37皿目 夜の仕込み ― ……最後の一摘み ― | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。


        ―最後の一摘み ―

閉店間際。  
ひとりの客がカウンターに紙袋を置いた。

中には乾燥椎茸と、  
飲み残しの安い赤ワイン。

「ロクさん、これで何か肴作ってくれ」

俺は袋をのぞきこんで鼻で笑った。

「……また随分と渋い組み合わせだな」

椎茸をワインで戻す。  
ゆっくり水分を吸って、  
干からびた傘が少しずつ膨らんでいく。

戻った椎茸を厚めに切って、  
ラードで表面を焼く。

じゅっ、と油が鳴った。

戻し汁とワインを鍋に入れて、  
少しだけ煮詰める。

醤油をほんの一滴。

椎茸に絡めて皿に置いた。




「……ほらよ」


客は黙って一口食べた。

少しだけ笑って、  
静かに店を出ていった。

換気扇を止めると、  
厨房は急に静かになる。

鍋を洗って、  
火を落として、  
最後に戸を閉める。

外に出ると、  
夜風がまだ少し冷たい。

土手のほうへ歩くと、  
枯れ草の間に小さな影が見えた。



つくしだ。

しゃがみこんで、  
泥を払って摘み取る。

「……出てたか」

ポケットに入れて店へ戻る。

明日の味噌汁にでも入れてやれば、  
ちょうどいい。


―― 今日の注意書き ――

※ 火傷に注意。椎茸は油をよく吸います。  
※ 戻し汁は捨てないでください。旨味はそこにあります。  
※ 春の味は急がないこと。土の匂いごと味わうのがコツです。