少しだけ、甘すぎた。
黒船のラスクは、カステラ生地をじっくり焼き上げた、軽い食感とやわらかな甘さがある。
窓際の席で本を読んでいると、厨房から小さな音が聞こえた。
「……また何かやってるな」
ロクは静かに顔を上げ、ラスクを一枚、丁寧に裏返す。
「焼いてるの?」
「少しだけだ」
「温めすぎると優しさが消える」
「理屈だね」
「理屈だ」
クゥーが勢いよく顔を出す。
「ラスクをスープに浮かべたら面白くない?」
「理論上は可能だ」
「暴れる料理ほど面白いんだよ!」
「厨房がな」
私は笑いながら言った。
「コーヒーと一緒に食べるくらいが、ちょうどいい」
クゥーは少し考えて、それからにやりと笑う。
「じゃあ今日は七割成功のやつ!」
砕いたラスクが、カフェラテに落ちた。
香ばしい匂いが、静かに広がる。
しばらく誰も何も言わなかった。
ロクがひと口飲む。
「……少し甘いな」
私は本を閉じ、ひと口だけラテを飲む。
午後の光が、カップの縁でゆっくり揺れていた。
⸻
【本日の注意書き】
・甘さはだいたい正義ですが、たまに過剰です
・温めすぎると、優しさが逃げます
・午後は判断が少しだけ甘くなります
⸻
次回
