ロクのレシピノート』
ページの端が、少しだけ丸まっている。
使っているノートは、だいたい角から傷む。
ロクは静かにレシピノートをめくっていた。
くぅーが横からのぞき込む。
「それ、例のやつ?」
ロクはページの下半分を指で押さえた。
「設計図は見せない」
「けち」
「再現性は秘密でできてる」
そう言って、上半分だけを見せる。
今日は、その参考ページの話だ。
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ロクが参考にしたノートページ。
貼られているのは、
作州黒豆ロールケーキの設計メモ。
分量より先に、方向が書いてある。
手順より先に、考え方がある。
味の軸。
軽さの理由。
豆の扱い。
数字はあとから乗せるものらしい。
ノートの余白メモ。
・軽さは正義
・甘さは輪郭を作る
・豆は主役だが暴れる
・止めると割れる
・足しすぎない
くぅーが言う。
「これ、分量も書いてあるだろ」
ロクはページを閉じた。
「そこは後日だ」
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■ 設計の考え方(ロク流)
このロールケーキは、
“うまく作る”より先に
“壊れない設計” が優先されている。
家庭での失敗は、だいたい同じになる。
・巻きで割れる
・甘くなりすぎる
・豆が沈む
・断面が崩れる
だからノートは先にこう書く。
形を作れ。味はあとから乗る。
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完成イメージ。
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■ ノートからの教え
味を足すな。
味を並べろ。
盛るな。
設計しろ。
偶然に頼るな。
再現させろ。
ページの最後に、赤で丸がついている。
再現性は偶然じゃない。
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ロクはノートを閉じた。
くぅーはまだ納得していない顔をしている。
「で、結局、分量は?」
ロクは答えない。
次のページに指をかけただけだった。
そこには、まだ火を入れていない名前が書いてあった。
14皿目 歌舞伎揚げの日 サクサクで、日常に小さな驚きを。

