17皿目 黒船ラスク|静かな午後の厨房で | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

                 静かな午後の厨房で

黒船のラスクは、カステラ生地をじっくり焼き上げた、軽い食感とやわらかな甘さがある。

窓際の席で本を読んでいると、厨房から小さな音が聞こえた。

「……また何かやってるな」

ロクは静かに顔を上げ、ラスクを一枚、丁寧に裏返す。

「焼いてるの?」

「少しだけだ」

「温めすぎると優しさが消える」

「理屈だね」

「理屈だ」

クゥーが勢いよく顔を出す。

「ラスクをスープに浮かべたら面白くない?」

「理論上は可能だ」

「暴れる料理ほど面白いんだよ!」

「厨房がな」

私は笑いながら言った。

「コーヒーと一緒に食べるくらいが、ちょうどいい」

クゥーは少し考えて、それからにやりと笑う。

「じゃあ今日は七割成功のやつ!」

砕いたラスクが、カフェラテに落ちた。






香ばしい匂いが、静かに広がる。

しばらく誰も何も言わなかった。

「……悪くないな」

ロクがぽつりとつぶやく。

私は本を閉じ、ひと口だけラテを飲む。

小さな甘さが、午後の光に溶けていった。

ラスクの優しい甘さが、静かな時間に寄り添いますように。

まあ、うちはこんなもんです。
お腹も心も、また明日で。
 
第18話  えっ? 嘘やろ……
― 本日のおすすめ、閉じ込められる ―