15皿目 からし菜とツナとじゃがいものサラダ | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

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町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。


              〜三人でつくる一皿〜

こんにちは。
夕方の光が、斜めに店内へ差し込む。

静かだ。
大人の隠れ家……のはずが。

「今日は王道でいこう!」

クゥーが、珍しくまともなことを言った。

ロクは無言でじゃがいもを洗う。
私はカウンターで、メモを取る係。

本日のおすすめは、
からし菜とツナとじゃがいものサラダだ。




「サラダは温度管理だ」

ロクがぼそり。

じゃがいもは温かいうちに下味。
塩と、ほんの少しの酢。

からし菜は塩もみして、水分をしっかり絞る。
ツナは油を徹底的に切る。

無駄なし。
味もぶれない。

からし菜はアブラナ科の葉野菜。
辛味は、最初から強いわけじゃない。

揉む。刻む。壊れる細胞。
シニグリンが反応して、あの「ツン」とした辛味が立ち上がる。

触れば触るほど、目を覚ます辛さ。

今日はその“起きたての辛味”を、アクセントにする。

「マヨ+粒マスタード+ちょっと砂糖、どう?」

ちょっと、とは。

混ぜすぎるなと言われつつ、しっかり混ぜるクゥー。
でも今日は、奇跡的にちょうどいい。

ツナのコク。
じゃがいもの甘み。
からし菜のピリッ。

最後にロクが黒胡椒をひと振り。

ポッ。

急に“大人のサラダ”になる。

今日の敵は、水分だ。

じゃがいもの余熱。
からし菜の水気。
ツナの残り油。

ここを制すれば、味が締まる。
ぼやけない。逃げない。




作り方はシンプル。

じゃがいも2個を茹で、温かいうちに潰す。
塩と酢を先に混ぜる。
水気を絞ったからし菜を加える。
油を切ったツナを混ぜる。
マヨ大さじ2、粒マスタード小さじ1で和える。
仕上げに黒胡椒。

酸味は先に。
水分は残さない。
混ぜすぎない。

閉店後。

残ったサラダをクラッカーにのせて食べる。

派手じゃない。
でも、ちゃんと満足する味。

ロクは言う。

「主役はじゃがいもだ」

クゥーは言う。

「でもツナがまとめてる!」

私は思う。

三人で一皿、みたいだな、と。

じゃがいもが土台で、
ツナがつなぎで、
からし菜が少し刺激をくれる。

誰かひとりが欠けたら、味は変わる。

今夜の一品に迷ったら、思い出してほしい。

マヨは増えがち。
水分は敵。
クゥーが控えめな日は、だいたい成功する(奇跡)。

サラダは、引き算の料理だ。

そしてたぶん、関係も同じだ。
次回
第16話 玉子サンド ― 静かな厨房の午後