12皿目ペタっ……昔はあったが今はない | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。


―厨房の流行りは入れ替わる ―

いらっしゃい。町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂
今日は仕込みより先に、時代の話をしています。

クゥーがスマホを見ながら首をひねっていました。

「ロクさん」
「なんだ」
「ぺタ、無いです」
「何がだ」
「ぺタです。跡形もないです」

昨日まで“気づかなかった”と反省していた対象が、今日は存在ごと消えている。展開が早い。

「昔はあったんですよね?」
「流行りは入れ替わる」
とロク。

包丁は止まらない。言葉は短い。


クゥーはちょっとだけ肩を落とす。

「じゃあ、あの全力反省は」
「無駄じゃない」
「恥ずかしさは」
「だいたい栄養になる」
「どこにですか」
「次の動きにだ」

語り手の心のメモ:たぶん今いいこと言ったつもり。


厨房にも“昔はあったが今はない”が山ほどある。

山盛りバター。
とりあえず強火。
気合いで煮込み。
根性で乳化。

だいたい消えた。
理由:焦げるから。


クゥーが余り野菜を見て言う。

「でも、来てくれた人がいたのは本当ですよね」
「ログは残る」
「足あとは消えても?」
「皿は出した分だけ減る」

ロクはこういう言い方をする。料理語でしかしゃべらない男です。


「じゃあ、これからはどうします?」
とクゥー。

「味で返せ」
「シンプル」
「それ以外あるか」

フライパンに油。
音が立つ。

流行りの機能は消えても、腹は減る。
うまいものはだいたい残る。


昔あった仕組み。
今ないボタン。
消えた合図。

それでも、見に来てくれる人はいる。
読んでくれる人もいる。

それで十分、店は火をつけられる。


営業日は気分次第。
味の保証なし。
話はだいたい本当、たまに盛る。

クレームはクゥーが聞いて、ロクが無言で火加減を直します。

またふらっとどうぞ。
看板は古いですが、火はまだ生きてます。🍳

第13話『ロクのレシピノート』
――再現性は偶然じゃない。」