今日の看板は白飯だ。
地味だが、逃げ場がない。
「主役ですか」
「逃げるな」
ロクが炊飯器を開ける前から言う。
米は正直だ。
水と時間と扱い方が、そのまま出る。
「早炊きでいきます」
「却下」
ボタンを押す指を止められた。
「便利は最後に使え」
「最初じゃないんですか」
「最初に使うと、それしかできなくなる」
よく分からないが、戻した。
研ぎは三回。
混ぜすぎない。
白くしすぎない。
「SNSだと透明になるまでやってました」
「それは映像用だ」
包丁より切れ味のあるツッコミだった。
炊き上がりまで四十分。
買い出しのレシートを整理する。
先月より、遥かに全部高い。
「米、また上がりますかね」
「もう上がってる」
「心が追いつきません」
「先に働け」
炊き上がり。
ふたを開ける。
湯気が立つ。
甘い匂いが先に来る。
「すぐ混ぜるな」
「え」
「三十秒待て。蒸気を落ち着かせる」
ちょっとだけ役に立つコツだった。
底から返す。
切るようにほぐす。
押さない。撫でない。信じる。
だいたい成功した。
余った端のご飯で、まかないを作る。
卵と醤油とバター。
名前はまだない。
「新メニューです」
「言い張るな」
ロクは無愛想に食べる。
二口目が早い。
これは、たぶん当たりだ。
常連が顔を出す。
「白飯だけってできる?」
「できます」
「最高のおかずで」
無茶ぶりだった。
塩を出した。
真顔でうなずかれた。
今日の甘味はなし。
でも腹は減った。
暖簾が出る。
白飯は脇役。
でも、いちばん見られている。
今日も、営業中。