。

「ハイさーい!みんな元気!?」

顔を上げる。

ロクが、やけに明るい。

「今日はね、最高にハッピーな告知があるよ!おんぼろ食堂、ついに革命です!」

……いや、誰だそれは。

視線を横にやると、クゥーが腕を組んでいる。
いつもの笑顔はない。

「……フン。浮かれるな。料理は哲学だ。」

低い。
やけに重い。

……逆だろ。

ロクはそんな空気も気にせず、胸を張った。

「エイプリルフール限定!度肝を抜く新メニュー、いきます!」

・宇宙重力コロッケ定食
・飲むアジフライ(ストロー付き)
・概念だけの味噌汁
・やたら手間だけかかる普通のコロッケ定食
・二度と同じ味にならない日替わり定食




「どう!?ワクワクしてきたでしょ!?」

「……理屈は通っている」

クゥーが静かに言う。

「気に入らんがな」

通ってるのか、それ。

それでも厨房は動き出す。
油が静かに鳴き、湯気が立ちのぼる。

ふと、クゥーの手が止まる。

「……火加減は嘘をつかない」

その一言だけは、いつもと同じだった。

ロクも、いつの間にか無駄のない動きでフライヤーに向き合っている。
騒がしさの奥に、ちゃんと“いつもの店”がある。

しばらくして——

店の奥の時計が、正午を回った。

その瞬間。

「……ふぅ」

二人同時に、ため息をついた。

ロクが肩を落とす。

「……疲れた。クゥ、あんなに喋るのは体に毒だぞ」

クゥーも腕をぶらぶらさせながら笑う。

「僕だって、あんなに難しい顔して黙ってるの、肩が凝っちゃいましたよ!」

一瞬の静けさ。

それから、いつもの空気が戻る。

「……まあ」

ロクが、少しだけはにかみながら言う。

「エイプリルフール、ですから」

クゥーがくすっと笑う。

「新メニューは……残念ながら、幻ですけどね」




湯気の向こうで、いつもの一皿が出来上がる。

「今日も、ちゃんと作ってますよ」

カウンター越しに差し出されたそれは、
結局、見慣れた味がしそうで。

ふと、端に目をやると——
小さな瓶が、ふたつ並んでいた。

ラベルは少し歪んでいて、
読めるような、読めないような文字。

光を拾って、ほんの少しだけ、きらつく。

——ああ、なるほど。

——少しだけ。
塩加減が、迷っていた気がした。

おんぼろ食堂は、今日も静かに営業中です。

・本日は気まぐれで性格が入れ替わる場合があります
・理屈が合っていても美味しいとは限りません
・違和感は仕様です(気づいた人から、いつもの席へ)