夕方より、もう少し遅い時間。
鍋の中で、
こと、こと。
ぐつぐつではない。
跳ねない音。
豆腐は煮ない。
温める。
強くすると、崩れる。
湯は沸かさない。
揺らすだけ。
昆布は朝から沈んでいる。
だしは前に出ない。
「火は当てるな。置け。」
ロクが言う。
湯気は軽い。
黒のあとに、白。
どて煮の余韻を、
ほどく役目。
薬味は増やさない。
ねぎと、少しの生姜。
しょうゆは、落とす。
かけない。
豆腐は、
待てる人の皿。
箸を入れると、
すっと割れる。
崩れない。
ほどける。
閉店後。
鍋の湯を流すと、
今日の音が消える。
でも、
火は消えていない。
ロクが最後に言う。
「ゆっくりで、ちょうどいい。」
今日は注意書き
豆腐は急ぎません(追いかけないでください)
・ぐつぐつは禁止です(豆腐が驚きます)
・しょうゆは落としてください(かけすぎ注意)
・熱いのは白いほうです(見た目に騙されません)
・クレームは湯気と一緒に流します(鍋が聞きます)
次回 30皿目
バームクーヘン
― 重ねた時間は、甘い
