―厨房の流行りは入れ替わる ―
いらっしゃい。町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂
今日は仕込みより先に、時代の話をしています。
クゥーがスマホを見ながら首をひねっていました。
「ロクさん」
「なんだ」
「ぺタ、無いです」
「何がだ」
「ぺタです。跡形もないです」
昨日まで“気づかなかった”と反省していた対象が、今日は存在ごと消えている。展開が早い。
「昔はあったんですよね?」
「流行りは入れ替わる」
とロク。
包丁は止まらない。言葉は短い。
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クゥーはちょっとだけ肩を落とす。
「じゃあ、あの全力反省は」
「無駄じゃない」
「恥ずかしさは」
「だいたい栄養になる」
「どこにですか」
「次の動きにだ」
語り手の心のメモ:たぶん今いいこと言ったつもり。
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厨房にも“昔はあったが今はない”が山ほどある。
山盛りバター。
とりあえず強火。
気合いで煮込み。
根性で乳化。
だいたい消えた。
理由:焦げるから。
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クゥーが余り野菜を見て言う。
「でも、来てくれた人がいたのは本当ですよね」
「ログは残る」
「足あとは消えても?」
「皿は出した分だけ減る」
ロクはこういう言い方をする。料理語でしかしゃべらない男です。
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「じゃあ、これからはどうします?」
とクゥー。
「味で返せ」
「シンプル」
「それ以外あるか」
フライパンに油。
音が立つ。
流行りの機能は消えても、腹は減る。
うまいものはだいたい残る。
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昔あった仕組み。
今ないボタン。
消えた合図。
それでも、見に来てくれる人はいる。
読んでくれる人もいる。
それで十分、店は火をつけられる。
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営業日は気分次第。
味の保証なし。
話はだいたい本当、たまに盛る。
クレームはクゥーが聞いて、ロクが無言で火加減を直します。
またふらっとどうぞ。
看板は古いですが、火はまだ生きてます。🍳
第13話『ロクのレシピノート』
――再現性は偶然じゃない。」