16皿目 「少しだけ、冷めている ― 玉子サンド」 | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

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町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

  「少しだけ、冷めている。」

ふんわりやさしい玉子は、今日も厨房の静かな主役。

昼下がりの厨房は、驚くほど静かだった。

鍋の音も、油の跳ねる声もない。

窓から差し込む光だけが、作業台の上をゆっくりと流れている。

ロクは、無言のまま玉子を割った。

ボウルに落ちた卵黄は、壊れ物のように静かに揺れた。

「これ、普通の玉子サンド?」

背後から常連の声がした。

振り向かずに、ロクは答えた。

「……厚焼きの方が好きだな」

「だしがしっかりきいた、ふんわりしたやつだ。」


ロクはそれ以上何も聞かなかった。

卵液に、だしを多めに注ぐ。

昆布と鰹の香りが、ゆっくりと空気に溶けていく。

焼き加減は弱火。

焦らず、急がず、玉子が息をする時間を待つ。

玉子は強く押さえつけてはいけない。

空気を抱き込むように巻けば、ふわりと仕上がる。

「関西風って、優しい味ですね」

クゥーが笑いながら言った。

「だしが主役だ」

ロクは短く返した。

少しだけ、バターにマスタードを混ぜる。

辛さはほんのわずか。

玉子の甘さを壊さない、静かなアクセント。

パンの上に薄く伸ばし、味をそっと支える。

クゥーはそれをじっと見ていた。

「これ、いいバランスですね!」

ロクは何も言わなかった。

焼き上がった厚焼き玉子を、静かにパンで挟む。

常連がぽつりと言った。

「やっぱり、こっちの方が好きだな」

その声は、厨房の光の中に溶けていった。

(厚焼き玉子のマスタードバターサンド)

午後の厨房は、まだ静かだった。



本日の注意書き】
・話はだいたい本当、たまに玉子くらい静かに盛る
・焼きすぎると、だしが少しだけ拗ねます
・午後はだいたい、理由もなく静かです


次回