〜三人でつくる一皿〜
こんにちは。
夕方の光が、斜めに店内へ差し込む。
静かだ。
大人の隠れ家……のはずが。
「今日は王道でいこう!」
クゥーが、珍しくまともなことを言った。
ロクは無言でじゃがいもを洗う。
私はカウンターで、メモを取る係。
本日のおすすめは、
からし菜とツナとじゃがいものサラダだ。
「サラダは温度管理だ」
ロクがぼそり。
じゃがいもは温かいうちに下味。
塩と、ほんの少しの酢。
からし菜は塩もみして、水分をしっかり絞る。
ツナは油を徹底的に切る。
無駄なし。
味もぶれない。
からし菜はアブラナ科の葉野菜。
辛味は、最初から強いわけじゃない。
揉む。刻む。壊れる細胞。
シニグリンが反応して、あの「ツン」とした辛味が立ち上がる。
触れば触るほど、目を覚ます辛さ。
今日はその“起きたての辛味”を、アクセントにする。
「マヨ+粒マスタード+ちょっと砂糖、どう?」
ちょっと、とは。
混ぜすぎるなと言われつつ、しっかり混ぜるクゥー。
でも今日は、奇跡的にちょうどいい。
ツナのコク。
じゃがいもの甘み。
からし菜のピリッ。
最後にロクが黒胡椒をひと振り。
ポッ。
急に“大人のサラダ”になる。
今日の敵は、水分だ。
じゃがいもの余熱。
からし菜の水気。
ツナの残り油。
ここを制すれば、味が締まる。
ぼやけない。逃げない。
作り方はシンプル。
じゃがいも2個を茹で、温かいうちに潰す。
塩と酢を先に混ぜる。
水気を絞ったからし菜を加える。
油を切ったツナを混ぜる。
マヨ大さじ2、粒マスタード小さじ1で和える。
仕上げに黒胡椒。
酸味は先に。
水分は残さない。
混ぜすぎない。
閉店後。
残ったサラダをクラッカーにのせて食べる。
派手じゃない。
でも、ちゃんと満足する味。
ロクは言う。
「主役はじゃがいもだ」
クゥーは言う。
「でもツナがまとめてる!」
私は思う。
三人で一皿、みたいだな、と。
じゃがいもが土台で、
ツナがつなぎで、
からし菜が少し刺激をくれる。
誰かひとりが欠けたら、味は変わる。
今夜の一品に迷ったら、思い出してほしい。
マヨは増えがち。
水分は敵。
クゥーが控えめな日は、だいたい成功する(奇跡)。
サラダは、引き算の料理だ。
そしてたぶん、関係も同じだ。
次回
第16話 玉子サンド ― 静かな厨房の午後

