11皿目「完成は設計で決まる」 | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

        ― 理屈は、最後に味になる

今日は静かな厨房です。
こういう朝は、だいたい結果がいい。現場あるあるですね。

昨日までの散らかりが嘘みたいに、作業台が整ってる。
道具も材料も最小限。

「あ、今日は成功する日だな」って空気が出てます。

今日は完成日。

――――――

「今日は触るな」

ロクが先に言いました。
相手はもちろんクゥー。

「まだ何もしてない」
「する前に止めてる」

予防型指導。
信頼残高はゼロです。

――――――

開いているのはレシピノート。

分量。順番。温度。休ませ時間。
全部書いてある。

「今日は感覚じゃないんですね」
「完成は感覚でやらない」

ロクは言います。

「再現できない成功は事故だ」

強いけど、正論です。

――――――

今回の黒豆ロールの設計テーマは三つ。

・甘さは抑える
・黒豆を主役に戻す
・クリームは支える側

「前回は全員しゃべりすぎた」
「ロールに会議させるな」

味の交通整理です。

――――――

まず生地。
軽さ最優先。

泡は止めない。
粉は入れすぎない。
混ぜすぎない。

「軽さは正義」

ここで決まります。

――――――

クリームは控えめ。
砂糖は減らす。

代わりに入れるのが塩、ひとつまみ。

甘さの輪郭がはっきりします。

――――――

きな粉も少量。
気づかれないくらいでいい。

でも香りの土台になる。

――――――

黒豆はそのまま使いません。

軽く水気を切る。
表面を落ち着かせる。

「豆はケーキを壊す」
「でも主役」
「だから整える」

――――――

巻きに入ります。

止めない。
一気に。迷わず。

「止まると割れる」

今回は本当にその通り。

――――――

巻き終わり。

締まりすぎない。
ゆるすぎない。

「今日は近い」

このコメントが出る日は当たりです。

――――――

冷やします。
待ちます。
触りません。

クゥーが手を出しかけるのでブロック。

「見張り?」
「警備です」

――――――

カットします。

包丁がすっと入る。
いいロールは抵抗が少ない。

断面が出る。

黒豆が均等。
沈んでない。潰れてない。片寄ってない。

ちゃんと主役の並び。




岡山県特産の黒豆「作州黒」を使った、美作地域や津山市周辺で親しまれるご当地ロールケーキ

――――――

「これだ」

ロク、今日は言い切り。

――――――

試食タイム。

クゥーは無言で三口。
成功の合図です。

――――――

甘すぎない。
でも物足りなくない。

黒豆が前。
クリームが支える。
生地がまとめる。

「前と何が違う?」
「引き算」

足しすぎない。
盛りすぎない。

味を並ばせる。
それが設計。

――――――

■ 家庭用ポイントまとめ

・スポンジは軽め
・クリームは甘さ控えめ
・塩をひとつまみ
・きな粉を少量
・黒豆は水分を整える
・巻きは止めずに一気
・冷やしてから切る

――――――

記憶から始まって、
調整して、設計して、完成。

これでこのロールは完結です。

次を考えている顔がもう怖いですが、
たぶんまた、食べます。
次回 12皿目ペタっ……昔はあったが今はない
  ―厨房の流行りは入れ替わる ―