夕方の光が、カウンターの木目をゆっくりなぞっていた。
鍋の湯気が、店の古い窓にふわっと触れて消える。
クゥーが奥から顔を出す。
「ロクー、今日はね、すごいの作った!」
ロクはフライヤーの前で腕を組んだまま、ちらっと見る。
「……また変なのか。」
クゥーは胸を張る。
「おにぎり!」
沈黙。
「……普通だな。」
クゥーは慌てて続ける。
「でもね!ただのおにぎりじゃないよ!
ロクが昨日言ってたやつ!」
「……?」
クゥーは得意げに言う。
「『腹減ったときの米が一番うまい』ってやつ!」
ロクは一瞬だけ止まる。
そして、小さく笑う。
「……言ったな、そんなこと。」
クゥーは皿に三角のおにぎりを置く。
少しだけ形がいびつ。
その横に、湯気の立つ味噌汁。
小皿には、ぽりぽり音がしそうな香の物。
📷 今日のまかない
・おにぎり
・味噌汁
・香の物
ロクがそれを見る。
「……ずいぶん揃えたな。」
クゥーは得意げ。
「おにぎりはね、仲間がいると強いの!」
ロクは一つ持ち上げて重さを確かめる。
「……重いな。」
クゥーは目を輝かせる。
「でしょ!」
ロクが一口かじる。
中から出てきたのは──
からあげ。
沈黙。
クゥーはドヤ顔。
「からあげおにぎり!」
ロクは静かに噛みしめる。
「……米と油か。」
クゥーはうなずく。
「最高の組み合わせ!」
ロクはもう一口食べる。
そして味噌汁を一口。
湯気が少しだけ、顔に当たる。
ロクはぽつりと言う。
「……悪くない。」
クゥーは飛び跳ねる。
「でしょでしょ!」
ロクは香の物をつまむ。
「ただし。」
クゥーが固まる。
ロクは静かに言う。
「腹減ってるとき限定だな。」
クゥーは笑う。
「じゃあ大丈夫!」
ロクが聞く。
「なんでだ。」
クゥーは胸を張る。
「ここ来る人、だいたい腹減ってるもん。」
ロクは少しだけ笑った。
店の外、夕方の風がのれんを揺らす。
湯気の向こうで、味噌の香りがふわっと広がる。
おにぎりは、
まだ少し温かかった。
ロクはたまに、こういうことを言う。
料理のことなのか、人生のことなのか、よくわからないやつを。
今日の注意書き
・おにぎりは少しいびつです(握ったのはクゥーです)
・中身はからあげです(ロクはまだ知りません)
・腹が減ってる人限定です(たぶん一番うまい)
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32皿目:にんじんの葉の白和え ― 苦味は、根性の証拠
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