静かな午後の厨房で
黒船のラスクは、カステラ生地をじっくり焼き上げた、軽い食感とやわらかな甘さがある。
窓際の席で本を読んでいると、厨房から小さな音が聞こえた。
「……また何かやってるな」
ロクは静かに顔を上げ、ラスクを一枚、丁寧に裏返す。
「焼いてるの?」
「少しだけだ」
「温めすぎると優しさが消える」
「理屈だね」
「理屈だ」
クゥーが勢いよく顔を出す。
「ラスクをスープに浮かべたら面白くない?」
「理論上は可能だ」
「暴れる料理ほど面白いんだよ!」
「厨房がな」
私は笑いながら言った。
「コーヒーと一緒に食べるくらいが、ちょうどいい」
クゥーは少し考えて、それからにやりと笑う。
「じゃあ今日は七割成功のやつ!」
砕いたラスクが、カフェラテに落ちた。
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香ばしい匂いが、静かに広がる。
しばらく誰も何も言わなかった。
「……悪くないな」
ロクがぽつりとつぶやく。
私は本を閉じ、ひと口だけラテを飲む。
小さな甘さが、午後の光に溶けていった。
ラスクの優しい甘さが、静かな時間に寄り添いますように。
まあ、うちはこんなもんです。
お腹も心も、また明日で。
第18話 えっ? 嘘やろ……
― 本日のおすすめ、閉じ込められる ―
