夕方の光が、斜めに店内へ差し込む。
静かだ。
大人の隠れ家……のはずが。
「これ、まだ使えるでしょ!」
クゥーが、袋を掲げる。
ロクは無言でじゃがいもを洗う。
私はカウンターで、メモを取る係。
「それ、残り物ですよね?」
クゥーは笑う。
「だからいいんだよ」
本日のおすすめは、
からし菜とツナとじゃがいものサラダだ。
腹が減ったら、ふらっとでいい。
「サラダは温度管理だ」
ロクがぼそり。
じゃがいもは温かいうちに下味。
塩と、ほんの少しの酢。
からし菜は塩もみして、水分をしっかり絞る。
ツナは油を切る。
無駄なし。
味もぶれない。
「……余り物ほど、差が出る」
からし菜は、触れば触るほど辛さが立つ。
揉む。刻む。
“ツン”とした刺激が、あとから来る。
今日はその“起きたて”を使う。
「マヨ+粒マスタード+ちょっと砂糖、どう?」
ちょっと、とは。
混ぜすぎるなと言われつつ、しっかり混ぜるクゥー。
でも今日は、ちょうどいい。
ツナのコク。
じゃがいもの甘み。
からし菜のピリッ。
ロクが黒胡椒をひと振り。
ポッ。
少しだけ、大人になる。
今日の敵は、水分だ。
じゃがいもの余熱。
からし菜の水気。
ツナの残り油。
ここを外すと、全部ぼやける。
作り方はシンプル。
じゃがいもを茹でて潰す。
塩と酢を先に混ぜる。
水気を絞ったからし菜。
油を切ったツナ。
マヨと粒マスタードで和える。
仕上げに黒胡椒。
混ぜすぎない。
残しすぎない。
閉店後。
残ったサラダをクラッカーにのせる。
派手じゃない。
でも、ちゃんと満足する味。
ロクが言う。
「主役はじゃがいもだ」
クゥーが言う。
「でもツナがまとめてる!」
私は思う。
三人で一皿、みたいだな、と。
サラダは、引き算の料理だ。
ロクは、最後にひと口だけ食べる。
「……まあ、こんなもんだ」
お腹も心も、また明日で。
【本日の注意書き】
・余り物はだいたい主役候補です
・水分は気づくと敵になります
・クゥーがひらめく日は、だいたい成功します
次回

