― 小さな穴の静かな光
今日の看板は、蓮根の落とし揚げだ。
丸く、穴が空いて、油で光る。
「揚げ物って…主役になれるんですか?」
クゥーは鍋を覗く。
ロクは無言で鍋を揺らす。
穴から光が透けた。
「穴を生かせば、揚げ物も主役になる」
その一言だけで、クゥーは考え込む。
主役って…揚げ物でも?
穴で決まるのか、光で決まるのか、油で決まるのか。
クゥーは小さくうなずく。
仕込み中、薄切り蓮根を酢水に漬ける。
「クゥー、その厚み…意図は?」
「シャキシャキを残したいんです」
軽く茹でて、ポン酢とゴマで和えるだけ。
少し砂糖を足すと、子どもでも食べやすい。
家庭でもできる簡単小鉢の完成。
買い出しでは、小さな事件。
スーパーで蓮根がラスト1本。
後ろの主婦と目が合った。
戦闘は回避。蓮根、確保。
余った端の蓮根で、小さな味噌和えを作る。
刻んで味噌と混ぜるだけ。名前はまだない。
「新メニューです」
「言い張るな」
揚げるときに、ひとつだけ焦げた。
奇跡的に、味は香ばしく、当たり。
常連が一口食べて、目を丸くした。
「これ、何?」
「…余り物です」
「余り物でこの味か」
無茶ぶりも、意外と笑いに変わる。
揚げ物は火加減が命。
焦がさない、油を飛ばさない。
ちょっとした手加減で、天国にも地獄にもなる。
クゥーは今日も、だいたい成功した。
ロクは無愛想に食べた。
たまに奇跡、たまに焦げ。
それでいい。
暖簾が出る。
揚げ物も、揚げ物以上になる。
…来たら、この瞬間を味わってみてください。
今日も、営業中。
次回