26皿目 ちらし寿司の、雨宿り」 | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

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町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

― 雨は祭らない ―

引き戸を細かく叩く雨。

今日は、ひな祭り。


ちらし寿司。


酢を立たせない。

色を遊ばせない。


皿の上で、

そっと雨宿りするくらいがちょうどいい。


桶からよそったばかりのちらし寿司。


桜色の器に、

曇り空みたいな錦糸卵。


海老は、端に。


隣には、

白を少し立たせたほうれん草の白和え。


湯気のやわらいだ味噌汁。


黒糖寒天には、

金粉をひとかけ。


色はある。


騒がない。


厨房の光は、深い。


ロクは寿司桶の蓋を外す。


湯気は出ない。

酢飯は、まだ少し温かい。


「雨ですね。」


クゥー。


頷かず、

底から返す。


水気が多い日は、強く混ぜない。


酢は、静かに染みればいい。


「今日は、静かですね。」


「いつもです。」


それだけ。


雨の日の祭りは、

声を出さなくていい。


ひなあられは、袋のまま。


「湿気ますよ。」


「湿っても、甘いです。」


祭りでも、

雨は祭らない。


黒糖寒天は、少し固め。


金粉は、一片。


光は、多くいらない。


「梅、散りますかね。」


「見なくても、咲いてます。」


話は、終わる。


今日の注意書き。


・雨の日のちらし寿司は、少し重たいです

・雛あられは湿気ても怒りません

・酢は騒がせません

・祭りでも、静かに営業しています


引き戸の向こうで、雨がやわらぐ。


ちらし寿司は騒がない。


腹が満ちる音だけが、

雨に混ざって、ゆっくり消える。